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地球鎮守府  作者: 山内海
タサリオンの冥王
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第六十一話 イシキャリナーヴェ攻略戦 終盤

第六十一話 イシキャリナーヴェ攻略戦 終盤







 攻略軍の本隊は、自体が把握できずにいた。

 致死の瘴気中に入った選抜隊は、いまだに激しく戦闘しているようで、金属のぶつかり合う音は、激しさを増している。


「えぇーい! 中の様子はどうなっているのだ!?」


 古代中国の軍師風の装束を身に纏った男が羽扇をヒラヒラさせながら、誰ともなく尋ねる。


「討伐隊に造反が出たようです。造反者と残存討伐隊で戦闘が発生」


 水晶玉を片手で持ち、顔に近づけ、覗き込みながら魔法職の女が言う。


「霧が晴れます!」


「なんぬーぅ! 魔法は解けるのか! 永続化はハッタリですか!! あの骨ボーン!!」


 軍師は歯噛みをする。


「全軍進軍! 目標はイシキャリナーヴェ都督、魔人相坂!  勝利は目前! 数で押し包めー!」


 羽扇をかざし軍師は命ずる。


 残存兵力は、大手門へ向けて前進を始めた。


 そんな混乱した状況下に、新たにログインしてきた一団があった。


 服装、装備はまちまちだが、腕には『風紀』或いは『見廻』と書かれた腕章を付け、烏合の衆の集まりを掻き分け、隊列を組み整然と行進する。


「ゲームを逸脱する生徒間の過剰な暴力行為などあった場合、即検挙せよ! 同士討ち、仲間割れ、特に地球人と外星人の争いはすべて阻止せよ!」


 ゲームの内容とは関係なく、ネット世界の中までも、規律を正し、節度ある学生行動の模範となるべく、星陵高校風紀委員と、学生有志見廻組は進軍する。


 指揮するは、見廻組組長、伏木ふしき十得じっとく


「おい! 斉藤! 三年(ひのえ)組、斉藤さいとう高敏たかとし!!」


 伏木は、攻略軍の中ほどで羽扇を振るっている軍師を呼び止めた。


「うお!? ……うおっほん。これはこれは伏木氏。どうかしました…」

「か」

「な?」


 急に大声で呼ばれ、軍師斉藤は背中をビクつかせ、慌てて振り向いた。


「ゲームのことはよくわからん。今はどうなっているのだ?」


「んふふふ、いよいよ最後の一手ですぞ! 魔人の投了も時間の問題……か、と」


 なかなか腹立たしい物言いの軍師斉藤。


「だから、ゲームの事などどうでも良い! 本日は下照姫がこちらに参るという情報があったのだ。どこに御座おわす?」


 刀に手をかけそうな勢いで、十得は問い詰める。


「んんー? 判りかねますなぁ、そうだ! 我らが戦巫女いくさみこ白蓮びゃくれんのバンジィ様なら何かご存知かも、と」


「そのバンジィと云う方は何処いずこ?」


「あれ、あそこの御輿みこしの中に、」


 軍師斉藤が羽扇で指し示す先には、屈強ムキムキ黒テラテラの男8人が、恭しくも担ぎ上げる金ぴか御輿に、デーンとふんぞり返る、褐色銀髪の、衣装だけは純白清楚な巫女が乗っていた。

 

「ウィー。アタイバンジィ。アンタ誰? イエァ」


 会話を聞き付けたバンジィは、御輿の担ぎ手の頭を素足で踏むと云う、銀河惑星連合憲章を踏みにじるような操作方法で御輿を操り、十得の前まで来た。

 しかし、黒テラテラ達の生き生きとした顔!


──うっ……、これまた面倒臭そうな一団だな。


それがし、見廻組の伏木と申す。本日下照姫がこちらにいらっしゃるとの情報を得、護衛の為に一隊を率いやって来た。姫は何処?」


「んんー? シタテル嬢ちゃんなら、この城門の向こう。街の中よ。だって、このゲームって、嬢ちゃんを取り返すって筋書のはずよねぇ」


 不遜な感じだったバンジィの表情が急にくもる。


「……姫に変装したアタイがヘマしてねえ…、ややこやしい話になっちゃったのよ。お陰で一回だけの筈が、ずーっと手伝うハメになっちゃって…、ぐんぐにーるが悪いのよ……」


「左様か…。では失礼! 早速姫の元へ赴かん!」


 知りたい情報を得た十得は、挨拶もソコソコに先を急ぐ。


「あら。いっちゃうの? なんなの? 姫、姫、って。追っかけぇ?」


 走り去る十得と、風紀見廻組の背中を横目で見つつ、バンジィは呟く。


「致し方ないこと。かの十得氏は、学園では『下照親衛隊』の隊長なの、で、す、か、ら!」


「ふーん。…でもねえ。アレはシタテル嬢ちゃんのタイプじゃないね」

 

「え? では、シタテル姫はどのような男性が好みなんですか?」


 白蓮のバンジィと軍師斉藤が、何故か恋バナを始めようとした矢先、


「イリェェェェァァァァァァァァーーーーー!!!!、」


 素頓狂すっとんきょうな十得の猿叫えんきょうが響く。


『ドッギャァァァーーーン』


 大門の前で爆発が起こり、顔が仰け反るような衝撃がバンジィの元まで届いた。


「プ、プラズマ示現流!」


 バンジィが驚きの声をあげる。

 

