第七話 浩平の夢
第七話 浩平の夢
浩平は熱にうなされながら夢を見ていた。
数々の悪夢の中をさまよったといってもいい。
途切れ途切れのようではあるが、それぞれの悪夢には関係があるように思えた。
……太古の惑星に巨大な宇宙船が着陸する。
ハッチが開き、角の生えた人間、レムル人が数人、荒涼とした大地に降り立つ。
有角人に続き、巨大な蟹のような機械が何台も、地上に下ろされる。
レムル人のゆったりとした服には、羽の生えた蛇の紋章が付いている。
有角人の後ろに、角の無い人間が付き従う。
有角人は美しいが表情は皆冷たく、無角人は奴隷として有角人に傅いている。
夢の中の浩平は、無角奴隷の一人として有角人を乗せた御輿のような車を運転する役を仰せつかる。
とぼとぼと歩く無角人の群れの中から、奴隷の一人が不意に離れ、荒野に逃げ出す。
有角人は冷酷な笑みを浮かべながらも何もせず見送る。
かなり離れたところまで駆けていった奴隷は、突然草むらから躍り出た二足歩行の恐竜に噛み付かれ悲鳴を上げて倒れこむ。
恐竜は次々と現れ、倒れた奴隷に群がる。
悲鳴はだんだん細く小さくなっていく。
一箇所に固まって惨事を見ている無角奴隷の群れ。
天音によく似た少女の奴隷は、両手で顔を覆い悲鳴を上げてその場にへたり込む。
有角人の声が頭に響く。
『逃げ出そうとしても無駄な事、逆らうとどうなるかお分かりかな?角無しの諸君』
突然訳の分からない衝動に駆られて、浩平は雄叫びを上げ、転げ落ちるように車から飛び出し、無角人の一団の中に走り寄る。
天音によく似た女性は懇願するような表情で浩平を見上げている。
浩平は彼女の手を引き、走り出した。
他の奴隷達もそれに続く。
恐竜達は哀れな最初の犠牲者を頬張るのに夢中で、追いかけてこない。
このまま逃げ切れるだろうか。
しかしそのとき宇宙船の船体の一部から強烈な光が迸り、浩平は他の奴隷もろとも蒸発してしまった。
場面は変わる。
今度は半裸の原始人の姿。
洞窟の中で一人寒さを凌いでいる。
太陽は突然姿を隠し、何日も上ってこない。
季節外れの雪が降り積もり、地面を覆ってゆく。
地鳴りが止まない。
平地は突然やって来た濁流にすべて押し流されてしまい、たまたま、高山地帯に狩に来ていた浩平は生き残った。
寒い。
しかし、もう燃やすものは無い。
浩平はそのまま眠りに付き、何も分からなくなってしまった。
再び場面は変わる。
大洪水がすべてを押し流した後の、荒涼とした大地に、再び宇宙船が降り立つ。傷だらけの宇宙船。
ハッチが開き有角人が降りて来る。
最初の一人は、アジスをそのまま大人にしたような男。
『災厄』前にやって来た冷酷な有角人ではなく、やさしさと慈しみに満ちた表情の有角の人々が数人続く。
岩陰や洞窟の中から、不安げな表情の無角人間が数人現れる。
有角人は無角人たちを励まし、都市建設をはじめる。
インフラが完成し、それらを維持する知識、農業や家畜の飼育法、医学やその他諸々の生きるための知識を伝えた後、有角人は、傷だらけの宇宙船に乗り込み海に向かう。
傷だらけの宇宙船は、再び宇宙に上がることはなかった。
時は流れ、有角人の教えは、忘れられたり曲解されたりしながら無角人達が自ら身に付けていった知識と入り混じっていった。
有角人はそれからも時々現れる。
海からやってくる彼らは慈愛を説き、共生と融和の大切さを語り、海に帰ってゆく。
しかし時々、人々を毒する、いさかいの種となる教えを残してゆく者もあった。
空から降り立つ訪問者は一部の『見込みのある』無角人に、力なき者を支配する術を教えた。
神を名乗り、選民として他者を虐げる許しを勝手に与え、暴力の使い方や、富を吸い上げ貧しい人を支配する方法を教え、弱肉強食の原理を説いた。
人々は混乱し、言語は乱され、お互いに憎しみあうことを覚えた。
さらに時は流れ、角の生えた人間は『悪魔』だという教えが広まり、有角人の訪問は途絶えた。
しかし、疫病が蔓延したある年のこと、最後の有角人が海から現れ、人々を治療して回った。
角を切り落とし、耳を削ぎ、決死の覚悟で街にやって来たのだ。
しかし、密告者があり、時の権力者は彼を邪教を広める者として捕らえ、民衆の前で処刑した。
