第五十七話 みんなのコンビニ『サンキュウ』エレヒ港湾局前店
第五十七話 みんなのコンビニ『サンキュウ』エレヒ港湾局前店
「いらっしゃいませ……」
「イラシャイマセ…」
賑やかな店内放送がかかるコンビニにて、お客様が出入りする度に、やや低めの声で挨拶をしている店員と、甲高い声で変な挨拶をするロボットが1体。
「いらしゃいませ…」
「イラシャイマセー」
「……おい、『 ソクラテス』。なんか、イントネーションがおかしいぞ。もう一回言ってみろ。いらしゃいませ!」
「はい。イラシャイマセー」
「……店内放送でも『いらっしゃいませ』と言っているだろう。ソクラテス、キサマロボットの分際で何故、そんなに再現率が低いのか」
「店長、誤解でございます! 私の場合、義体が機械式なだけですので、コンピュータ的な能力を期待されても困ります」
球体と円柱を組み合わせて作られた、人造義体ソクラテスは、逆さまバケツに円い穴を開けただけのような顔をフルフルと振って、遺憾の意を表明する。
店長と呼ばれた痩せぎすの男。相坂正典は、ため息をつく。嘆息の後、クワッと目を見開き、ロボット三等兵に襲い掛かる。
「じゃ、キサマの脳みそはどこに行ったんだ!? 記憶樹に忘れてきたのか?! そのバケツ頭をひっくり返すと、『滑らかプリン』でも入っているのか!?」
相坂はソクラテスの両肩っぽい部分を掴み、揺する。
「あっあっ、止めてください! アッ、ヤメテ、」
首をカックンカックンさせながら、ソクラテスは悲鳴を上げる。
その時、冷蔵保管庫から店員がもう一人カウンターに戻ってきた。
「あらー、マサさん。新人なんですから、あんまり苛めないであげてください。ねー、ソクラッティン!」
金髪ショートヘアーのレムル人である。ソクラテスを撫で撫でしている。 ちなみにフルネームは『シルヴィ・ヴァルカン』
「甘やかすな、シルヴィ。『イラシャイマセー』なんて挨拶通用せん。あと、仕事中は店長と呼びなさい。
「あらあらー。『イラシャイマシェー』? 個性的でいいじゃないのー。『みんな違ってみんなイィィィー』!」
シルヴィは悪の戦闘員みたいなポーズで宣言する。
「個性は要らん! どんなお客さまが来ても、どの時間でも、どの店員が対応しても、同じサービスが提供される。コンビニエンスストアとはそういうものだ! ソクラテス! お客が退いたから、店の外で大きな声で、店の前を通る人に挨拶してこい! 30分だ!」
「イ、イエス! イエース!!」
相坂の迫力に気圧され、ソクラテスは鉄砲玉のように店の外に飛び出していった。
「マサさん…」
シルヴィは相坂の顔を覗き込む。大きな青い瞳には赤面した相坂が写り込んでいる。
「……シ、シルヴィ。そうだ! シルヴィ、KO社のコーラ35缶100箱、コーヒー25缶オリジナル50箱、スポーツ飲料500PET40箱を発注。金曜着で。『ドリモン』仕様のやつだ」
「え? そんなに?」
「週末に『ドリモン』の大合戦がある。KO社対KI社、AS社、SA社連合軍。戦場はエレヒの商業区で、うちはKO社の本陣になるらしい」
「ええー! すごいじゃない?!」
「権利を勝ち取ったSVは得意顔だったぞ。何でも金星のアプサラ人にドハマリしている連中が大量にいて、木曜日に金星からチャーター船が何隻かエレヒに来るらしい。彼らのコーラ好きは有名だから、前評判では不利だがKO社に賭けることにした」
「えー! 賢ーい! すごいすごーい!」
シルヴィはパチパチと拍手をする。
「所で『ドリモン』って何?」
「…………エレヒの『オチム社』って所が開発した、『ドリンクモンスターズ』っていうネットゲームだ」
「ドリンクモンスターズでドリモンね」
「記憶樹を使うから、地球人でプレイしている人はいない。日中に指定されたコンビニやスーパーや自動販売機でジュースを買って飲み干すと、ジュースの種類によって色々なモンスターを召喚する権利が獲得できて、夜に記憶樹の中で再現された仮想空間で召喚バトルをする。自販機や店がそのまま砦や要塞になって、そこを占領すれば勝利」
「ふーん」
「飲み干すっていうのがポイントで、爆買いしても勝てなくなっている」
「お腹タプタプになりそぅ」
自分の引っ込んでいるお腹をさわりながらシルヴィはそう言った。
「ちなみに吐いたら失格」
「そーなんだー。……あっ! アレかな。姫様方週末にいらっしゃるって、『スニャップ!』(エレヒで放映している朝のワイドショー)でやってたのは、その為かな?ミスマル様ゲーム大好きだったもんねぇ」
「いや! 断じて違う。週末は『第六次イシキャリナーヴェ攻防戦』だ! お二人ともそちらに参加されるのだ!」
「あー! あの姫様方が運営してるっていう別のゲームね! マサさんもやっているやつだ!」
「やっている処じゃない。開発から関わっている。ミスマル姫から直々に拝命した城主の役、例え打ち倒されるのが役目だとしても、力の限り殺ってやる!」
死神のような、接客には不適切な薄暗い笑みを浮かべ、帯びてもいない刀に手をかけるような仕草をする相坂。
「こわ!」
シルヴィは相坂にしがみつく。
「よせ、シルヴィ。くっつくな。仕事中だ」
「んふー! 仕事が終わったらいいの? マサさーん♥」
「…………」
「浩平さんとシタテル姫が結婚したら、私みたいなパンピー(一般ピープルの略。70年代に流行った)も地球人との結婚が許可されるんだよー。ねぇマサさん……二番目にならない?」
「……おんなじような事言っている、レム×地バカップルを三組は知っているぞ」
「ダメー?」
「…………? おい。いくらなんでもお客が来なさすぎじゃあないか?」
「ええぇー、今大事なところなんだし。も少し、いいでしょ? 今後の相談、相談、相談ー」
などと言っているシルヴィを残し、相坂は店の外に出る。
店の外では、『イガッシャイマゼー、イガッシャイマゼー』と、謎の呪言を唱えつつ、巧みなフットワークでお客の前に回り込み、入店を阻止しているロボット三等兵がいた。




