第三十四話 シタテルの暴走とエリドゥの大暴走
第三十四話 シタテルの暴走とエリドゥの大暴走
「うぉーい! 悪い子は居ねがー!?」
エリドゥが出入り口の扉代わりの大きな毛皮をはね除け、小屋に顔を突っ込んだ。
小屋の中では、シタテルが麻布の様なもので作ったチュニックみたいな自分の服の前面を、ベロンチョと上にたくしあげ、膨らんだお腹を丸出しにして立っていた。
浩平は膝をついてシタテルのお腹に耳を押し当てていた。
「………………、」
正に聖母そのものの安らかな笑顔を浮かべていたシタテルは、エリドゥを認めると、そのまま彫刻にでもなったかのように固まってしまった。
固まってしまったが、汗が滝のように吹き出し、ダラダラと流れ出した。
「悪いごは、いねがっだが、エロい子おっだ……………、」
エリドゥはとてもいけないものを見てしまったような気になり、慌てて小屋から顔を引っこ抜いた。
「エリドゥ………、エリドゥ! 助けに来てくれたんだ!」
エリドゥを追いかけてマッスル浩平が小屋から顔を出す。
「ここに来てから何年経ったのか……。もう、すっかり戻ることは諦めて、シタテルと二人で生きていこうと……………、」
ギュー!
「アギャー!!!」
浩平は顔を涙でぐしゃぐしゃにしてエリドゥに抱きついた。
その、抱きつく力があまりにも強く、歴戦の宇宙戦士エリドゥは、思わず叫び声をあげた。
「シタテル! お主浩平に何かしたな! いま流行りのチートなんとかみたいになっとるぞ!」
喘ぎながらもエリドゥはなんとか浩平から逃れた。
「わわわわ、わたっ、わたっ、私! 私わぁ!!」
小屋の中から、四つん這いで、貞子のようにシタテルが出てくる。
「シタテル! 兎に角元に戻れ! ミスマルが見ておる! ミスマルは、その……、色々あって弱っておるんじゃ。ミスマルにお前達のそんな姿を見せるな!」
避けていた現実との対面に恐れおののくシタテル。
「いつかこのような日が来て、私たちの暮らしが終わることはわかっておりました。ですが………、せめて…、せめてこの子が生まれるまでは!」
自分のお腹を押さえ、守るようにしながら、シタテルは涙ながらに訴える。
もう一方に目を転ずれば、浩平やシタテルに近付くこともできず泣き崩れているミスマルがいる。
「ぐぬぬぬぬー……、」
エリドゥは懊悩煩悶し、左右のミスマルとシタテルをキョロキョロと見比べ、ついにブチ切れるに至った。
「なー! なんでワシが板挟まれなけばならんのじゃ!」
エリドゥは毛皮のマントをはね除け、腰に下げていた大段平の柄に手をかけた。
「こうなったら荒療治だが、ぶん殴って目を覚まさせてやる!」
身長4.2メートル。
角を含めると5メートル。
ゴリラのような体。
浩平の背丈を越える長さの幅広の剣を抜き放ち、シタテルに躙り寄るエリドゥ。
そこに浩平が割って入る。
「どういう事だエリドゥ!」
魚採り用の銛を構え、シタテルを庇いながらエリドゥと対峙する浩平。
「浩ー平ー、退けや!」
剣を握ると性格の変わるエリドゥが剣呑に怒鳴る。
「………、」
浩平は銛を握り直し、腰を落とし戦闘体制に入る。
振りかぶる動作も、息を吸い込むそぶりもなしに、エリドゥは抜き身の段平を肩に担いだ。
袈裟斬りを片手で逆に行ったのだ。
恐らくその軌道上に牛馬のような大きさの鉄塊があったとしても、下から切り上げられ切断されたであろう。
その動作をしただけてエリドゥの足は踝まで地面にめり込んだ。
『ドカン!』
高速の剣に押され、空気が逃げ場を失い爆発を起こしたような音を出した。
爆風と跳ね上げられた飛礫で浩平の小屋は土台の木毎吹き飛び、草原は大きく抉れた。
辺りに土埃が舞う。
「いかん!浩平の様子につられ、つい力を入れてしもう…」
言い終わる前に、エリドゥは後ろに飛び退く。
エリドゥの立っていた場所の地面には銛が突き刺さっていた。
浩平はシタテルを抱き抱え、少し離れたところに立っていた。
剣の軌道を逃れ、暴風と飛礫をどのような方法か不明だが凌いだのだ。
「おおっ、浩平! あれを凌ぐか! 面白い! ………?」
土埃が治まり視界が戻ってきた。
エリドゥは目を凝らし浩平を見る。
よく見ると、浩平は口から泡を吹いて失神している。
失神しているが、シタテルを庇いながら、なおも戦闘体制を解いていない。
でも、やっぱり失神している。
「シタテル、いい加減にせい! 浩平はとっくにのびとるぞ!」
「私はこの世界の想像主! 神なのです! ここで私に不可能は無いのです!」
間抜け面で失神している浩平は、片手を上げ伸ばす。
シタテルに操り人形のように動かされているのだ。
浩平の掲げた掌に、怪しい光が集まる。
「ぐんぐにぃーーーーる……、」
光が槍の形を作り始める。
「いい加減にせいと言っておろうがぁぁぁー!!」
エリドゥは吼え、浩平と同じポーズをとる。
エリドゥの背後の水平線の彼方から、まるで朝日が昇るように、大紅蓮にその身を焦がす魔神の腕が現れる。
夕闇は退き、世界は赤く染まる。
「お前が神ならば、わしが神罰ならぬ罰神を下す!」
エリドゥは掲げた掌を鉤爪の形にし、振り下ろす。
「ネメシス・バッシング!」
天空から、指の一本一本が山脈のような大きさの魔神の鉤爪が降ってくる。
海洋を吹き飛ばし、大陸を薄氷のように割りながら奈落の底まで突き刺さる。
世界の破滅に巻き込まれ、シタテルは気を失った。




