表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球鎮守府  作者: 山内海
地球鎮守府
14/78

第十六話 眠りを恐れる幼子たちに

第十六話 眠りを恐れる幼子たちに






 地球艦隊が速度を落とし蛇神の眷属を掃討しようとした矢先だった。


「火星鎮守府艦隊より入電! 『我、ヤトノカミの顎門に肉薄するも、これを討つに能わず。地球自転軸北極方面を警戒されたし』」


 ほぼ同時にオペレーターの悲鳴のような声が響く。


「北極方面よりレムル・ヤトノカミ急襲!!」

「なんと!」


 アジスは仰天する。


 火星鎮守府の艦隊に追われ、蛇神が悶絶しながら接近して来る。


 宇宙空間のことなので上下があるわけではないが、火星艦隊の砲火を浴びながら半ば崩壊しつつ接近するヤトノカミは、まるで天界での戦いに破れ、奈落へと落とされる邪神のように見えた。


「ヤトノカミ通過します。至近距離!」


 隕石掃討のために速度を落としつつあった地球艦隊は、対応が遅れた。


 一瞬でヤトノカミの眷属に取り囲まれ、飲み込まれる。

 スクリーンに映る隕石の群れは見る間に距離を縮め、5隻の宇宙船は小天体の嵐に巻き込まれた。


「回避!」


 アジスの叫ぶ声が響くが、『ぐおっ』っというくぐもった炸裂音とともに突然の閃光と爆風がブリッジに巻き起こり、かき消される。

 浩平はシタテルをかばうように抱き寄せた。


 地球への小惑星の侵入をジェ・ヴォーダン君が防ぎきれるだろうか?そのような疑問が一瞬浩平の頭を過ぎったが、強烈な光の奔流に襲われ、何もわからなくなってしまった。


「『ハッスル☆どんすこい』轟沈………」


『一四五まる』のブリッジでラガシュは呆然とメインスクリーンに写る火球を見守る。

『ハッスル☆どんすこい』の残骸は他の隕石と一緒に地球の重力に捕らえられ落ちてゆく。 

 再び戦鎧姿になったエリドゥがブリッジに現れたのは、その時だった。


「エレヒ!」


 エリドゥは怒鳴る。


「ナムジン! アジスは無事か!」


『判らない。反応が消えた』


 エレヒの中央司令室にいる、ナムジンの沈痛な表情が、サブモニターに映し出される。


「アジスは生身で乗り込んだのだ! コントロール室の脱出は確認できたか?」


『一四五まる』以外の船は実はすべて無人艦である。


 エレヒで中継した地球人の思念体が操作をしている。

 銀河惑星連合への加盟の条件『星間文明である』を満たすために、無理矢理地球人が建造し、地球人が操艦しているように見せかけるため、ナムジンが取った苦肉の策である。


 例外としてアジスだけは実際に乗り込んでいる。


 不測の事態で、エレヒよりのコントロールが途切れた時のためでもあるし、後々、銀河惑星連合評議会より審議を受けた際に言い逃れできるように『地球人』として乗り込んだのだ。


 遅れてブリッジにやって来たタキリと天音は、メインモニターを見て事態を把握するや、凍りついたように固まってしまった。


「タキリ! 天音!」


 エリドゥが天音の肩に手を置こうとしたが、天音はその場に崩れ落ちる。


「えりり……、」


 一瞬エリドゥの方を見た天音だった義体は、床に人形のように転がった。


「他の地球人達の精神リンクも切れてしまった。これからサルベージ作業を開始する」


 ナムジンはそう言うと通信回線を閉じた。


「タキリ姫や……、」


 エリドゥはタキリに目を向ける。


「エリドゥ。あの子は、あの火の玉に中にいるのかしら…」


タキリはモニターを凝視したままだ。


「うぅ、うぅむ。」


 唸るようにエリドゥは答える。


「あの子、貴方に憧れていたのよ。バカな子ね。泣き虫で甘えん坊で何にも出来ないくせに………」


 タキリの頬を涙が伝う。


 床に転がる人形が今なお大事そうに握りしめている指輪を、タキリはそっと取り戻す。


『ハッスル☆どんすこい』だった残骸は燃え盛りながら、天叢雲に吸い込まれてゆく。


 ほかの隕石と一緒に原子へと分解されてしまうのだろう。

 そうエリドゥが思った矢先、天叢雲が割れて雲間からまばゆい光が迸った。


天真名井あまのまないが開く!!」


 エリドゥは目を細め必死に、事の成り行きを見守った。


 光の奔流の中に一点の黒い染みのように見え、悶絶するようにのたうち回っていたのは『ジェ・ヴォーダン君』。


 体を震わせる度に鱗のように黒い覆いがはがれてゆき、その中からは周りの光をも圧倒する、白熱した太陽そのものの光が漏れ出でる。


「『アマテラス』か……」


 光の奔流は瞬く間に巨大化し、一対の腕を形作る。

 もはやその光量は直視できないレベルに達している。

 光の腕は広大な掌で『ハッスル☆どんすこい』の残骸を包むとその手を合掌する様に閉じた。

 その途端、一四五まるを除く地球防衛艦隊も、流星群も、天叢雲も、何もかもが一瞬のうちに消え失せ、宇宙空間は何も無かったかのように平穏を取り戻した。


「艦隊の反応が消えました!」


 エレヒのオペレーターが告げる。

 何百もある、それぞれさまざまなかっこうで眠る地球人たちを映し出していたモニター群をチェックしながら作業をしていたナムジンは、オペレータの声を聞き、メインモニターを慌てて注視する。


「何が起こっているんだ?アジスは?防衛艦隊はどうした?」


 星の海を映すだけのモニターを、呆然と見つめるナムジン。

 精神体をプールしている、エレヒのネットワークに、次々とデータが転送される。


「外部からの記憶樹へのアクセスがあります。」


 オペレータが見つめる先のモニターには、誰も操作していないのに文字が入力されていく。


「エレッセア…、」


 そう綴ったあと、エレヒのメインシステムはダウンしてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