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地球鎮守府  作者: 山内海
タサリオンの冥王
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第四十六話 星陵高校玄関

第四十六話 星陵高校玄関




 

 ほとんどの外星人生徒は使わない、第二校舎の玄関は、この時間地球人生徒でごった返している。

 エリドゥは肩に担いでいた天音とヴリエを、玄関前で下ろすと、自分は体育館の方に向かった。

 彼は大きすぎて玄関からは学校に入れないからだ。


「でわでわ、お兄ちゃん、放課後までしばしの別れ」


 ミスマル、エリドゥ、ヴリエは三年生。

 浩平、シタテル、天音、は二年生。

 クラスはミスマルとエリドゥ以外みんなバラバラ。

 一年生、二年生は、特別教室以外、地球人と外星人が別々のクラスになる。

 三年生なって初めて地球人生徒と外星人生徒は混合のクラスになる。


 ミスマルは鞄からにゃんこキーホルダーをひとつ外すと、浩平の手にそっと置いた。


「???」

「これを、私だと思って、くんくんしたりしてね」

「???」

「ささ、お別れのチューは?」

「???」

「チューは?」


 瞳を閉じ、唇を尖らかせてつま先立ちで待機するミスマル。


「ミスマル様、浩平さんが困っておいでです。親衛隊の方々もお待ちですし、行きましょうね」


 そんなミスマルを担ぐようにして、ヴリエは言う。


「それでは、浩平さん」


 ヴリエはにっこりと笑顔で挨拶する。


「ヴリエ先輩、良かったですね。学校続けることが出来て」


「はい、タキリ様が滞在をご許可くださいました」 


 ヴリエとミスマルは、玄関で待ち構える、先日結成されたばかりの『ミスマル親衛隊』に取り囲まれ、彼らを引き連れながら三年生の教室がある四階に向かって去っていった。

 親衛隊達はミスマルから、浩平への敵対行為を禁止され、ちょっとでも悪く言おうものなら、二度と口をきいてあげないと、釘を刺されているので、歯噛みする思いで 敵意と殺意の視線を浩平に浴びせるが精々出来ることだった。


 なんだかんだ言っていても、学園内では、生徒会長だし、あまり奇行はしないのではないか。

 

───なんて、考えた時期も自分にはありました。


 シタテルとは、『生徒会室以外学校内ではなるべく接触しない条約』を締結しており、浩平とシタテルは真面目に守っているが、そもそもその条約の提案者のミスマル自身が、批准していない。


 自分も噂の対象になるとは、自分でも思っていなかったのだろう。

 ミスマルは条約の対象外だ。


 早々に条約を結ぶ必要があると浩平は思った。


 シタテルは、構成員が少なくなったが、それでも学園最大派閥『シタテル親衛隊』に守られ、浩平と言葉も視線も交わすことなく、教室に向かってすでに去っていった。


 朝、一緒の布団から起きて、一緒に朝食を食べ、昨日から家族のように過ごしてきたのに、ここに来て浩平は急にシタテルを遠い存在と感じるようになった。

 桜の咲いていた頃の、流星雨の降る前のシタテルに戻ってしまったかのように。


「浩平、」


 シタテルが去っていった方向をぼんやりと眺めながら立ち尽くしていた浩平の後頭部に、コツンとなにか固いものが当たる。


 浩平が振り向くと、そこに天音がいた。

 手には弁当の包みを持っている。


「シーちゃんから預かりもの。あんたにだって」


 天音は弁当の包みをフリフリしている。

 お揃いの弁当包みをもうひとつ天音は持っていた。


「シーちゃん?」


「学校で…、」


 そこまで言って天音は辺りを見回し、


「『シタテル』とか、言ったら、変に勘ぐられるかなって、」


「ああ、……、でも、そこは副会長でいいんじゃね?」


「や、そんな、呼び方する程度の間柄じゃないでしょ、私たち」


「そうかな、」


「そうよ、………、所で浩平、ちょっとお願いがあるんだけど」


「ん?」


「ええっと、昨日ね、私達ミィちゃん家泊まったでしょ」


「ん?ああっ『ミィちゃん』ね」


「ん、そんでね、私ったら昨日シーちゃんに『家に電話しといてね』って言われてたのに、なんか知らんけどミィちゃん家に行く途中で、失神ちゃってね、そのまま朝までスカーッと寝てたのよ。…、朝は、もう少しでおしっこ漏らすとこだったわ」


「…、んな、要らんこと言ってないで、本題は?」


「え?ああっ、そんで、朝、家に電話したのよ、そしたらさぁ、お父さんが、まだ家にいてね、どうも一晩中探してたらしいのよ。当然お隣のあんたの家にも行ってね、あんたもいないって事バレてね。……ところであんたは家に電話した?」


「うんにゃ」


「でしょうね。でも、あんたの母さんと私の母さんには朝早くタキリさんから連絡があったらしくてね、『急遽決まった生徒会の強化合宿』に私達は参加した事になってるから。口裏合わせておいて」


