第五十九話 イシキャリナーヴェ攻略戦 序盤
第五十九話 イシキャリナーヴェ攻略戦 序盤
「今の魔法ぶっ放したのは、城門の上のアイツか?」
「おい! なんか上にヤバそうなのがいるぞ」
「この黒い煙、解析は出来たか?」
「『致死の瘴気』……10レベル以下のPCは、毎分一回の致死判定……。失敗すると即死……」
「え、エグぅ……」
「ちっ、オコボレにあずかろうと思ったのに、近付くことも出来ないのか……帰ろ…」
「いや、まて。10レベル以上の戦士職で討伐隊を編成し、近接戦闘を仕掛ける。10レベル以下は回復と遠距離攻撃をしてくれ!」
「討伐者は王侯に封ぜられると運営から発表があったぞ。俺たちをダシにするつもりだろう!」
攻撃軍は黒い煙の前で言い争いをするばかりで、いっこうに攻撃を仕掛けてこない。
魔人相坂はイライラしながら待っている。
「ぎゃー!!」
不意に南の城門前から悲鳴が上がる。
イシキャリナーヴェの大手門は、海のある東方を向いている。
隠密職の一隊が、別門からの侵入を試み、冥王とエリドゥの城壁からの攻撃で、返り討ちにあったようだ。
「ふ。わざわざヘルモードに挑みに行くとは、酔狂酔狂」
魔人相坂はせせら笑う。
「どうした、このまま終了まで、そこでピヨピヨ話して終わりか? 学生とは暇なこと、羨ましい限り。ちなみに、この瘴気は冥王様のお力により永続化されておる。待っても晴れぬぞ」
「お、おのれ! 言わせておけば! 神職! 聖魔力附与!」
最前列にいた、気の短そうな弓戦士が得物を掲げると、後ろの武神主が呪文を唱える。
「物怪を引倒してぞ梓弓 引取りたまえ清の聞神」
弓戦士の弓矢が退魔の光を放つ。
「足踏み」
「胴造り」
「弓構え」
「打起し」
「引分け」
「会!!」
「スナイプショット(レベル3)」
現世では弓道部に身を置く弓戦士は、射法八節を守り、弓を引き絞り、聖なる光の一撃を射放った。
『パッキャーン』
矢は的を過たず、魔人相坂の頭蓋骨を粉砕した。
「なんだ、虚仮威しかよ!」
ボスが鎧袖一触ならば、取り巻きなど、推して知るべし。
攻略軍は掃討戦に入るべく、討伐隊に前進を指示する。
魔人は頭部を失い、立ったままである。
「ありゃー! マサさーん!」
スケルトン兵がおろおろしながら魔人相坂に抱きつくが、魔人は頭の無いまま、「えぇーい、シルヴィ! 離れとれ!」と足蹴にする。
「冥土のメイドよ! カルバリ山から替えを持ってくるのだ!」
何処から発声しているのか不明だが、魔人は冥土のメイドに命令する。
「かしこまりましたわ❤」
メイドは『カルバリ山』から、積み上がっている頭蓋骨を、無造作に一つ掴み上げると、「ほーら、アイサカマン! 新しい顔よ♥」とか言いながら、魔人の頭が有るべき、脛椎の先っちょに突き立てた。
「でってれって、でーれーれー、元気百倍!アイサカマン!! ……って、お前バ○コさんかよ!! 何やらすんだ!!」
頭蓋骨が爆散しても復活し、元気に突っ込みを入れている魔人相坂を、瘴気の中に入った討伐隊は、唖然として見つめる。
「どうしたどうした! 折角ここまで来たんだ、突っ立ってないで、かかってこい!」
ブルース・リーの物真似をしながら、挑発する魔人を、憎々しげに見詰める近接戦士たち。
「くそ! そこまで言われて引き下がれるかよ! 一斉に懸かれ!」
討伐隊、約150人が魔人の周りで人垣を作り、5、6人づつ切りかかる。
「五月雨突き!!」
「斧乱打!!」
「ボーンクラッシュ!!」
「雷光!!」
それぞれが習得したスキルで、魔人に攻撃をする。
「割り込み! タワーシールド防御!」
「割り込み! タワーシールド斧逸らし!」
