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地球鎮守府  作者: 山内海
地球鎮守府
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第二十一話 不義、不忠、伏木十得

第二十一話 不義、不忠、伏木十得






「『生徒会拝命、風紀委員会預り、新撰組』という組織名でよろしいか?」


伏木ふしき十得じっとく』は真顔でそう言って退けた。


「……。そ、それはなかなか、素敵に勇ましい名前ですが……、ちょっと大仰おおぎょうではないですか? 

えーっと、……そうそう! 『なかよし見回り隊♥』とか、どうでしょう?」


 気圧されながら生徒会長は答える。


 土曜の朝。一緒に登校したミスマル、浩平、シタテルは、丁度校門のところで、朝の稽古が終わり、供周ともまわりを引きつれ校舎へと向かう、剣道部主将三年(ひのえ)組、伏木十得と遭遇した。


 そして、昨日の生徒会会議で議題に上った、有志の見回りについての話になったのだ。


 突然女性化したミスマルの処遇について、三人で話し合った結果、制服などの用意もないので、そのまま男装で取り敢えずは登校することにした。


 普段、至近距離で接する地球人は浩平と天音くらいだし、外星人は、多分性差など気付かないか気にしないだろう、と言うのがミスマルの意見だ。


 角ばかりは仕方ないので『生え替わりの時期』ということにした。


「……では、あいだを取り『見廻組みまわりぐみ』としてはどうでしょう」


 無言の威圧に屈し、ミスマルは若干譲歩した。


「……。では、そういたそう」


 多少の不満があったが、十得も譲歩した。


 名前にこだわりるような惰弱な姿を、想いの人、『シタテル姫』の前で見せたくはなかったのだ。


 十得は黒の剣道着姿で片手に木刀を持っている。きっと生まれる時間を二百年ばかし間違えているのだろう。

 早春卒業していった、先代総長より拝命した二代目シタテル親衛隊総長の名にかけて十得は誓った。


 剣の道を究め、彼女に相応しい漢になって彼女を守ろうと。


 外星人を白眼視する地球人から彼女を守り、レムル人を白眼視する外星人からも、彼女を守り闘おうと。


「十得さま。今回のお申し出、心からうれしく思います。どうか外星人と地球人とを繋ぐ手助けをしてくださいまし」


 シタテルは、今朝から身に付けた殺人スマイルで、十得の手を取り、そう言った。


 普段、学園ではほとんど発言せず、伏せ目勝ちに佇む姿しか見せたことの無い、シタテルである。


「でも、そんなに思いつめた顔は、なされないでください」


 突然の身体的接触に緊張のあまり固く握りしめた十得の、汗ばんだ手の指を、シタテルは一本一本伸ばしてゆく。


「……副会長殿!」


 十得の全身を猛烈に歓喜の血流が巡る。


 男の本懐ここにあり!


 しかし、シタテルはニコニコしながら、指を開かせた十得の手を片手で引き、もう一方の手で、横に立つミスマルの手を取り、二つの手を引き寄せ合わせた。


「こんな風にね。優しくしてくださいね」


 シタテルはミスマルと十得の手を握手させ、その手を自分の両の掌でそっと包む。

 そして笑顔でそれをぶんぶんと上下に振った。十得とミスマルを交互に見つめながら。

 そのしぐさは愛らしく、そして優しかった。


「姫!」


 そのシタテルの姿を見て、十得は悟り、雷に打たれたかのような衝撃を受ける。


──断固たる決意で握り締められた、自分のこぶしでは、外星人と手を繋ぐことは出来ない。


──ましてや地球人と外星人の間に立つ事など望むべくもない。


──普段の清楚な振る舞いを、敢えて曲げてまで……。姫は暗に私を戒めたのか!


 シタテルに他意はない。ただ、今朝のゴキゲンテンションで、プチ暴走しているだけだ。

 しかし、十得はシタテルの暴走を勝手に解釈した。

 十得は震えながら一礼すると、供回りのことも構わず逃げるように校舎に向かった。


「何たる不覚! 何たる不義! 何たる不忠! ……修行が足りん!」


 後日、剣の修行中に魔獣の森で遭難した伏木が、たまたま人の姿で剣の稽古をしていたエリドゥと出会い、紆余曲折の末、弟子入りし、謎の剣術『プラズマ示現流』を伝授されるエピソードは、今回は語られない。


