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勇者二人 ~親友よ。お前は、だれだ?~  作者: しばたろう


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07誰もいなかった

 俺たちは宿で朝食を済ませた後、町へと繰り出した。


 ルーゼの市場は、朝早くから多くの人で賑わっていた。


 威勢よく客を呼び込む露店の主人。


 籠いっぱいに積まれた野菜や果物。


 焼きたてのパンから漂う香ばしい匂い。


 その中を、俺はアリスと並んで歩いていた。


「保存食は多めに買っておいた方がいいな」


「ああ。次の町まで何があるか分からないからな」


「水は?」


「それも必要だな」


 普通に話せている。


 昨日とは大違いだ。


 俺も少しは成長したということだろう。


 そう思ったところで――


『買い物デートか。いいなあ』


 今朝のリザルトの言葉が頭に蘇った。


「…………」


 俺は隣を見る。


 アリスが歩いている。


 美しい金色の髪を揺らしながら、俺の隣を。


 …………。


 いや。


 待て。


 意識するな。


 これは買い出しだ。


 買い物だ。


 デートではない。


「どうした?」


「な、なんでもない!」


「そうか?」


 いかん。


 急に緊張してきた。


 やっぱり、あいつは余計なことしか言わない。


 そんなことを考えながら市場を歩いていた、その時だった。


「……ん?」


 市場の一角。


 食べ物を並べた露店の前に、見慣れた姿があった。


 リザルトだ。


 並べられた品物を、なにやら熱心に物色している。


「いた!」


 思わず声が出た。


 リザルトも俺に気がついたらしい。


 顔を上げる。


 そして、いつもの笑顔でこちらに手を上げた。


 こんなところにいたのか、あいつは!


「アリス」


「ん?」


「あそこだ。あの露店のところにいるのがリザルトだ」


「そうか」


 アリスは静かに答えた。


「ようやく紹介できる」


 俺はもう一度、露店へ目を向けた。


「……あれ?」


 リザルトがいない。


「…………」


 ついさっきまで、そこにいたはずなのに。


 俺は慌てて露店へ駆け寄った。


「おやじ!」


「へ、へい?」


「さっき、ここにいた男はどこに行った?」


「男?」


 露店の主人が困ったように眉を寄せる。


「ずっと、お客は誰もいませんでしたよ? 旦那?」


「…………え?」


 誰もいなかった?


 そんなはずはない。


「…………」


 俺はゆっくりと振り返った。


 少し離れたところに、アリスが立っている。


「アリス」


「なんだ?」


「確かに……ここにリザルトがいたんだ」


 アリスはしばらく俺を見つめた。


 そして近づいてくると、俺の腕にそっと触れた。


「ああ。分かった」


 その後も、俺は買い出しをしながら何度も辺りを見回した。


 人混みの中。


 露店の陰。


 路地の向こう。


 見慣れたあいつの姿を探し続けた。


 しかし――


 結局、リザルトを見つけることはできなかった。


◇


 買い出しを終えた後、俺たちはそのまま町長の館へ向かった。


 勇者は町を訪れたら、まずその町の長に挨拶をする。


 ザナでもそうしたように、この町でもその慣例に従うことにした。


 町長の館は、市場の近くにある立派な石造りの建物だった。


 門番に勇者の証を見せると、すぐに中へ通された。


 アリスと二人、応接室へ案内される。


 大きな机。


 高そうな調度品。


 壁には立派な絵画まで飾られている。


「……どうも、こういう場所は落ち着かないんだ」


「奇遇だな。私もそうだ」


 そんなことを話していた、その時だった。


 バンッ!


 突然、扉が開いた。


「勇者殿!」


「!?」


 恰幅の良い中年の男が、転がり込むような勢いで部屋へ飛び込んできた。


「勇者様が、お二人も! 助かった!」


「え?」


 二人。


 一瞬、その言葉が妙に耳に残った。


 だが、男はそんな俺には構わず、息を切らしながら駆け寄ってくる。


「申し遅れました! 私、この町の町長をしておりますザブンと申します!」


 町長は額の汗を拭うと、俺たち二人を交互に見た。


「突然で大変申し訳ございません! 勇者様方にお願いがございます!」


「何があった?」


 アリスが尋ねる。


「魔物です!」


 町長は窓へ駆け寄り、震える指で町の北を指さした。


「北の森に、熊型の魔物の群れが現れまして!」


「熊型?」


「はい。以前から一、二匹が目撃されることはあったのですが、今朝になって突然、群れで現れたのです。街道にまで出てきて、旅人を襲っております!」


 アリスの表情が変わる。


「数は?」


「確認されただけでも十匹以上です」


「十匹以上……」


 俺は呟いた。


 確かに多い。


 だが――。


 大丈夫だ。


 俺にはリザルトがいる。


 あいつの指示があれば、熊型の魔物が十匹だろうと――。


「…………」


 そこで、今朝の出来事が頭をよぎった。


 誰もいない部屋。


 市場で俺に手を上げたリザルト。


 そして――


『ずっと、お客は誰もいませんでしたよ? 旦那?』


「アルサトス?」


「え?」


 アリスが俺を見ていた。


「どうした?」


「いや……なんでもない」


 俺は首を振った。


 今は考えている場合じゃない。


 旅人が襲われている。


 俺たちは勇者なのだ。


「分かった。行こう」


「ありがとうございます!」


 町長の表情がぱっと明るくなる。


「森までは?」


「北門から街道を進めば、半刻ほどです!」


 アリスが立ち上がった。


「なら、急ごう」


「ああ」


 俺も立ち上がる。


 腰に下げた剣へ手を触れた。


 大丈夫だ。


 リザルトなら、そのうち戻ってくる。


 いつもそうだった。


 突然いなくなって。


 何事もなかったような顔で、また俺の隣に現れる。


 今回だって――


 きっと、そうだ。

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