第六十話 イシキャリナーヴェ攻略戦 中盤
「あぎゃーーーー!!」
光弾の連続攻撃を喰らい、光輝く珍妙なクリスマスツリーみたいになっている魔人相坂。
「……ぬうぅぅ、おのれ! 飛び道具とは卑怯なり!」
相坂は骨を振り回し抵抗するが、神聖魔法で強化された矢や石礫は、容赦なく魔人に突き刺さる。
とうとう全ての追加兵装と下半身を失い、魔人相坂は地面に這いつくばった。
魔力チャージ弾が無くなったのか、誤爆を避けるためか、再び援護射撃は沈黙した。
「ぐぬぬぬぬ、シルヴィ! シルヴィ! 無事か?」
シャカシャカと腕を使い、辺りを這いずり回りながら、魔人はシルヴィを探す。
「あううー、……マサさーん…」
鎧も剣も盾も失い、骨格標本そのものとなったシルヴィは、何故か胸と股間の辺りを手で隠しながらよたよたと相坂の方へ歩いてくる。
「マサさーん…、わたし、もうスッテンテンだよぉー」
「ソクラテスはどうした?」
「これ……」
シルヴィは、片手で持ち、胸を隠すのに使っていた頭蓋骨を見せる。
頭蓋骨は光の粒子となり天に帰ろうとしている。
「ソクラテス! 無惨な姿になったもんだなぁ…」
「て、店長…、時間外手当て、……よろしくお願い……します。ム、ムネンアトヲタノム……」
ソクラテスは 昇天した。
「マサさんも、ハンブーンになっちゃって、かわいそうにねぇー。なでなで……あっ! チョッと待っててね。わたし、マサさんの骨、拾って来るからね。つまりね『安心しろ! 骨は拾ってやる』だねぇ」
そう言うと、シルヴィはメギドの丘を目指して乙女走りで駆けて行く。
しかし、少しも進まぬうちに、遠巻きに魔人を囲んでいた討伐隊に、追いたてられ、何本もの槍で背中から突かれた。
「シルヴィ!!」
駆けつけようとした相坂は斧戦士に行く手を阻まれる。最初の選抜隊として、相坂に斬りかかった戦士だ。
「さっきはよく虚仮にしてくれたな!! 」
地面をのたうつ相坂の頭蓋骨を足で踏み、木こりが丸太を切断するときのように、背骨を目掛けて斧を撃ち下ろさんと振りかぶる。
「やっと捕まえた! これで俺は王だ!!!」
その時である。
骨山に潜り込んで身を潜めていた冥土のメイドが、骨を抱いて一斉に飛び出し、突進した。
「挺身! 挺身! 我等ヤシン家メイド隊! 挺身するは我にあり!!」
「メイド達よ…撤退せなんだか…」
踏みつけられたまま、相坂は呻く。
「メイドを止めろ!」
斧戦士の号令で、選抜隊は再びメイドに襲いかかる。
「きゃー!」
メイド達は誰一人相坂の元まで辿り着くことはできず、次々討ち取られてしまった。
「う! ううう!」
突然相坂を踏みつけている斧戦士が苦しみだす。
何故か、メイドを討ち取った者達も、同時に武器を取り落とし、悶絶する。
「グゲゲゲゲゲゲー! 愚か者が…。今まさに打ち倒し、足元に横たわるそのメイド達。彼女らが、お前逹に何をした!? お前逹に刃を向けたか? 慈愛友愛を重んずる女神が、お前逹の行いを喜ばれると思うか?! ……お前逹から女神の加護は失われるぞ!! ははははははは!」
斧戦士の足から解放された相坂か、寝転びながら高笑いをする。
「はっ、阿呆か。んな事言って戦争出来るか……」
苦しみながらも、斧戦士は悪態をつく。
その時、城壁の上から光が差す。タサリオンの冥土と大悪魔エリドゥが背を向けて立っていたが、二人同時に振り向いて、太陽を背にこう言った。
「「イエス! フォール・イン・ダウン!」」
