第十四話 アジスの祈る神
第十四話 アジスの祈る神
『ラプシヌプルクル』撃破。
『ランテマリオ』撃破。
一回の海戦の戦果としては赫耀たるものがある。
しかし今回の侵攻は4柱の蛇神がほぼ同時に襲い掛かってくるという、かつて無い規模のものだ。
未だ2柱の蛇神が健在で地球に向かっている。
状況は刻一刻と悪化してゆく。
『レムル・ヤトノカミ』の討伐は、火星鎮守府の艦隊の勇戦を信じ任せるとして、現在追跡中の『レムル・シウコアトル』を、地球鎮守府独力で退治しなくてはならない。
しかし、地球防衛艦隊の戦力は出陣に比べ見る影も無く低下していた。
アジスが倒れ、エリドゥも倒れ、艦隊指令は浩平が代行している。
取りあえず最大戦速でシウコアトルに追いすがり、蛇神の尾が見える位置までたどり着いた。
しかし、もう時間が無い。
エレヒの予測だと、シウコアトルは地球をかすめるように横切り、大量の小天体を地球に撒き散らす。
その殆どが大気圏の摩擦で燃え尽きる小さなものだが、シウコアトルの体内には一撃で地上の全生命を抹殺できる質量をもった天体も少なからず存在する。
その中の一つでも打ち漏らせば、エレヒに住んでいる一部の人々を残し人類は滅亡する。
「浩平さん、ごめんなさい。私が、私が至らないばかりに」
シタテルは連戦で疲れ果て、もう目を開くことも出来なくなっていた。うわ言のように呟く。
移動式のベッドに載せられ、顔を包帯でぐるぐる巻きにしたアジスは、先ほど意識を回復した。
ほとんどの髪の毛は抜け落ち、頭皮は焼け爛れている。
「攻撃開始!」
満身創痍の『ハッスル☆どんすこい』は三度戦端を開く。
「このまま顎門を捕らえても、撃退できるだけの火力が無い」
スクリーンにはドクロマークが踊る。
真剣にコントローラを握る乗組員たち。
「顎門は無視しろ! 危険な小天体の掃討を優先する」
『ハッスル☆どんすこい』の艦砲射撃は疎らになっていた。
「危険天体のマーカーが数が多すぎる! 軌道を逸らせ進入角度を浅くするだけでいい。計算をやり直せ!」
浩平は叫ぶ。
シタテルのヘルメットがカクンと傾く。
軽く失神したらしい。
「シタテル! 無理をするな。もう限界だ!」
浩平はヘルメットを脱がそうとする。
「ですが、ですが!」
シタテルは唸る。体がショートしているのか、肩の辺りから煙が吹き出している。
シウコアトルは地球艦隊の追撃をかわし、地球の横をかすめ飛んでゆく。
後に続く小惑星の群れ。
地球の重力に捕らわれたものは、次々に進路を変えてゆく。
「ここまでか、」
アジスは呟く。
どうやら夢は最悪の形で終わりそうだ。
本当に夢ならばいいが。
「……。」
突然何を思ったか浩平はコントローラの左上にある、マイクのボリューム調整つまみを最大値にすると、マイクに向かって叫ぶ。
「○ドソン!ハ○ソン!・ハド○ン!ハドソ○!」
アジスは言う。
「浩平君………。アレは僕のいつもの冗談だよ、いやだなぁ真に受けちゃって」
しかし浩平はお構いなしで連呼する。
「○ドソン!ハ○ソン!・ハド○ン!ハドソ○!」
「○ドソン!ハ○ソン!・ハド○ン!ハドソ○!」
「○ドソン!ハ○ソン!・ハド○ン!ハドソ○!」
丁度その時。
「エレヒより入電! 救難信号を受信し、銀河惑星連合評議会査察官『ジェ・ヴォーダン君』出撃!」
オペレーターの声が響く。
「へ?」
アジスが間抜けな声を出す。
「地表より高速で接近する物体在り。あれは! あれは!」
「ええええー?!」
アジスは素っ頓狂な声を上げる。
浩平は思う。
人類を導き、かつて神と崇められていた記憶を有する人物が、もしも絶望し、何者かに祈るのならば、いったい何に祈るのだろう。
浩平はその答えをさほど時間を置かずに知ることとなる。
浩平の発した『ハ○ソン』コールに呼応したのか、たまたまなのかは判らないが、『ハ○ソン』コール直後に地表より応援が来た。
その姿をスクリーンで確認したアジスは、思わず『それ』拝んでしまった。
そう、『それ』は流謫の神、ヤシン・アンシャール・アジスが崇めるもの。
トリコロールカラーで白い角が生えていて、諸般の都合であまり詳しくは描写できないのが悔やまれるが、先の戦闘でエリ
以前、東京お台場で大地に立っていた、一分の一のアレである。
アジスの崇めるアレが燃え上がって、飛び上がって、アジスを助けに来てくれたのだ。
「ででん、でででん、……………ひゅう!! それがあったか! くそー! 恐れ多くて考えが及ばなかった!」
なぜか拝みつつも悔しがるアジスは大興奮。
もう浩平には理解不能の世界に入ってしまった。
例のあれはありえない速度で地表よりやってくる。
しかし流星の雨の中にモロに突っ込んで、早々に頭と片腕が取れてしまった。
「まだだ! たかがメインカメラがやられただけだ!」
思わず叫ぶアジス。
連邦の白い『あれ』は突然停止し両足をガバッと広げたかと思うと、早速ラストシューティング体制に入ってしまった。
『びゅーー』ビームライフルの銃口より、黒い液体のようなものが、マヨネーズよろしく噴出する。
今まで、『ガ○ダム』の内部に潜んでいた『ジェ・ヴォーダン君』の本体だ。
「太陽系防衛機構を起動する」
虚空にしわがれた声が響く。
「銀河惑星連合評議会太陽系方面代表ジェ・ヴォーダン認証!」
『銀河惑星連合賢神院採決省略します。』
「太陽系防衛機構『天叢雲』起動」
「キエェェェェェェェェぇー!」
『ジェ・ヴォーダン君』の怪鳥音が宇宙空間に響き渡る。
『ジェ・ヴォーダン君』はどんどん広がり地球をすっぽり覆ってしまうくらいの大きさになった。
隕石は『ジェ・ヴォーダン君』の体に触れると途端に『デス・いんてぐれいと』されて消えていった。
『ジェ・ヴォーダン君』の黒い触手は、四方八方に伸び、危険な天体を次々に消滅させてゆく。
宇宙空間にだらしなく広がる正体不明の黒い何か。
もう生き物なんだか何なんだかさっぱり判らない。
判らないがとにかく危険な小天体は全て消滅した。
「助かったか……」
浩平は言葉を漏らす。その腕には憔悴しきったシタテルが抱きかかえられていた。
そのとき『レムル・ヤトノカミ』を追撃中の火星鎮守府艦隊より緊急通信が入った。




