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地球鎮守府  作者: 山内海
地獄門の変
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第二十六話 記憶樹の幹の一族

第二十六話 記憶樹の幹の一族


 島を嵐が襲い、何故か突然ミスマルが性転換した日から何日か後のこと。

 たまたま二人きりになった浩平とミスマルは、『星陵高校生徒会だより』(64ページもあり、かなりの部分をシタテルのグラビア風の写真が占めている)を職員室から借りてきた大型ステープラーで、ガシャコンガシャコンと綴じている。


「浩平さま?浩平君?浩平おにいさま?お兄ちゃん?…、」


 ミスマルは、まだキャラが確立しておらず、アジス時代の口調になったり、女言葉になったり、試行錯誤を繰り返している。


「兄者、お前、ダーリン…、あんた、ご主人様、」


 今もブツブツと浩平の呼び方を一々口に出しながら試している。


「お兄様」

「……、」

「お兄様ったら」


 ミスマルは浩平の袖をチョイチョイと引っ張る。


「へ?ああっ、本当に呼んでいたんですね」


 はじめのうちは律儀に返事をしていた浩平だったが、呼び名が、段々怪しげなものになってきたので、拒否の意味を込めて、聞かなかったことにしようと、決めた矢先だった。


「会長、ところで何で性転換したら年下キャラになったんですか?」


 そもそも、何ゆえ性転換したのかという、最大の謎は、とりあえず無視し、浩平は質問する。


「あら、元々年下ですわ浩平お兄様。まあ、どの時点からカウントするかによりますけどね」

「?」

「そんなことよりこうへ…、お兄様に伝え忘れていた事があったんだ。…、いやいや、ございましたわ」

「会長、なんとかなりませんか、その、…、探り探りのしゃべり方」

「うん、ちょっと練習するね…、って、まぁ、それは置いといて、これから数日間で、僕やシタテルと同じレムル人の生徒が数人、学園から転出することになるから。あっ僕達以外のレムル人って意味ね」


元のアジス口調に戻ったミスマルが言う。


「へぇ、こんな時期に何でまた学園から出ていくことになったんですか?」

「それはね、我々レムル人の特殊な事情と、君とシタテルの交際が関係してるんだ」

「お、俺と…、副会長?」

「とぼけても駄目だよ。行っちゃたんでしょ、エレッセア、夢の中で。そして選んだんでしょ、シタテルを。さらにあの地に新しい名を付けた」

「……、」


 浩平は、嵐の夜に見た夢の内容を思い出そうとした。

 シタテルと船から降りてシタテルと手を繋いで草原を渡った。

 その時、何か大それた事を、したような、しなかったような………、おぼろげにも思い出せるのは、そこまでだった。


「どうして知ってるんですか?」


 自分が見た夢の内容を教えてもらうという、非常識な事態に、浩平は、何かしらの陰謀があるのではないかと一瞬訝しんだが、ミスマルの顔を見て、そこに悪意の欠片もないことを認めると、その考えは引っ込めることにした。


「シタテルが話してくれたよ。君も同じ夢を見たと思うけど、もしかしたらほとんど忘れているのかもね。それにしても『タサリオン』と名付けるとは…、君の頭のどこにそんな言葉がしまわれていたのかねぇ…」


 今まで地球人規格の机を二つ向合わせにくっつけて作業をしていたが、ミスマルは席を立ち、ちょこちょこと蟹歩きで、浩平の方に寄っていくと、膝の上に乗っかった。

 今でこそ慣れたが、アジス=ミスマルという人物は、親しい人に対しては特に距離感が近く、大抵誰かの膝の上に居たり懐に入っていたりする。

 会話をするときもゼロ距離で話すことが多い。


「昔々、まだ僕らの星があった頃からレムル人に伝わるお話のなかに、『タサリオン』と呼ばれる国が出てくるんだ」

「はぁ」

「その国にはとても大きな木が何本もあってね、言葉を話したり、歌を歌ったりしたそうな、」

「伝説によるとレムル人は、その木々から言葉や歌を教わったそうな、」

「そして木は出会った人たちの記憶を全て留め、あたかもその木の中で生きているかのように木を通じて、過去に生きていた人と言葉を交わすことができたんた」

「そんな神話をもとに科学が発達した後のレムル人は、『記憶樹』と呼ばれる、ネットワークを構築する」

「レムル人が夢を見るときにアクセスする世界を管理し、夢の世界の統合をし、また、人格そのものをデータとして留めておくことが出来るんだ」

「………」


 浩平は、毎度の事だがすでになんのことやらわからなくなっていた。

 ミスマルもこれまた毎度の事だが、浩平の理解の度合いを無視し、そのまま話を続ける。


「星の全盛期にレムル人は、32の支族があり、32柱の記憶樹ネットワークがあったらしい。だけど星の没落と共に、ほとんどか失われてしまった。」

「今、エレヒにあるのが確認できる最後のひとつ。その名も『エレヒ』、つまりあの人工衛星は、記憶樹のシステムそのものでもあるんだ」

「僕達レムル人は、この記憶樹にどのくらい深くアクセスするかによって、『幹の一族』、『枝の一族』、『葉の一族』と分かれていてね、ヤシン家はその中でも幹の中心、記憶樹の祭司を行ってきた家なんだ」

「僕やシタテルの意識は、レムル人のほとんどがアクセスできる。そうするとどうしても、意識や感情に引きずられ、自分の感情と区別がつかないレムル人が出てきてしまう」

「…、?」

「つまりね、最近特にシタテルの君への感情が強すぎて、他のレムル人も一斉に君に対して発情しちゃてるのさ」

「はっ発情?」


 回りくどい説明の後で明かされた事実に浩平は、困惑する。


「君には罪はない、我らレムル人の事情さ。それでシタテルとシタテルに感化されたレムル人を、一時的に隔離することになったんだ。落ち着くまでエレヒか火星で過ごしてもらおうと思ってね」

「用意が出来次第順次退去してもらってるけど、もしかしたら思い余って浩平君にモーションかけてくるレムル人もいるかもしれない。くれぐれも無用の接触は避けてね。天音くんにも言っとくから。話がもつれないようにね」

「俺にどうしろと…、」

「寛一、」

「へ?」

「金色夜叉の寛一お宮の像をイメージするんだ!」


 ヴリエが生徒会室の扉をノックするのはこの会話の数日後である。

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