「『生徒会の強化合宿』って…、何?何を強化すんの?」


「知るわけないでしょ、タキリさんの出任せよ。だけどね、お父さんは疑っているのよ、私達の事を。」


「私達って、俺と天音?」


「うん。わたしゃ、えりりん一筋だって言ってんのに、お父さん信じないのよ」

「まあ、普通だろうなそれが」


「ダメよ、これから宇宙へ出ていこうかって云うこの時代に、国際結婚反対とか、どんだけ石頭なのよ」


「国際結婚と一緒にはできないだろ」


「とにかく、お父さんに会ったらお願いね」


 浩平にシタテル手製の弁当を持たせると、天音は先に行ってしまった。


 浩平も続いて歩き出し教室に向かう途中で、


「杉田浩平、」


 浩平は声をかけられた。


「あ、い市川先生…、」


 そこに立っていたのは、星陵高校の教師にして市川天音の父、『市川いちかわ政弘まさひろ』その人だった。


「昨日は外泊したそうだな」


「…、はい、」


「後で話を聞く。放送で呼ぶから職員室まで来い」


「天音とですか?」


「……、とにかく呼んだら来い。わかったな」


「はい、」


 それだけ云うと胃痛持ちの市川教諭は、ナポレオンのように上着に手を突っ込んで立ち去った。


「あの人、何で天音をスルーして俺に声かけたのかな?」


 浩平は首をかしげながら教室に入った。





 昼休み





 午前中の授業をつつが無くこなした浩平は、天音経由でシタテルからもらった、赤紫のランチマットで包まれた弁当を取り出した。

 浩平は普段、教室で昼食を食べる。

 中庭は外星人達のサロンと化すし、別棟の生徒会室まで食べに行くのは億劫だ。

 自分の机の上でランチマットの結び目を解くと、木目も鮮やかな木でできた弁当箱が現れた。


「……、えーっと、こういうの何て云うんだっけ…、」


 正解は、『曲げわっぱ』である。


 木の薄板を煮たりなんだりして柔らかくして曲げて作る、趣のある佇まいの弁当箱。

 弁当箱の上には手紙が乗っていた。


 手紙には、シタテルの細くて小さい文字で、『ごめんなさい、今度はちゃんとしたのを作ります。』と書いてあった。


 上部をパカッと開けると、ごま塩をふったご飯と梅干し、玉子焼きが二切れ、昆布の佃煮 、タクワンが二切れ入った、質素なお弁当が出てきた。


 浩平は今朝、見ていたのだ。


 おにぎりを握るタキリの横に立ち、母親と相談をしながら、料理をしているシタテルの後ろ姿を。


 だから、どんなものが入っているのかは大体予想ができたのだが、弁当を見ているうちに、その、今朝のシタテルの後ろ姿を思い出し、なんとも愛おしい気持ちで、浩平は胸が一杯になってしまった。


「浩平、今日はまたずいぶんと…、何てぇか、シンプルな弁当だな」


 クラスメイトの『大瀧おおたき英二えいじ』が、浩平の弁当を後ろからのぞき込みながら言った。

 彼は、男子クラスメイトから距離をおかれている今の浩平と、相変わらず普通に接してくれる数少ない友人の一人だ。

 

 弁当を見ながら涙ぐんでいる浩平を英二は首をかしげて眺めている。


「何かの罰か?」


「いや、そうじゃなくて、食材が無かったんだって」


 そう言って浩平は弁当を食べ始めた。


「午後から生徒集会って、お前用意とか無いの?」


 英二が浩平に尋ねる。


「うーん、会長からは、なんにも言われてないんだよね」


「…、なあ、浩平、お前さあ、レムル人って怖くないのか?」


「へ?」


「みんなチヤホヤするけどさ、外見はどう見ても悪魔だし、最近の会見で発表したけど、実は地球の地下に大昔から住んでいたとか、正に、地獄の使者ってやつだろ」


「うーん」


「なんか、騙されてたってか、現在進行形で騙されているってか…、」


「うーん…、」


 浩平が英二の苦言とシタテルの弁当を噛み締めていると、廊下側の女子から、

「杉田君、あの人呼んでるよ、」

 と、声がかかった。


 浩平と英二が振り返ると、教室の入り口にはヴリエが立っていた。


「ヴリエ先輩!」


 浩平はヴリエに駆け寄る。


「ご、ごめんなさい、浩平さん。来ちゃったの、一緒にいい?」


 浩平と同じ包みの弁当を胸に抱え頬を赤らめたヴリエは、おずおずと尋ねる。

 浩平の背後のクラスメイト達からは『ひゅー』と『ひぇー』と『しねぇー』が混じったような声がする。

 外星人が単独で地球人クラスに来ることは希である。


「ああ、あれ、浩平…、あの、シタテル姫は…、」


 英二は、狼狽えて辺りを見回すが、外星人はヴリエ一人だった。


「ヴリエ先輩、俺、食べ終わったから、俺の席で食べて下さい」


 浩平はそう言って席を譲る。


「ごめんなさい。レムル人の友達はみんな休学しちゃったし、その、会いたくなっちゃって…、」


 そう言いながら、ヴリエは弁当箱を開いた。


「あ、同じ弁当…、」


 英二は思わず呟いた。





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