魔人の左右に控えるスケルトン兵が、大きな盾で魔人への攻撃を遮る。魔人は地面に剣を突き立てたまま、まだ動かない。
討伐隊の選抜隊は、何度か魔人へ攻撃したが、全て、スケルトン兵に妨害された。
「ち! 周りから仕留めろ!」
選抜隊はスケルトン兵から先に始末すべく、攻撃対象を切り替えた。
「ボーンクラッシュ!!」
「ボーンクラッシュ!!」
「ホーリーブラスト!!」
「ボーンクラッシュ!!」
選抜に更に四人加わって、各スケルトン兵に、4人ずつ襲いかかる。
「割り込み! ソードブレイク!!」
ここでやっと魔人は動き、盾の防御が間に合わず、シルヴィ(骨)に、まさに降り下ろされようとしている剣を下段から払い上げる。剣は、二つに折れ、宙に舞った。
「んっふー! マサさーん♥ 愛してりゅー♥」
魔人に助けられたスケルトン兵は、くねくねしながら感謝している(らしい)。
魔人が助けなかった方のスケルトン兵(ソクラテス)は斧の一撃を受け!盾を持つ腕を砕かれてしまった。
「て、店長……。私も助けてよ…」
「すまん。ソクラテス。日頃の行いが明暗を分けたな」
「そんな……、」
冥土のメイドがすかさず『メギドの丘』から腕の骨っぽいものを持ってきて、ソクラテスの砕かれた腕と取り替えた。
「これではキリがない!!」
討伐隊の面々にに焦りの色が見えはじめる。
いくらダメージを与えても、骨を交換して復活してしまうのだ。
「先ずはメイドか……」
血気盛んな者達は、危ない目付きでメイドを見る。
「なんだか、身の危険を感じますわ……」
メイド達は恐れおののく。
「メイドから襲えー!!」
「きゃーーー!!」
人垣から更に人が加わり、メイド達を追いかけ始める。
「おのれ下衆の極みが!! シルヴィ! ソクラテス! メイド達を守れ!!」
「させるか骨ども! こうなったら全員で懸かれ!」
メイドを追う戦士達。戦士を追うホネホネ三人衆。それを追う戦士達。辺りは乱戦になる。
「ぎゃーやられるー!!ボクちゃんを倒したら王様になれるらしいよー、あっ! 次の一撃で昇天するかも! あふぅ!」
大袈裟にヤラレポーズをする魔人相坂。
「と、とどめは俺がぁ!!」
大手門の前でよろめく魔人に一斉に攻撃が殺到する。
メイド達はいつの間にか包囲の輪の外に出ていた。
「何てな、」
「不退転!」
魔人の足が地面にめり込む。
「メイド達よ! 最後の頼みだ! 聞き届けたら後は落ち延びよ!」
「は! はいいい!」
「手当たり次第に私に骨を投げるのだ!!」
「う、ぅわっかりやしたぁー! 親方ー!!」
白刃を掻い潜り、メイド達は次々と骨を魔人に投げつける。
「両面宿儺!」
「八面六臂!」
「阿修羅観音!!」
魔人の頭が、魔人の腕が、どんどんどんどん増えてゆく。
剣は一本しか無いので、追加された腕は骨で武装し、関節が4、5箇所有る、大蛇のような腕を振るって攻撃する。
もはや人の形は留めておらず、相坂は骨で出来たイソギンチャクの様な姿になってしまった。地面から生えているみたいにめり込んでいるので、もはや歩くことも出来ない。
「さあさあ!盛り上がって参りました!! ボーン! ア、ボーン! こっちもボーン! 骨だけにボーン! ナチュラルボーン!」
前衛を片っ端から殴り飛ばしながら魔人相坂は吠えるように言う。
「……手がつけられん! 撤退するか?」
「いや! 今を逃すと次回はまた、城兵が復活するぞ!」
「ヤツは移動できない! 飛び道具を使え!」
「そ、そうか!」
討伐隊は瘴気の外に合図を送り、魔人から距離をとった。
「射かけよ!」
弓戦士の号令と共に、時間をかけて魔力を附与した飛び道具が魔人目掛けて一斉に発射された。