それ以降、とうとう有角人は現れなくなった。
少なくとも海からは。
人類の歴史を何世代にも渡り体感するような、気の遠くなるような時間の流れの中、浩平は神々の遠ざけられた残酷な世界で、何度も何度も誕生と死を繰り返した。
場面は再び変わる。
学生服姿のアジスが学校の椅子にちょこんと座っている。
浩平も学生服姿で地球人規格の椅子に座り、アジスと向かい合っている。
「ぼくらは、いろいろな名前で呼ばれたよ。『海より来たりし者オネアス』『翼ある白き蛇ククルカン』『人間に火と知恵を与えし者プロメテウス』『宇宙の知性ブラフマン』……。上古が過ぎ去り、時代が下ってからは『サタン』『ルシファー』『まつろわぬ神アラハバキ』等々……。実際ぼくらは『蛇』なんだ。アダムとイブに知恵の実を食べるようにそそのかした蛇なんだ」
手のひらで蛇の頭の真似をするアジス。
親指を下顎のようにパクパクさせている。
椅子をズリズリさせながら、アジスは近づく。
「話は変わるけど、浩平君は見たことあるかな?野生動物のドキュメンタリー番組」
「まあ、何度か見たことあります」
「親からはぐれた子供のペンギンちゃんやゴマちゃんが『きゅーきゅー』って鳴いても親が見つからなくてさー、かわいそうだよね。カメラを回している人は何で助けてあげなかったのかなぁ」
たぶんアジスにとっては思い出しただけで泣きそうになるエピソードらしい。目を潤ませる。
「自然の摂理に反するからじゃないですか?」
よく考えず、どこかで聞いた、ありきたりなフレーズで答える浩平。
「摂理ねぇ」
胡散臭げな流し目を、浩平に向けるアジス。
「…弱い個体が自然淘汰されて数が保たれて……。すんません。よくわかんないです」
「迷子になっているのが人間だったら?」
「そりゃ、助けるべきでしょう」
「自然の摂理は?」
「そんなの関係ありませんよ、おんなじ人間なんだもん」
「僕達レムル人は? おんなじ人間と思ってくれる? もしも、絶滅の危機に瀕しているのが、この星の人全員で、見ているのが僕たちレムル人だったとしたらどうだろう。助けるのは自然の摂理に反するのかな?」
「突然のことで……、わかんないです」
浩平は答える。
「それじゃあ、僕たちが家族だったらどうだろう? 兄弟や子供に知識を教えてあげるのは、自然の摂理に反するのかな? おなかを空かして泣いている赤ん坊に、親が『弱い固体だから君は淘汰されるんだよ』なんて言ってたらおかしいよね」
「そりゃ、おかしいですね」
「僕は、………。僕は家族になりたい。君や、天音君や、皆と、家族になりたいんだ。もしも、僕達の犯した罪を、君達が赦してくれるのであれば………、」
両手を合わせ、アジスは祈るような仕草でそう言った。
「罪……、ですか?」
「以前に……君は言ったよね、自分達は動物園のサル山のサルだって」
「そんなこと言いましたか?」
「言ったよ。シタテルと『近くにいたら自然にくっついちゃった方式』をやったとき」
「ああ、そういえば、そんなことを口走ったような、」
「僕たちレムル人は、サルより性質が悪い銀河の大逆人なんだ。惑星連合評議会に反旗を翻した謀反人。そして銀河惑星連合が禁止している、『奴隷』を持った星間文明。……地球人は最初、『家畜』としてレムル人によって作られたんだ」
アジスのかわいらしい顔に急に影が射し、太古の夢で見た冷酷なレムル人たちと同じような顔つきになる。
「『角無』は、惑星レムルで生まれた。我々は自分達に似せて君達を作り、汚い、いやな仕事を押し付けた。……しかし、そのうちに、もっと面白い君達の使い方を思いついたんだ。君達に文明を築かせ、僕達は神として君臨する! 気晴らしに痛めつけ、ゲームの駒のように争わせ、見せかけの自由を与え、希望を持った君達を裏切り、絶望のどん底に突き落としてあげたんだ! あはははは! 傑作だったよ! 君達の顔ときたら。信じていた神に裏切られ、恨むやら、うろたえるやら、諦めるやら、媚びへつらい許しを請うやら! 気に入らない生意気な角無が増えて来たら、隕石を落として全部洪水で押し流すんだ。実に爽快だよ! あははははははははは……、」
気が狂ったように笑うアジス。
地球の暴君の生臨ですか?
