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地球鎮守府  作者: 山内海
タサリオンの冥王
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第六十二話 イシキャリナーヴェ攻略戦 大詰





「な! なんぞ? ……世界の終わりか? 地球鯖のダウンか? ……げぇ!! ……? ええー?!」


 瓦礫の中から這い出た魔人相坂は辺りを見回し、崩壊した大手門を見て仰天した。その後上半身を瓦礫に突き刺し、逆さまになっているエリドゥと冥王を見て、もう一度驚きの声を上げる。


「エリドゥ様! 冥王様!」


 魔人は、二人を掘り起こす。


「かーっかっかっか! してやられたのう浩平!」


 魔人に発掘されたエリドゥは、地面に胡座をかき、膝をペシペシ叩いて笑う。


「うーん、すごかったねエリドゥ」


「二人ともご無事か?」


 落ちたショックで兜が何処かにいってしまった浩平は、鎧の埃を払っている。彼は黒いアイパッチで片目を隠している。


「!! 二年(きのえ)組、杉田(すぎた)浩平こうへい!! 」


 三人の背後に伏木は立つ。


「おお、伏木。久しいのう。あれから鍛錬は積んでおるか?」


「?? 生徒会の悪魔ではないか。お前、喋れたのか…?…」


「…………」

 

「そんなことより! 姫はどこだ? 杉田!」


 魔獣の森の師匠と、生徒会のトナカイ人間が同一人物だとは知らない十得は、エリドゥを無視し浩平を睨み付けた。

 はじめから喧嘩腰である。


「……伏木先輩、お疲れさまです。先輩もゲームやるんですね」


『ぶおん!』


 浩平の目の前に十得の太刀が出される。


「杉田……」


 刃先がプルプルしている。


「杉田浩平、姫をどこへ隠した? 杉田浩平、姫をどうした? 杉田浩平! 杉田浩平!! 杉田ぁ! 浩ぅ! へぇぇぇーーーぃぃ!! 姫にぃぃぃぃー、何をぉぉぉぉーー、したァァァァァァァァアア!!」


 十得は太刀を引く。弓を引き絞るかのように。群青色の稲光が刀身に集まる。


「プラズマ示現流。『打ち上げ花火』……」


『ちゅごごごごごご…』


 真っ赤に焼けた鉄塊を水に浸けたような音と、電気溶接機から出る火花のようなものが迸る。


「割り込み! ソード・ブレ…アギャギャギャギャギャーーー!!」


 魔人相坂が、横から十得の太刀を叩き落とそうと、剣を降り下ろしたが、相坂の剣と十得の太刀が接触した瞬間に感電した。


『ちーん。』黒焦げになって転がる魔人。


「ここは電脳遊戯の世界……。ちょっとくらいの乱暴狼藉、仏様も許してくださる!」


 乱暴狼藉を阻止するために、やって来たはずの伏木十得は、敬愛するシタテル姫の恋人を僭称する、杉田浩平との突然の邂逅で、頭のネジが吹っ飛んでしまったようだ。


「天誅ぅぅぅぅぅゥゥゥウウウウウウウ!!!」


 十得は太刀で地面を突き、めり込ませ、地面(ごと)刀を振り上げた。

 稲妻を帯びた無数の石礫が空へと射ちあがる。


 プラズマ示現流 対空迎撃剣技 『打ち上げ花火』とは!

 極限まで帯電した石礫を圧縮電磁加速させ、宇宙空間まで射出し、大気圏突入前の隕石を迎撃する技である!


