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地球鎮守府  作者: 山内海
地球鎮守府
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第二十二話 女体ソムリエ ミスマル

第二十二話 女体ソムリエ ミスマル






 嵐の夜から数日後。


 カーテンを引いた暗い剣道部道場の更衣室で、謎の秘密結社『下照シタテル親衛隊』の会合が開かれていた。


 丸く並べられた机には、それぞれ最新号の学校新聞地球人版が置かれている。


 新聞の見出しはこうだ。


『学園の女王に地球人の恋人か?』第二校舎の中庭で、浩平とシタテルが並んで座り、バナナを食べている写真がでかでかと載っている。


 ミスマルの問題発言など吹き飛ぶようなスキャンダル事件だ。


「……遺憾だな」


「……まったくです」


 お互いの顔も見えないような暗闇の更衣室に、親衛隊の幹部6人が集っている。


 しかし、総長の伏木十得が座るべき席は空いていた。


「……総長は今日も欠席か」


「残念です。総長の不在がパパラッチの暴走を招いたとしか言いようがありません」


「すぐにこの不届きな写真を撮影した犯人と記事を書いた記者を洗い出せ! 粛清せよ! ほかの犯罪予備軍への見せしめとして、天誅を下す!」


「……言論の弾あ…」


「ちえすとおー!!」


「それにしても二年甲組、杉田浩平」


「…忌々しい」


「生徒会に入る時、身辺調査を念入りにやったはずだろう。どうしてこんな事に……」


「生徒会書記二年乙組市川天音の幼馴染。彼女の手引きで生徒会入りしており、この二人は恋人同士であるとの報告が…」


「市川天音といえば、あの巨大な悪魔、外星人『襟堂えりどうあきら』の恋人だという話は、学園では有名だぞ! そんな事も知らんのか?!」


「我が監察の情報網を侮るな! そのような事は調査済みだ! しかし、考えてもみよ、あんな怪物と本当に恋人同士のはずか無いだろう。あれは軍用犬でも飼っている感覚なんだきっと」


「杉田浩平と市川天音は、毎日一緒に登校しているという、定期動向調査の報告も受けております。恋人というのは確実ではないかと……」


「そういう憶測での判断が今日の事態を招いたのだ!」


「まあまあ、我らがいがみ合っても仕方が無い」


「我らがこの事態を想定していなかったのは、我らの落ち度だ」


「しかし……」


「この写真………」


「忌々しい……」


「うらやましい……」


「どうしてくれよう」


「どうしてくれよう」


 暗い部屋の中で行われる怪しげな会議は、日没まで続いた。





 ここ数日、天音はふさぎ込んでいた。

 エリドゥがずっと学校を休んでいるからだ。


 生徒会には一応顔を出すが、天音のトークは精彩を欠いている。


「元気出しなよ。エレヒでちょっと用事があるみたい。あと何日かで帰ってくるよ」


 結局、男装の麗人という設定が気に入り、今のところ学ラン姿のままのミスマルは、そう言って元気付ける。


「ほんと? 本当に帰ってくる?」


 力なく天音が訊く。


「元気出せよ天音」


 浩平も励ますが、


「なによ! このおめでた男が! 副会長と密会写真取られたからって、調子乗ってんじゃぁないわよ!」


 これは逆効果らしい。


「おまえなぁ、こっちは大変なんだぞ! 男子生徒からは総スカン喰らうし、女子生徒は根掘り葉掘り訊いてくるし、おまけに下照親衛隊からは脅迫状が届いているんだ!」


 相当堪えているらしい。

 浩平は頭を抱える。


「浩平君は相変わらず問題山積だねぇ」


 ミスマルはため息をつく。


「浩平。副会長は?」


「さっきエレヒから放送局のシャトルが来てね、そこの人たちに連れて行かれた。なんか朗読を録音するんだとか言ってたな」


 浩平は天音の問いに答える。


「なにそれ?」


「まあまあ天音君、明日の夜になったら判るよ。それにね、僕も明日はちょっとしたサプライズを用意しているよ。良いかい天音くん、明日から僕の事は『ミスマルちゃん』と呼んでね」


 そう言いながら、ミスマルはキャビネットから将棋盤を取り出す。


 今は将棋が彼女のマイブームらしい。



 明けて土曜日。


「先方さんに失礼のないようにね!」


「気張って行けや!」


 笑顔の両親に見送られ家を出る浩平。

 

 今日はミスマルとシタテルの家に泊まる事になっている。


「おーい、浩ヘーイ!」


 丁度同じ時間に、隣の家から出てきた天音と合流する。


「おまっ、すごい荷物だな。何日泊まるつもりだ!」


「んー? 乙女の荷物は多いと相場は決まってんのよ。副会長と服の見せっこするんだもーん! 後ねぇ、ミスマルちゃんにあげる私のお下がりでしょ、それからお菓子! 学校に近くでっかい店無いからね。ちょっと! このバッグ持ってよ!」


「お、おう……」


 多分服が詰まっているであろう、軽い割りにやたらと嵩張るバッグを天音から受け取る浩平。


「こうなりゃ早いバスに乗ろうぜ。バスが混んでたらヒンシュク物だぞ、この荷物」


「そうね。走るか、バス停まで」


 そう言って二人は走り出した。



 浩平と天音が荷物を抱え、ヒーヒー言いながら心臓破りを上りきり、校門を通ったところで、「浩平さん」とシタテルの呼ぶ声が聞こえた。

 見ると門柱の陰からシタテルが手招きしている。


 本人は変装しているつもりなのか、白いショールを頭から被り、色眼鏡をかけている。尼か、修道女シスターか。これで隣にヘレン・ケラーがいたら、『奇跡の人』サリヴァン女史のコスプレである。


「おはようございます浩平さん、天音さん」


 シタテルはお辞儀をする。


「おはようシタテル」


「どうしたの副会長? その格好」


「また、写真を撮られて、浩平さんにご迷惑をおかけしないようにしないと」


 キョロキョロと辺りを警戒するシタテル。


「いいのよ! そんなの。逆に浩平が副会長を守らなきゃならんのだ! がんばれよ! このヘタレコンニャクが!」


 両手がバッグで塞がっているので、インサイドキックを浩平の尻に叩き込む天音。


「おっふ!」


 バランスを崩す浩平。

 それを抱きとめて支えるシタテル。


「浩平さん…」


「副会長…ありがとう」


「オイオイ! 朝っぱらから見せ付けてくれちゃいますねー」


「おまえなぁ、」


 嘆息する浩平。


「ミスマルちゃんは?」


 ここ数日でアジス➡ミスマルの性転換という非常識をあっさり受け入れた天音。


「ここですわ、天音お姉さま♥」


 シタテルの後ろから、セーラー服とゴスロリ服が合体したような魔改造制服姿のミスマルか顔をみせる。


「ミ、ミスマルちゃん! 制服出来たのね! かっ、か、か、かわいい! カワユッスー・ンドゥールルルルルル!」


 思わずミスマルを抱き上げる、天音。


「今日はいっしょにお風呂よ! ミスマルちゃん!」


「わ、私は構わなくてよ、おねぇさま。お姉さまさえよろしければ…、」


 目を白黒させるミスマル。


「やめとけ、天音。中身は女体に興味津々の女体ソムリエだぞ」


 浩平が冷ややかに言う。


「なに、その職業……。浩平お兄様ったら。………!! あっ! わかっちゃいましたわ! 一人だけ仲間外れてロンリーショックなのですわね。心配ご無用です! 一人にはさせませんわ!」


 浩平に向かってウインクをするミスマル。

 

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