エリドゥが言う。
「さようなら女神軍!」
冥王が言う。
「ようこそ冥王軍へ!」
苦しむ選抜隊は、黒く輝き出す。
ゲーム開始当初、ほとんどのPCの姿は、現実世界のものを模していた。だが、ゲームをやり込んだプレイヤーは、外見や声を変えたりする事を覚え、姿を自分好みに変更しだした。
イシキャリナーヴェを守護する、冥王の臣下魔人相坂も、現実世界では30過ぎの痩せぎすの男であるが、今の姿は武装したスケルトンである。
魔人に挑む戦士達も、金髪イケメンだったり、ムキムキマンだったり、恐らく各々が思い描く、ヒーローの姿をしているのだろう。
しかし、名は体を表す。
心掛けが、陣営を表す。
なりふり構わぬ選抜隊の行いが、エレヒでPCを監視している。レムル人とエリドゥの目に留まり、彼らは更正のため、冥王軍に編入されることになった。
「グガゲゴゴ! なんだ?! この沸き上がる冥王への忠誠心は!?」
9人のメイドを刃にかけた9人の戦士達と、相坂を足蹴にした斧戦士の周りでは、黒い霧が濃さを増し、姿を見通せなくしている。
「宗旨替えの餞じゃ、受けとるが良い。我は人を漁る漁師じゃ!」
エリドゥが首に付けている物に似た、黒革のベルトに銀色の鋲が打ってある首輪が投げ付けられる。
元より黒い霧の中、逃れる術はない。輪投げの的の如く。首輪を頭からスポスポと被る堕落戦士たち。
それらは孫悟空の金輪のように首元でギュッと締まった。
「春の集中講習! 冥王軍の心得!」
エリドゥの手元から堕落戦士達の首輪目掛けて、怪しげな紫色の稲妻が走る。
「ほげげげげげげ、がげげがげげげ」
漫画の感電人間のように、骸骨が透けて見える堕落戦士達は、見事なシンクロ率でホネホネダンスを踊る。
実は、この時、堕落戦士達の体感時間は引き延びされ、実習と座学で、先の行いの反省会や冥王軍の心得、団体行動時の規律やポーズ等をじっくりと学ぶ。
「何が起こっているんだ……」
瘴気の外にいる、援護組は無論、瘴気の中の討伐隊ですら、相坂の周りで何が起こっているのか把握できないでいた。
「マサさーん、これ! マサさんの下半身めっけたよー。あっ! でも、ちょっと足りなかたから、骨のお山から足したよー」
体に槍が何本も突き刺さったままのシルヴィが、相坂の下半身の骨を持って、ヨタヨタと帰ってきた。骨の体なので、槍はシルヴィの骨と骨の間を抜けて、引っ掛かっているだけで、特にダメージは無かったようだ。本人も槍で突かれたこと自体判っていない様子。
相坂の近くには、黒いローブ姿のミイラ剣士が9人、マント姿の黒い鎧武者が一人立っていた。その武者の足元に、上半身だけの魔人相坂が転がっていた。
「ありゃー? あなた逹は?」
相坂の横に座り、頭を抱いているシルヴィは首を傾げて尋ねる。
「先程は大変失礼を……。我等今日今より冥王軍に加わりました『首輪の幽鬼』9人と私は『幽霊騎士』でございます」
マントの下は、ミイラのような乾燥死体の首輪の幽鬼逹は、一斉に剣を捧げもつ。
「我等の奉公受け給え」
「うむ。励めよ」
下半身をシルヴィにくっ付けてもらいながら、魔人相坂は答える。
「では手始めに、まわりの不心得者共を海まで追い立てましょうか」
幽霊騎士が禍々しくなった斧を手にする。
「全くよく馴染む。始めからこちらに与すればよかったものを……。さあ! 新しい君主に我等の力見せる時ぞ! 懸かれい!!」
幽霊騎士と9人の幽鬼は、円上に拡がり、人垣に襲いかかった。