『ガシッ!!』


「?!」


 しかし十得の太刀は、振り切る前に、浩平の手で止められた。

 浩平の膝からは無数の黒い綱が伸び、ガリバーよろしく地面に足が縫い付けられていた。

 それがなかったら、浩平の体は、衝撃で空に打ち上がっていただろう。


 十分な加速電磁力を得られなかった石礫は、放物線を描き、稲光いなびかりを撒き散らしながら、城門の向こう側へ落ちた。


『ずどどどどどどと、ずどぉぉぉおおおん』


 腹に響く連続爆発音が轟き、街に次々と火柱が立つ。

 先程十得が破壊した城壁のあなから、火山弾のようになった瓦礫が、猛烈な勢いで吐き出される。

 進軍中の攻略軍は、爆炎のくしゃみをブッ放さんと開けた竜の口の中に、ゾロゾロと入り込んだ蟻の群れのようなものだった。

 突然の大爆発を真っ正面から受けた攻略軍は爆風で吹き飛んだ。


「ああああ!」


 浩平は正面を見て驚き、振り向いて驚く。


「あーあ、大破壊じゃのう……。こりゃ、吹っ飛んだ子供達は、寝小便を漏らしとるぞ。」


 他人事のようにエリドゥは言う。


「く! 見廻組が……。杉田ァァァ…貴様のせいだアぁぁ!!」


「伏木よ! いい加減にせい!!」


 水蒸気爆発のようなエリドゥの怒鳴り声で、十得は後ろに吹き飛ぶ。


「お主は少し黙っとれ!」


 エリドゥの手から黒い紐が伸び、伏木を縛り上げる。


「大将! 一体どうしたんだい? みーんな吹き飛ばしちまったよ!」


 御輿が大破し、純白の衣装もビリビリ破けているバンジィか、服の端切れを持ってやって来た。


「あっ、浩平……。」


 バンジィは浩平を認めると、赤い顔をして、服の破れ穴をなんとか隠そうとした。


「バンジィさん。ようこそイシキャリナーヴェへ」


「うん。来たの……」


 急に口数が少なくなるバンジィ。


「おい、相坂。まだ生きとるか?」


 エリドゥは地面で燻る骨に声をかける。


「な、なんとか…、」


 蛇のように身をくねらせて、魔人相坂がニョロニョロやって来る。

 頭蓋骨、延髄、脊髄以外は、すべて灰となってしまった。


「しかし、私がやられないと終わりませんぞ。そこの少年を解放して、私を討ち取らせ、終わらせますか。私は明日も仕事なので、ソロソロ仕舞いとしたいのですが……」


「うーむ……、」


 エリドゥは考え込む。


「どれ、ミスマルを呼ぶか。ソロソロ良いじゃろう」


「そういえば会長と副会長は来てないんですね。……来てたら大変なことになっているんじゃ……」


 浩平が、未だに火の海の、イシキャリナーヴェ市街を見ながら言う。


「姫はいずこ? まさか?! この中に……?」


 十得が青ざめる。


「まだ来ていない。あやつらめ! 外せない用があるとかで、ワシに子供らを押し付けよって。……バンジィ!」


「は、はい!」


 バンジィは、恥じらいながらも、スカートの裾を両手で持ち、拡げる。


 エリドゥは、バンジィのスカートの中に、下から親指と人差し指とを突っ込む。

 エリドゥの手は、片手で人一人掴めるほどの大きさなので、指二本でも、バンジィのスカートが盛大にめくれ上がる。

 バンジィは慌てて裾を伸ばし中身を隠す。


『すぽん!』


 エリドゥが指を引き抜くと、その先に摘まれていたのは、デニムの半ズボンオーバーオールに、半袖シャツ姿の、金髪ツインテ少女だった。

 開口一番。


「ドリモン、ゲットだ、ゲェェェェェ!!」


 空き缶片手に笑顔。

 ワンパク小僧スタイルのミスマルである。

 こみ上げる何かを必死に堪えている。


 エリドゥはもう一方の手の指を、再びバンジィに突っ込む。


『すぽん!』


 今度は、服装が全く一緒で、大人サイズのシタテルが釣れた。


「お、お兄様……。私、限界です。……お、お花を積みに帰らせて…」


 シタテルも何かを必死に堪えている。


「大勝利ー!! ……あれ?」


 空き缶を掲げ、勝利宣言でもしているかのようなミスマル。


「その格好!! 姫様方!! もしやドリモンの大会に出ていたのですが?! ……わたくしが、孤軍奮闘していたと云うのに……」


 骨蛇相坂はプルプルしながらミスマルに言う。


「え!? あ、ああー。えーっと……。ほら、ゲームメーカーのCEO(最高経営責任者)としては、外せなくてねえ。……でね! 聞いて聞いて! 全中小飲料メーカー連合軍を敵に回しても、コ○・コーラは強かった! KO社独り勝ちよ!」


 悪ぶれずミスマルはにこにこ話す。


「マサさんのお店、本陣に薦めたのは私よ。売り上げに貢献したんだから、ゆるして♥げぇ!」


 何かを堪えつつミスマルは骨を拝む。


「ううう、む」


 相坂は唸る。


「姫様! ご無事でしたか!」


 黒い紐でミノムシ状に縛られながらも、十得はシタテルを見て安堵する。


「あ、見廻りの……伏木様ですね。ごきげんよう」 


 シタテルは心ここにあらずという様子で挨拶をする。


「お兄様、大会も終わりましたし、その、そろそろログアウトしてもよろしいですか?」


 若干プルプルしながら立っているシタテルは、浩平を見付けると顔を輝かせ、内股で駆け寄る。

 浩平が顔を寄せると、シタテルは浩平に何事かを耳打ちした。

 浩平は少し驚いた顔をし、今度は浩平がシタテルに耳打ちをする。

 その後目を交わし、頷き合うと、一瞬二人は手を握り、シタテルは離れた。

 離れつつも、名残惜しそうに手だけは離すのが少し遅れる。


 皆はミスマルと相坂の言い合いに気を取られ、その二人のやり取りを見ていたのは、シタテルから目を離さなかった十得だけだった。


「…………」


 十得は目を閉じる。

 十得の心は凪いでいる。

 十得が見た光景は、偶々《たまたま》十得の目に入っただけのもの。

 だが、意味がある。

 十得の人生には意味がある。

 十得は、その光景が、自分がこの世を去るまでに、何度も何度も繰り返し、思い浮かべるものになるような、そんな予感のようなものを感じていた。


「幸多からんことを…」


 十得は口の中でそう呟いた。


「では、失礼します」


 シタテルはそういうと光となって消えていった。


「せっかく呼んだのに、帰っちまうとは」


 エリドゥはあきれ声でそう言った。


「正式のゲェェ、…ムプレイヤーって、組長だけでしょ。ここは十得組長にマサさんを成敗してもらって終了としましょう」


 嘔吐えずきを堪えつつミスマルが言うと、十得はミノムシのまますっくと立ち上がった。


「まあ、拙者はゲームの監視のために参ったので、正式にはプレイヤーとは呼べないかもしれないが、この際致し方なしですな」


 そう言うと、十得は膝を曲げしゃがむ。


「プラズマ示現流、『ダイナマイトキッド』!!」


 十得は膝を伸ばし、相坂めがけてフライングヘッドバットをかます。


『ぐわしゃ!』


 相坂は粉々になり昇天した。


「やれやれ! おつかれさん」


 それが魔人相坂の最後の言葉だった。 


 



 

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