「使いこなす地球人がいるなんて……」


 打ち上げられた岩礫が、ドスンドスンと降ってくる。

 遅れて大量の骨がパラパラと降ってきた。




『良いか少年。ワシの使う剣は、降ってくる隕石を打ち返すためのもの。下から上に振り上げる剣術じゃ…』


 十得は、魔獣の森に住まう師匠の言葉を思い出す。

 濃い霧に覆われたある朝のこと、学園内で朝稽古の走り込みをしていた十徳は、学園の敷地に広がる、大型、凶悪外見型の外星人が住まう、人呼んで『魔獣の森』でプチ遭難し、さ迷った挙げ句、エリドゥの小屋にたどり着いたのだ。


『ワシの腕力で太刀を上段から降り下ろすと、剣に引かれて体が逆上がりのように蹴り上がってしまう。だからな、地面が確かならば、足を踏ん張ってすくうように振り上げるか、走り込んで足を止めず振り回すしかない。宇宙船なら足を固定できるのだがな』






 十得は、たまたま人間の姿で、剣術の修行をしていたエリドゥと出逢い、剣術を教わったのだ。


──師匠の話を聞いた時、『この人ナニ言ってるんだ?』と思ったが、仮想世界の中では、師匠のデタラメな剣術の真似事が出来るのか!!


 未だに降り続ける骨の雨の中、十得は抜き放った剣を持ち一人立っていた。


 目の前の城門は、スプーンで食べている途中のスイカみたいに、城壁の一部を含め大きくえぐれ、崩れ落ちた石組は、つい先程まで魔人が死闘を演じていた門の前の広場を、骨と石とで埋めてしまった。


 城門の上にあるやぐらで、偉そうに観戦していたエリドゥと冥王は、問答無用の大破壊に巻き込まれ、崩れ落ちる石と共に地面に投げ出され、下半身だけ飛び出した『犬神家』スタイルで地面に突き刺さっていた。





 話は少し遡る。


 冥王の『堕落』の魔法を受け、造反した幽霊騎士と九人の幽鬼は、討伐隊に襲いかかり、たちまち激しい戦闘となった。


 冥王軍の10人は、150人の女神軍を相手に、一歩も引かぬ。


 そこへ、骨と武器を補充した魔人相坂とシルヴィ・ヴァルカン(骨)が加わると、戦況は防衛側に大きく傾いた。


 まるで、入念に打ち合わせでもしたかのような連携で、討伐隊は次々討ち取られてゆく。


「阿修羅観音!! 不退転!!」


 スケルトン系補助スキル『阿修羅観音』で、腕を4本追加した魔人相坂は、移動できない代わりに、攻撃力と攻撃速度をあげる、格闘スキル『不退転』を再び使い、足を地面にめり込ませ、骨にあるまじき敏捷さで6本の剣を振るう。

 

「割り込み! 難攻不落!!」 

「割り込み! 暖簾に腕押し!!」


 移動できない魔人の代わりに、一切の攻撃を引き受けるシルヴィは、初期装備の、身の丈ほどのタワーシールドが破壊されたので、拾ったカイトシールドを二つ、それぞれの手に持ち、攻撃に割り込む。


「移動できないんだ、魔人は放っとけ!」


 疲労の色が濃くなった剣士が叫ぶ。


「アホか! あいつを倒さないと終わらないんだ!」


 二の足を踏む討伐隊の背後に、幽霊騎士と首輪の幽鬼が襲いかかる。


「ぐ……、このままでは全滅……」


「飛び道具の支援は無いの……か!」


 鉄床と槌に挟まれたような格好の討伐隊は、とうとうすべてリタイアしてしまった。


「シルヴィ! 終ったぞ、シルヴィ」


 防衛隊も無傷ではなかった。

『不退転』を解除した魔人は、バラバラにされて地面に転がるシルヴィの頭蓋骨に駆け寄る。


「マサさーん……、先に落ちます。お夜食作っとくね……、がくっ」


 シルヴィは光の粒子となり天に上っていった。


大悪尉だいあくじょう殿……。我等もここまでのようです、ご武運を……」

 

 幽霊騎士と九人の首輪の幽鬼達も、戦いが終わると解放される事になっていたようで、次々と消えていった。


 冥王のかけた『致死の瘴気』も晴れて、大門の前に立つのは魔人相坂だけである。


 攻略軍の残存兵、およそ350人がこちらに向かっている。金属の触れ合う音と、地響きが近づいてくる。


「ふーむ。散々暴れたし、こんなところか……」


 魔人は、地面に転がる装備品から、刃こぼれの少ない幅広の剣と、シルヴィが最後まで使っていたボッコボコのカイトシールドを拾い装備した。


「ィィィィィィィィーーー」


「? なんぞ?」


 攻略軍の中から一人、学生服姿で刀を肩に担いだ男が、突出して駆けてくる。

 奇妙な金切り声をあげながら。


「おお! 先駆けご苦労! 遠巻きの中にも少しは骨の有る者が残っていたか! 相手をしてやる! かかって……」


「ィィィイイイイリリリリーー!!!」


 男は魔人を見ていない。

 城門を見ている。


「あれ? おい!」


「リリリリェェェェェェーーーーー!!!」


 魔人の横を駆け抜け、刀を肩から外し、逆手に持ち地面スレスレを走らせる。 


「ァァァァァァァァアアア!!!!」


 そのままの勢いで空に向かって刀を振り上げ、勢い余って一回転する。

 剣先から、漫画みたいな衝撃波が放たれ、習字で勢いよく書いたみたいに『し』の字の形で、城門にぶち当たる。


 当たった部分は爆散し、爆散した部分の上は、轟音と共に崩れ落ちた。


 魔人の立っていた場所も、瓦礫に埋まってしまった。




 

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