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地球鎮守府  作者: 山内海
地獄門の変
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第四十一話 エデンのちょい東

第四十一話 エデンのちょい東





豊葦原とよあしはらの千五百秋ちいおあきの瑞穂国みずほのくに、またの名を恵田エデン。ここは、レムル人の保養地で、銀河連合の使節の迎賓館もあるの」


 青い空にぽつぽつと浮かぶ雲は、爽やかな風に吹かれて、競争でもしているように、先を争いながら目の前に広がる草原を渡って行く。

 空の青、雲の白、草原の緑、雲が草原に落とす影の深緑。

 目の前の景色はほとんどこの4色で構成されている。


 背後の山地から始まり、山を下るほどに徐々に太くなり、草原を飾るキラキラ光るリボンのような川が一本。


 平地に降り、緩やかに蛇行をしながら流れる川が、一ヶ所急に『Ω《オメガ》』の形のようにカーブを描く場所がある。


 そのΩの円の真ん中に、高い塔を何本も備える城のような建物がある。

 浩平は知る由もないが、先日行われた浩平とシタテルの婚約発表会の会場は、その城の中にある。


 浩平は山の終わり平野の始まりからその城を遠く望んでいた。


 金髪の姉妹。

 シタテルとミスマル。

 どちらが姉でどちらが妹か、今となっては、正しい答えが判らなくなってしまった二人が、浩平の左右に立つ。


 毛むくじゃらの巨獣、エリドゥは浩平から少し離れたところで誰かと交信している。

 親指と小指を立た手を顔に持っていって、携帯電話をかけるゼスチャーをしているようなポーズをとっている。


「ラガシュ、そっちは変わりないか?」


「「へい、小雨がパラついたくらいで。『激プン』(激おこ☆プンプン丸こと火星鎮守府戦闘指揮艦アキダリア・フューリー)の映像見ましたぜ。…まさか、タケミナカタの坊っちゃんが生きていたとは、いや、生きてはいなかったッスね。成仏していなかったと言った方がいいんですかね?」」


「今は記憶樹内にいるのだ、見つけ出して封じ込めなくてはならん。今となっては、あやつはエレヒを呪う怨霊の様なものじゃ」


「「ナムジンの旦那は、タケミナカタの坊っちゃんが記憶樹に浸入した後に、記憶樹内の各領域の往き来を監視し、制限していやす。その上で各領域の走査スキャンが始まってます。最初に侵入した領域から移動はできないはず。場所が割れるのは時間の問題っすかね。ちなみに今、大将のおりやす恵田エデンは走査済みです。」」


「だと良いがの」


「「もうじき夜明けでやす」」


「では落ち合うまでもない。皆に覚醒するように伝えてくれ」


「「それが…、タキリの姐さんから、戻ったら『極楽湯』で待っているから皆で迎えに来るようにと…、」」


「あああっ…、」


 エリドゥは、呻く。


「わかった…、」


 エリドゥは手電話を切った。 

 

「おーい、子供達よ、こちらに集まれ!」

「はーい、」


 エリドゥの呼び声に答え、浩平、ミスマル、シタテルはエリドゥの前に集合する。


「浩平、今夜は御苦労じゃった。慰労を兼ねて、ミスマルの母がお主に挨拶したいそうだ。いくか? 断っても良いぞ、っていうか、断ったらどうじゃ?」


「せっかく火星の船まで連れてってもらったんだけど、俺、特になにもしてないんだよね。いいのかな?」


 きまりが悪そうな顔で浩平はそう言った。


「いや、お主は忘れているようだが、お主はお主でシタテルと数年にわたるサバイバル生活を…、いや、」


「??」


「行きましょうお兄様、私も母上にお話がありますわ」


 ミスマルは浩平を見上げてそういった。


「まあ、そう構えることはないぞ浩平。ミスマルとシタテルの母親、タキリは、まあ、ワシの娘みたいなもんじゃ。今でこそ大使夫人なんぞと名乗りふんぞり返っておるが、若い頃はワシの船で舵輪を握っておった」


