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地球鎮守府  作者: 山内海
地獄門の変
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第三十三話 タサリオンの岸辺

第三十三話 タサリオンの岸辺



「お嬢様がたを運びやしたぜ大将。今、タキリ姐さんとバンジィが身繕いさせているところでさぁ」


 ミスマルの宿舎は、大人数が押し掛け、足の踏み場もない状態だ。

 客間に布団を敷き詰め、シタテル、天音、ヴリエ、を寝かせている。

 居間には、インテリ○クザのサイオゥと、ロートル○クザのジンカンが、ちゃぶ台の上に無作法にも腰掛けている。

 お子ちゃま○クザのガウマァは、客間をチョロついていたところをタキリにつまみ出され、廊下に立たされている。


 庭には母屋に入りきらなかったエリドゥが地面で胡座をかき、その腕には白目を剥いてしる浩平が抱かれている。

 浩平にしがみつくようにして、ミスマルがエリドゥの膝の上に座っている。


「エリドゥ、私も連れてって………、」


 ミスマルは浩平の胸元に顔を埋め思案に沈んでいたが、思い立ったようにそう言った。


「ミスマルよ………、眠るが良い」


 エリドゥはそうとだけ言い、ミスマルの体をそっと手のひらで覆った。


「ラガシュ、あとを頼む」


「へい、」


 ラガシュは相槌を打つと、サイオゥへ合図を送った。

 携帯端末を開き、ひたすら何かを打ち込んでいたサイオゥは、小言で悪態をついている。


「この年寄りとガキと脳筋の集まりが!こっちは一人でコーディネートしてるんだ、くそっ!ジンカン!エレヒのサポートはまだなのか?!」


「エレヒはどうやら、激おこ☆プンプン丸との同期を取るのに手間取っているようだな。「激おこ」はニルガルの宮とのリンクを切っているんだ」


 別の携帯端末を開き、かなりおぼつかない手つきで操作しながら、ジンカンは答える。


「激おこ☆プンプン丸はダンテの門の手前で約定通り投錨した。とりあえず最悪の事態にはならずにすみそうだ。ただ、アジスの坊っちゃんが死にかけていると、再三訴えている。これはどういう事か………、」


 エリドゥとミスマルの方をちらりと見て、ジンカンは言う。


「お頭! 一度には無理ですぜ! ばらして送るので、エレヒの回線が通るまで間に記憶樹で合流してくだせぇ。子供達はあそこに送りますぜ、姫さんのこさえた領域に」


「任せる。よく判らん」


「ガウマァ! お前はその義体のリンクを切って、エレヒから入り直せ。姫様たちが迷わないように案内しろ」


「ヘーイ、ラガシュのアニキ。天音の姐さん達と遊んでりゃいいんでしょ、ワッカリヤシター」


 ガウマァは陽気に敬礼をしたが、そのまま廊下の床に崩れるように倒れ、動かなくなってしまった。


「ガウマァ………? せっかちねぇ」


 客間から出てきた、バンジィはガウマァを抱き抱えて居間までやって来た。


「バンジィ。タキリの姐さんは?」


「一緒に行くってさ」


 バンジィは、ガウマァの操作していた義体を、部屋の隅にそっと横たえ、自分が外着で羽織っていた毛皮のコートを掛けてやる。そのまま座ろうとしたが、目の前にある、ちゃぶ台に座っているサイオゥとジンカンの尻にグーパンチを喰らわせ、座布団に座り直させた。


「さて、あたい等は朝まで姫様がたの寝顔を見ながら待機かい。茶でも飲みましょかね。ラガシュ! あんたは要らないね。喉を通らないんでしょ?」









「シタテル、ただいま。今日は投網で魚がとれたよ。ご覧…」


「まあ、あなた。これは立派な……、」


「これとこれは傷みやすいから今夜食べてしまおう。こっちは塩漬け。こいつは……、食ったことがないな。とりあえず日干しにしよう」


「取り置きの芋を出しましょうね。そういえばあなた、先ほどチラチラと雪が降っていましたわ」


「ああ、俺も見たよ。道理で寒いわけだ。去年の冬は酷かった。小屋も隙間だらけで……。でも、今年はこの『鹿っぽい奴』の毛皮を沢山手に入れることができた。去年や一昨年みたいに毎晩凍えて眠ないで済む」


「まあ…、私とくっついて眠るのがお嫌になって?」


「まさか!……君が嫌と言ったって離すものか、」


「………、」


「………、」


「……さ、さあ、夕飯の支度をしようか」


「そっ、そうですね!」


「しかしあれだね、シタテル。ここに来てから本当に色んな事があったな…、」


「本当に、そうですねぇ、私達でもなんとかやってこれましたね」


「これからも頑張っていこう。だって……、」


「だって………、」


 厳しい冬が過ぎ、春が来る頃には、新しい家族が増えるのだから………。





 夕闇が迫る岸辺に波は打ち寄せる。

 砂浜から少し離れた、木々が疎らに茂る草原に、木と木の間に枝木を架け渡し、藁のようなものを束ねて吊るして壁を作った粗末な小屋が建っていた。

 

 エリドゥとミスマルは岸辺で覚醒し、砂浜を歩いているところ、腰ミノ一丁で網を担ぎ、海から岸に上がってきた、筋骨隆々の浩平とおぼしき人物を発見して、そっと後をつけていった。


 小屋に帰るとその中からお腹の膨らんだシタテルが、満面の笑顔で浩平を出迎え、言葉を交わした後、小屋の中へ入っていった。


 エリドゥとミスマルは唖然としながら草原に立ち尽くしていた。


「………、」


「おい、サイオゥ。浩平とシタテルがロビンソンクルーソー的な事になっているが……、浩平達とわしらとの間はどのくらい時間が経っていることになっているのだ?」


 エリドゥは虚空に問いかける。

 モニターしているサイオゥから返答が来る。


「解りかねますな。姫様の作った世界だから、姫様に聞いてください」


「浩平お兄さま………、」


 ミスマルは仲睦まじい二人を見て、ショックだったらしく泣き出してしまった。


「う、うぅーむ! 面倒なことよ。泣くな! ミスマル、これは恐らくシタテルの妄想の産物だ、えぇーい! タキリ! ガウマァ! どこだ! シタテルの目を覚ませてやれ!」


 ジンカンの声が響く。


「すいやせんお頭、タキリの姐さんと天音の姐さんとルタヴァ家のご令嬢は大分離れた所で覚醒してしまって……、今そっちにガウマァが向かっています」


「全く! レムル人でないわし達に記憶樹を弄らせるからこうなるのだ! 仕方がない。わしがなんとか目を覚まさせてやるわい」


 エリドゥはそう言うとのっしのっしと小屋へ向かって歩き出した。


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