第五十一話 酒樽の女王
第五十一話 酒樽の女王
「ぐんぐにーる!」
「ぐんぐにーる!」
「ぐんぐにーる!」
砦へと向かう道中、スライムやら泥田坊やら色々なモンスターが出現したが、全て浩平のぐんぐにーるの餌食になった。
『こうへいはレベルがあがった!』
『こうへいはレベル4になった!ぐんぐにーる(レベル2)をおぼえた』
「………、ゲームバランス的にどうなの?」
天音は浩平が倒した『木人』からドロップした木刀を持っている。
だが、いまだに天音がいくら攻撃しても、モンスターには全然ダメージがいっていないようだ。
「しょうがないニャ、砦に行ったらいい装備を買うことにしようニャ」
「天音…、俺の剣を貸そうか……、」
エリドゥが二本差しの剣のうち短い方を鞘ごと抜いた。
「襟堂晃が佩刀『小太刀 天蝿斫剣
』…、又の名を『星砕き』…、」
エリドゥが鞘から数センチだけ刀を出すと、耳障りな金属音が辺りに響く。
黒光りする刀身から、ビリビリと空気を震わせる波動のようなものが漏れだしている。
「……、やめとくわ、なんか、悪の帝王の武器っぽいわ、耳がキンキンするから早くしまってよ」
「その剣めちゃめちゃ重いニャ、人間持てないニャ」
その時、石のような肌をもつオオトカゲが、下生えをかき分け現れた。
「不意打ち!?」
エリドゥは持っていた剣を鞘ごとトカゲの上に置く。
『ギャ!』
それだけでイシトカゲは圧死した。
「…、ふむ、もう少し鍛えてからか…、空間制御と慣性統制と重力制御を覚えてからの」
「私をどうしたいのよ!」
「エリドゥって武器集めが趣味じゃなかった?なんか昔、橋で通せんぼして剣とか取り上げたりしてなかったっけ?」
「うむ、そう言えば…、何かなかったかのう」
エリドゥは剣を腰に戻し、背中に背負っていた乗用車も入りそうな大きなリュックを下ろし、手を突っ込んでゴソゴソ探し物を始めた。
「これなんかどうだ?重力制御付のトンカチ。ワシが日曜大工で使っとるやつ。ワシの手には小さすぎて、あまり使っていないのじゃ」
「エリドゥ、喋りがいつもの感じに戻ってるよ、」
「む、いかん、これ、トンカチ、使え」
「面倒くさいから、いいわよ普通で、……、それより、これ、柄が太すぎて持ちづらいわ」
「ちょっと貸してみろ」
エリドゥは一度渡したトンカチを再び受けとり、トンカチの柄を両の手のひらで挟み、竹トンボのようにくるくる回した。
すると、トンカチの柄は粘土のように細く延びた。
「ほれ、気を付けろ、熱いぞ」
柄が延びて、学校の掃除箱に入っている『文化箒』の箒部分が、トンカチの頭になったような物が出来上がった。
「あちち!……、」
「名付けて『天音脳天砕き』!!」
「変な名前付けないでよ!!私の脳天が砕けそうじゃないの!」
向こうの方から、骨格の知識が胡乱な人がデザインしたような、適当な感じのスケルトンがやって来る。
「早速使ってみるニャ!がんばれお姉ちゃん!僕はお兄ちゃんの股間を隠すのに忙しいニャ!」
「ぴんちまでみまもる…、」
「がんばれ天音!」
「ずおおおおーっ!!たたかうー!」
三人に見守られ天音は吶喊した。
『すぽこちーん!』
天音がスケルトンの頭めがけてトンカチをフルスイングすると、奇妙な効果音と共に、髑髏部分が、ティーの上のゴルフボールよろしく吹っ飛んでいった。
「おー…、」
空の彼方に消えていった髑髏を見送る三人。
「スカッとした!」
『あまねはレベルがあがった!』
『あまねはレベルがあがった!』
『あまねはレベルがあがった!』
『あまねはレベルがあがった!』
『あまねはレベルがあがった!』
『あまねはレベル6になった!ふるすいんぐ(レベル1)をおぼえた』
いい汗かいた天音が三人の元に戻ると、
「天音さま」
「天音さニャ」
「あまね、…様」
なぜか全員敬語で出迎えた。
「なんだろう。天音に渡しちゃいけないものを渡してしまったような気がしてならない…、」
「さあ、強くなったし、砦に急ぐニャ」
「それはいいんだけど、俺の格好何とかならないの?」
浩平はいまだに全裸のままだった。
「天音お姉ちゃんは『ぬののふく』を装備してるからお姉ちゃんの使っていた『なさけのはっぱ』を借りたらどうニャ?」
「うーん、ないよりマシかな…、」
「あたしが嫌よ!間接キスの悪質なやつになってしまうわ!」
「海で洗うニャ?」
「い!・や!」
「えりりえもーん、何かないのー?」
「うーむ、」
エリドゥは再びリュックをガサガサする。
「これでとうだ?」
エリドゥはリュックから酒樽のようなものを出した。
「なにこれ?」
「ぐっ…、エリドゥ、それは流石に…、」
猫マルの顔色が変わる。
「まあ、こやつらも、戦いばかりでは、気が滅入るじゃろう。たまには遊んでみたいかも知れんぞ。なあ、『プロセヌティーナ』よ」
エリドゥが酒樽に呼び掛けると、酒樽の上に立体映像が現れる。
玉座に座る、気品ある女性の姿が酒樽の上に浮かび上がり、その女王のような女性は笑顔で挨拶をする。
「これは、エリドゥ様。ご機嫌麗しゅう。そちらはアジス様ですね」
「今は、ミスマルニャ…、です…」
「あらまあ!可愛らしい」
プロセヌティーナと呼ばれた女性は優しく微笑む。
「どうだろうプロセヌティーナよ、120兆ほど借りたいのだが」
「差し支えございません。近ごろ戦禍も遠退いておりますれば……私もご同道させていただけますか?」
「お主がか、まあ良いが、お任せしよう」
「ありがとうございます。浩平さんでしたね。よろしくお願いしますわ」
優しい微笑みと共に立体映像は消えた。
「……誰?」
浩平の問いには答えず、エリドゥは酒樽を開けた。
中は黒い液体で満たされている。
「なにこれ?黒くて、モゾモゾしている……、」
「飲め、浩平」
「え?」
「はーい!一気!一気!一気!」
「それ、言っちゃ駄目なやつでしょ!」
「口をつけるだけで良い」
エリドゥに言われるがまま、浩平は酒樽に口を付ける。
『ずろろろろろー』
黒い液体は浩平の口めがけて勝手に入ってゆく。
「おげっ!」
浩平は白目を剥いて倒れ、ピクピクと痙攣している。
「少し余ったな………、天音よ、いるか?」
エリドゥは残り数ない酒樽を天音に向ける。
「この有り様見て『いる』とか言うわけないでしょ!!うぐげ!」
大口を開けて抗議の言葉を吐く天音の口にも、黒い液体は突入した。
「い、イチゴ味………、だと…?」
天音も浩平の隣に突っ伏す。
そうしているうちに、失神している浩平の、体の穴という穴から黒い液体が染みだして、浩平を覆い、それは色を変えて主人公チックで実用性に乏しそうな鎧の形になった。
「ナノマシンをこんなに!……とんでもないことになるニャ…、」
「たかがゲーム、しかも運営じゃ…、やられる度に戻るのも面倒だし、このくらいいいじゃろ。さあ、こやつらがおとなしくしているうちに運び込もう」
エリドゥは失神している二人を担いで先を急いだ。