「お母様の前でその事に触れると、脳をいじられて記憶を消されるから注意してくださいね」


 無邪気な顔で剣呑なことを言うシタテル。


「よし、ミスマル。では、ゲートを。行き先は『湯屋極楽湯』入り口横の共用通用出口じゃ」


「はーい!」


 ミスマルが手をかざすと、草の間の地面からニョキニョキとオーク材のドアが生えてきた。


「どこでもド…、ゲイトー!」


「なぜ言い直した?」


「ミスマル、このゲートちょっと小さいぞ、ワシは通れんな。仕方がない。ワシは先に帰って……、」


 どこかに歩いていこうとするエリドゥのマントの端をミスマルは引っ張る。


「エリドゥ! 極楽湯は『エダイン・エルダール』タイプのドレスコードがあるのを知らないわけじゃないよね。だって休暇の度にお母様と二人で行ってスタンプカードがあと何個かで貯まるとか言ってたじゃない…」


「エダイン・エルダールタイプって?」


 浩平の疑問にシタテルが答える。


「地球人やレムル人みたいな大きさの、地球人やレムル人みたいな姿をしている人種のことです。ヒューマノイドタイプとも呼ばれます」


「極楽湯って、日本の銭湯を真似して作った保養施設だから、地球人に近い姿じゃないと入れないの」


 浩平はエリドゥを改めて眺める。


「エリドゥって、エリドゥの姿って、アウト? セーフ?」


「「アウト!」」


 ミスマルとシタテルはハモって答える。


「エリドゥ。早く、エダインタイプになってよ」


「うむ、うぅむ、」


「ウムウム言ってないでさ。………、あぁ、判った。天音お姉さまに会うのが恥ずかしいんでしょ!」


「だ、だ、だぁーれが、恥ずかしいものか!」


 エリドゥはドスドスと足踏みをしながら、ゴリラダンスのような動きで、地団駄を踏む。

 足踏みの衝撃で震度2くらいの地震が起こる。


「ちょっと待っとれ!」


 エリドゥは自分のマントを地面に敷いてその上に座り込み、自分の指にはめている、トゲトゲの付いた指輪をもう一方の手でつまみ、何事か呟く。


『ボン!』


 爆発音と共に白煙がエリドゥの体から吹き出し、辺りは真っ白になる。


「わっ! なんだ? なにも見えない」


 浩平は驚いて声をあげる。

 煙は瞬く間に風に吹き飛ばされ、ほどなく視界が戻る。

 爆心地にいたはずのエリドゥの姿はどこかに消え失せ、かわりに浩平は見たことのない男が胡座をかいていた。

 トゲトゲ首輪だけ身に付けたほぼ全裸の男だった。


「……、これで文句あるまい。行くぞ浩平、」


 首輪全裸男はムスッとしたままそう言った。


「ちょっと! えりりん、」


 シタテルは慌てて、後ろを向き、何故か浩平と全裸男の間に立ちはだかり、浩平の視界を遮った。


「エ、エリドゥ…、なの?」


 地球人、それも日本人にしか見えない。

 短めのざんばら髪に太い眉への字口、浅黒く筋骨隆隆ではあるが背はそんなに高くない。

 頭の悪いスポーツマンのようなこの男こそ、エリドゥの地球人スタイルである。


「…、ミスマル、服を出してくれ」


「あっ、はいはい」


 ミスマルは自分のワンピースの裾に手を突っ込み、ごそごそとなにかを探している。


「会長、どこをまさぐってんの…、」


「はい!どこでもふくー」

 

 ミスマルがワンピースの裾から引っこ抜くと、その手には藍色の布の束が握られていた。

 人間エリドゥはミスマルからホカホカの布をうけとる。


 エリドゥが『パン』と布を広げると、それは藍染の着流しで、早速エリドゥはそれに袖を通す。


「……、帯、」


 ミスマルは今度は上の胸元から手を突っ込み、するすると灰色の帯を出した。

 エリドゥは帯を受け取り、腰の低めの位置で巻いた。

 これで長ドスを持ったら、まるで、昭和残侠伝の高倉健のコスプレをしているヤンキーみたいだ。


 帯を渡したあと、ミスマルはエリドゥが座っていた毛皮をくるくると丸める。

 それは、あり得ないくらいに小さく丸められ、ミスマルの慎ましい胸元にしまわれた。


「なんか、私の立ち位置がドラちゃんポジション?」


 とかなんとか言いながら。


「浩平、待たせたな、では、行くか」


 そう言ってエリドゥは草原に立つドアを開けた。





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