「浩平君。ライバル出現にも動じていない。余裕だね。さすがは『異床同夢』の間柄だけある。」浩平の顔を見上げてミスマルは言う。


「何のことですか?」

「これからもよろしくってことさ!」


 学生カバンで浩平の尻を引っぱたくミスマル。


「ぐふっ!」


 妙な声をあげる浩平。


「なんですかいきなり!」


 尾てい骨に金具が当り、思わぬダメージを負った浩平が、尻を擦りながら叫ぶ。


「んー、焼きもち……、かな?」


 ミスマルは自分でも、わからない風に答える。


「昨日だって、エリドゥけしかけて襲ってくるし。俺がいつまでもやられっぱなしと思わないでください!」


「きゃーー!」


 校門前で追いかけっこをはじめる浩平とミスマル。

 それを笑いながら見ているシタテル。

 その様子を遠巻きに眺める登校生達。


「おーい浩平ー!」


 校門前でふざけているうちに、バス通学の天音が、バス停から山の上の星陵学園まで続いている、人呼んで『心臓破りの坂』を上って登校してきた。

 天音はすさまじいラストスパートでミスマルと浩平の間に入り込み、浩平の片腕を取り体を密着させ、肘で『ドスッ』わき腹を突いた。


「がうっ!」


 再び妙な声をあげる浩平。


「浩平! おぬし、ついにしでかしましたな! それで、いかがですかな? 学園の女神と一晩過ごした感想は。うひひひひひひ」


 悪代官と密談する腹黒商人になりきったかのような天音の物言いに、浩平は戦慄する。

 大きめボリュームの天音の声で発せられた言葉に、オーディエンスと化した周りの生徒達はどよめく。


「おまっ! 何言ってるんだ天音!」


「おーっと、おとぼけは無しでいこうや、今朝、電話でウラは取ってあんだよ!」


 浩平と肩を組み、背中をバンバンひっぱたく天音。


 一晩見ないうちに人柄が急に変わったように浩平は感じた。


 自称ではあるがヤマトナデシコちゃんを標榜していたはずの天音が、今はまるで女海賊だ。


「天音、お前変ったな。なにかあったのか?」


「なんにもねぇでやんすよ、浩平さんと違ってこっちはねぇ……、って! かっ会長! どうしたのその顔! 角がないし、…それに、なんだか、おめめがキラキラで、唇がプルルンで、ほっぺがピンクで……」


 浩平を解放し、今度はミスマルを捕まえ、抱き上げて臭いを嗅いだり、頬と頬をくっ付けたりする天音。


「あー、判った! 副会長の貞操を守るため浩平と戦って敗れて、角が、取れちゃったのね。んまー! こんなチッコイ子いじめて! この性犯罪者が!」


 浩平の鳩尾みぞおちめがけて天音の怒りの鉄拳が飛ぶ。


「じゅあっぐ!」


 体を二つに折り悶絶する浩平。 


「誤解だよ、天音君。これはね、浩平君がやったわけじゃないんだ」


 ニヤニヤしながらもミスマルは一応弁護する。


「んじゃ、わかった! 副会長に浩平を取られた会長が世を儚んで自殺を図ったのね!」


 パチンと手を叩き天音は言う。


「へ?」


 話がおかしい方向に向かっている。

 なんとなくミスマルはいやな予感がしてきた。


「だってー、昨日、私が『会長、好きな人は?』って訊いたら会長言ってたじゃない。『僕も浩平君狙いさ、』って」


「え?」


 その一言にシタテルは反応する。


「そういえば俺、今朝、ベッドで会長に抱き付かれた……」


 今朝のミスマルの下着姿を回想し『あああぁー』と呻き声をあげ頭を抱える浩平。


「なに? 今朝何があったの? えーっと、…副会長がこうなって浩平がこうで、そこに会長がこう抱きついて…」


 手のひらを縦にしたり横にしたり重ねたり、積み上げたりしながら、何かを計算する天音。


「尾ひれを付けないでよ! っていうか昨日のは冗談だって言ったよねぇ! 天音君! 勘弁してくれよ! 僕は僕は……、」


「僕は女体に興味しんしんなんだから!」


「…………」


「…………」


 よもやの攻撃にうろたえたミスマルは、誤解を解くためにあたりに響く大声で叫ぶ。


 しかし、これはこれで大声で言うには問題のある発言だった。


 登校中の女子学生がミスマルの半径20メートル以内から一斉に離れた。


 遠巻きにヒソヒソ会話が交わされる。


 学園内にこの朝の出来事が広まるまで一日かからないだろう。


『生徒会長、学園の中心で女体と叫ぶ』そんな学校新聞の見出しを想像しながら、ミスマルはがっくりと膝と両腕を地面に突いた。


「これって墓穴よねぇ、」


 ポツリと天音が言う。


「ところでえりりんは?」


「昨日は嵐の中、エリドゥは自分の小屋に帰ったんだ。その後警報が鳴って、それでエレヒに行って、……まだ帰ってないんだ」


 天音の問いに、なぜか、すこし困ったような声色でミスマルが答える。


「そう……」


天音の表情が曇る。


「どうしました天音さん」


 急にしょんぼりしてしまった天音にシタテルは心配げに声をかける。


「何となく昨日えりりんが怪我をする夢を見たような気がしてね、まあ、詳しくは覚えてないんだけど」


 天音がそういうのを聞いてミスマルとシタテルは顔を見合わせる。


 結局その日も、その次の日も、エリドゥは学校に来なかった。

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