「………。惑星連合評議会はレムル人に対し、奴隷の即時解放を命じた。『友愛と共生の精神無くば、重力から解放されない。』それが銀河連合の指針だった。レムル人は奴隷を解放するか、星間文明としての技術を失うかの二者択一を評議会から迫られたんだ」
アジスの顔から剣呑さは消え、もとの軽薄小僧の顔に戻った。
「レムル人が奴隷を作り、支配したはずなんだけど、それは逆に言うと、奴隷によってレムル人が主人としての、際限の無い欲を仕込まれていったとも言える。もう奴隷無しで生きるなんて事出来ないと、当時のレムル人は思ったんだ。だから銀河惑星連合に反旗を翻し、戦いを挑んだ。」
合掌するアジス。
その手をぱっと広げると、アジスの前にスクリーンが現れ、映像が映し出される。
山脈のように巨大な(映像なので確証は無いが)宇宙船が何隻も連なり、進軍してゆく。
船団は、宇宙に漂う岩塊を、まるで羊を追う猟犬のように追い立てている。
小惑星の群れはどんどん数を増し、速度も増していった。
艦隊は減速し、極限まで加速された小惑星群だけが銀河系の中心部へ向けて発射される。
しかし、小惑星は幾許も進まぬうちに壁にはじかれたゴム球のように、まったく同じ速度で唐突に反転した。
小惑星の岩塊は、レムルの宇宙船に次々と突き刺さり、あっさりと艦隊は崩壊した。
艦隊の残骸を吸収した小惑星群は、まるで意思がある蛇のようにレムル星に殺到する。
レムル星に残されていた残存艦隊は、小惑星群の進行を阻止しようと防衛線を張ったが、蛇の群れに次々と食い破られ、とうとう致命的な大きさの岩塊がレムルに落ちた。
小惑星は一気にレムル星のマントル層まで突き刺さり、地殻はめくれ上がって水面に石を投じた波紋のように拡がる。
地表の水分は一瞬のうちにすべて気化した。
地上にいたレムル人は、焚き火に落ちた虫のように 燃え尽きてしまった。
アジスが本を閉じるように、両の掌を閉じると映像は消えた。
「レムル人のなかには、奴隷を解放し評議会の意思に従おうとした人たちもいた。その『節士派』と呼ばれた人々も、ほとんどがレムルの没落に巻き込まれ、命を落とした。だけど、ほんの一握りの人達が、銀河惑星連合評議会の警告を受け、脱出に成功したんだ。僕の父さん『ラフム・ナムジン』もその一人」
「その後、節士派の生き残りは、第四殖民惑星レムリアに降り立つ。レムリアはレムル人にとって、角無人を飼育し観察するための『動物園』だった場所。母星を失った節士派は、そのレムリアに、新たに角無し人の文明を築くことにしたんだ」
「節士派は、レムル星没落の時に、『ニライ』と『カナイ』という二隻の船に乗り込んだ。ニライは地球にたどり着いた時に海に没し、最初の地下都市『下エレヒ』の母体になった。カナイは月の裏側に留まり、後に人工天体『上エレヒ』になった」
「何度かの災害に悩まされながらも、角無し人の都市は大きくなり、無角人の数は増えていった。節士派は地下都市を建設し、定期的に調査団を派遣する以外の交流を避けた。…レムル人は種族としては数が少なくなりすぎていたし、人口が新たに増える兆しも無かった。ちょうどその頃、銀河惑星連合の評議会から使節が来訪し、節士派は、銀河惑星連合と和解した。しかし、大逆を犯したレムル人の残党として、レムル人の罪を償う誓いを立てる事になったんだ。レムリアの角無し人を星間文明として正しく導くこと。それを成し得るまでは太陽系の外に行かない事を評議会に誓った。だけど、レムル人の間で起こる意見の食い違いや、銀河系で興る新たな勢力との対立などが、その後のレムリアの歴史を、裏切りと謀略が渦巻く血塗られたものにしてしまったんだ」
「角無人に、悪魔呼ばわりされるようになっても、それでも僕達は地球の地下に隠れ住み続けた………。地球人が月の裏側の『カナイ』を発見するまでは………、」
ここでアジスは口を閉ざし、しばし自分の想いの中に沈んでいった。
「……。ここまでの話を聞いて、何か質問は?」
歴史を講釈する教師のようにアジスは訊く。
「会長は、どうしてそんな昔の事をご存知なんですか?」
「ぼくらレムル人にとってはね、時間という概念が君たちが考えているものとちょっと違うのさ。僕は父であるラフム・ナムジンから没落前の記憶を受け継いでいるんだ。今まで見せた夢も父の記憶と地球人が受け継いで今は封印されている記憶から作られたもの」
「はあ、」
さっぱり判らない。
「『はあ、』か……。まあいいや、」
「ここから後の出来事は、学校でも習ったかもしれないね。地球人と『遭遇した』レムル人は、早速、地球を銀河惑星連合に加盟させるための準備を始めた。地球は連合に加盟する第一前提、『惑星に居住する知的生命体の大多数が参画し、平和裏に統治されている統一国家がある』を、そもそも満たしていないので、加入の前段階である『加盟準備惑星』として多数の加盟惑星の管理下に置かれることになったんだ」
「加入の第一歩として、先ず統一の母体となる国の選出を行った。銀河惑星連合の『階梯基準』という指標で地球の各国を審査したところ、連盟加入基準に達している国家は一国も無かった。世界各国に打診をしても、国家解体、権力の放棄にどの国の政府も応じなかったんだ」
「なので、更なる妥協案として、銀河惑星連合『階梯基準』を元に、宇宙市民としてやっていけそうな個人や家族をスカウトして、日本近海の海底下にある地下都市『下エレヒ』の直上に人工島を作り、そこに住んでもらった。見込みのある地元民に、まずお手本になってもらうためにね」
「近かったせいか、たまたまなのか、移住の打診をしてそれに応じてくれたのは、ほとんどが日本人だった。打診は地球規模で実施したんだけど、それまでの生活を放り出して、宇宙人の占拠した島まで来る人が当時は日本人以外いなかったんだ」
「代わりに各国の、穏やかじゃない目的を持った人達から、多数移住の申請をもらったよ。外交官やスパイの方々ね。技術を盗んだり、身勝手な条約を結ばせようとしたり、色々たくらみがあったみたいで、呼んでもいないのに、押し掛けてきたんだ。丁重にお断りしたら、『やましいところがあるのか』とか難癖をつけてきたから、仕方なく受け入れたけどね。だけど、記憶や人格を簡単に操作改編出来る銀河惑星連合のスタッフ達に、秘密や意図が筒抜けで、かえってスキャンダルとして本国で取り上げられ、政権が倒れる国がたくさん出たんだ。この時期地球は大混乱で、一時期は日本対世界の大戦が起こりかけたんだ」
「緊急の措置として、銀河惑星連合は、地球国家への介入の延期を宣言し、地球側は各国の許可がない限り、『島』以外への外星人の渡航を禁じた。地球人は当面外星人の存在そのものが無いものとして振る舞うことにし、外星人もそれに応じた。日本が鎖国していた頃の長崎の『出島』での対応と同じさ」
「結果、地球の『開星』は遅々として進まず、島を通しての文化交流が細々と行われている状況が続いていた…。今まではね…、」
「ちょっと僕達は呑気にしすぎていたのかも知れない」
「浩平君…、知っているかな…、この星には昔、『アドルフ・ヒトラー』というオカルトオタクの指導者がいたんだ。彼は戦争の片手間で、ヒマラヤの地下にある地底都市を探したり、外星人の中でも柄の悪い連中から、アドバイスをもらったりしたんだけど、戦争の旗色が悪くなってきた晩年に、ある予言を親しい者達に話したんだ。それは、地球人類がどのように進化するかを示したもの」
「彼はこう言っている。人類の一部は全知全能の神のような存在、『神人』となり、残りは自分ではなにも考えられず、神人に感情すらコントロールされる『ロボット人間』になる…、と。彼の言ったことは多分誰かの受け売りだったんだろうけど、一部は当たっていて、一部は間違っていた」
「僕たちレムル人はみんな、『記憶樹』と呼ばれる、意識のネットワークに繋がっていて、記憶や意識の一部を共有している。個人に程度の差こそあれ、お互いの感情や考えが筒抜けになっている。恐らくヒトラーの言っていた『ロボット人間』って云うのは、このレムル人の状態を指しているのだろう。銀河惑星連合に加盟している星間文明国家は、大なり小なり似たようなネットワークを構築し、そのネットワーク同士も、より大きな、『ユニゾン』と呼ばれる、ネットワークのネットワークに接続されている」
「今、こうして僕と浩平君がおしゃべりしているのも、『記憶樹』を介してなんだ」
「一人一人の自我の境界が無くなっていって、やがて全てが『ユニゾン』に統合されてゆく…、」
「だけど、銀河には違う考え方をする人達もいる」
「個人個人が力を持ち、自らが高次の存在となり、力無いものを従え、采配を行う…。そのために、自らはネットワークへ繋がることを拒否する………。アドルフ・ヒトラーが『神人』と呼んだ人達を、僕達は接続拒否主義者『アンプラグド』と呼んでいる。地球は、統合主義者と接続拒否主義者の戦場なんだ」
「この話を聞いて、今の地球の様子をどう思う?地球はユニゾンかアンプラグドか……、」
「アンプラグド……、でしょうか、」
「そうだね。地球の人達は…、日本人だって、自他の境がなくなっていくなんて、とんでもないと考える人がほとんど。浩平君だってそうだろう。この星はアンプラグドの星。弱肉強食の世界。みんな何かを支配して、みんな何かの奴隷なのさ」
「だけどね、ユニゾンの世界は、そんなに難しく考えることじゃないんだよ。家族が物を分けあうように、愛する人の喜ぶ姿に、胸が満たされるように、階段を一段一段上るよう、少しずつ、少しずつ、みんなが一つになっていく。みんなが家族になるんだ」
「地球は今、言葉が乱され、人々は分断されている。だけど少しずつ統合に向かっていると僕は思う。だけど、もう時間がないんだ」
「大昔に、弱肉強食の思想を銀河に持ち込んだレムル星人を滅ぼした蛇神…、破壊の意思を持つ小惑星の群は、その後も銀河をさ迷っている。滅ぼすべき獲物を探し求めて。弱肉強食の思想におびき寄せられているんだ」
「銀河惑星連合からの警告があった。今、地球に蛇神が迫っている。星間文明不適合惑星として地球は『リセット』される」
「会長。つまり、地球に、星が落ちてくるんですか?」
アジスは浩平の顔に手を伸ばし、両の掌でそっと包み込む。
「君の体調が最近優れないのはね、ウイルスに感染しているからだけど、それは、ある意思に沿って意図的に行われているもの。風邪って云うのは程度の差こそあれ、『死なないまま生まれ変わる』脱皮のようなものなんだ。古い君の細胞が炎症を起こし、燃え尽きた後、新しい君の細胞がその不足を補う。僕たちでは手出しができない高次の意思。どうか禍々しい結末にならないように祈るしかない。恐らく君は、地球人類として過去に数例しか起こっていない、奇跡がその身に起きているんだ」
「会長…、なんの事やら…、地球は…、俺って、どうにかなっちゃうんですか? これから」
「………、ところで、また話は全然変わってシタテルの事なんだけど……、」
身を乗り出し、急に話題を変えるアジス。
「えええ?」
「兄の僕が言うものもなんだけど、器量良しで気立てもいい。大事にしてくれるかい? 君は、僕達と家族になってくれるかい?」
「………、はい」
アジスはニンマリ笑う。
「そっか、………。それじゃあ……」
アジスは立ち上がり席のすぐ後ろの暗幕を引っ張る。眩しい光が急に差し込み、浩平は目が眩んだ。




