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勇者二人 ~親友よ。お前は、だれだ?~  作者: しばたろう


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05親友

「アルサトスは……私と旅をするのが嫌だったか?」


「え?」


 思いもしなかった言葉だった。


「昨日、少し強引にパーティに誘ってしまっただろう?」


「…………」


「アルサトスがすぐに返事をしてくれたから、前向きに受け取ってくれたと思っていたんだが……」


 アリスの視線がわずかに下がる。


「もし、私との旅が迷惑だったのなら――」


「違う!」


 思わず、大きな声が出た。


 アリスが驚いたように目を見開く。


「あ……」


 俺自身も驚いていた。


 だが、違う。


 それだけは絶対に違う。


「そうじゃないんだ」


 俺は慌てて言葉を続ける。


 その時になって、ようやく気づいた。


 俺は朝から、自分のことばかり考えていた。


 女性と二人だ。


 緊張する。


 何を話せばいい。


 どう思われているんだ。


 そんなことばかりだ。


 だが、アリスだって俺とは昨日会ったばかりなのだ。


 いきなりパーティに誘った相手が、翌朝からろくに口も利かない。


 それでは、不安になるのも当然ではないか。


 アリスは、俺の顔をじっと見つめている。


 次の言葉を待っているようだった。


 俺は一度、大きく息を吸った。


 そして、意を決する。


「女性と二人で行動するのは、人生で初めてなんだ」


「…………」


 アリスが瞬きをする。


「……本当に?」


「本当に」


「一度も?」


「……一度も」


 なぜ二回確認する。


「だから、その……すごく緊張してしまって」


「…………」


「でも、アリスと行動するのが嫌なわけじゃない。むしろ、その……光栄というか……」


 自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。


「とにかく、ごめん。こんな俺で。だから、気を悪くしないでほしい」


 一気に弁明する。


 言い終わった頃には、顔が熱くなっていた。


 穴があったら入りたい。


 しばらく、アリスは黙っていた。


 やがて――


「ふぅ……」


 小さく息を吐いた。


「そういうことだったのか」


 その表情から、先ほどまでの硬さが消えていた。


 そして、少しだけ笑う。


「そうだな。考えてみれば、私たちは昨日会ったばかりだ」


「……ああ」


「いきなり二人で旅を始めて、すぐに打ち解けろという方が無理な話かもしれない」


「すまない」


「謝る必要はないさ」


 アリスはそう言って、またパンをひとかじりした。


「ゆっくりでいいと思う」


「ゆっくり?」


「ああ。これから一緒に旅をするんだ。少しずつお互いのことを知っていけばいい」


「…………」


 少しずつ、お互いのことを知っていく。


 その言葉が妙に胸に残った。


「そうだな」


 今度は、自然にそう答えることができた。


 アリスが微笑む。


 俺もパンをかじった。


 さっきまでと同じパンのはずなのに、少しだけうまくなったような気がした。


「そうだ」


 アリスが何かを思い出したように言った。


「リザルト、といったか」


「ああ」


「君の友人の話を聞かせてくれないか?」


「リザルトの?」


「ああ」


 アリスが微笑む。


「アルサトスの大切な友人なんだろう?」


「もちろんだ」


 それなら、いくらでも話せる。


「リザルトとは、七歳の頃からの付き合いなんだ」


「そんなに昔から?」


「ああ」


 俺はリザルトとの出会いを話した。


 子供の頃、剣術道場で出会ったこと。


 それ以来、ずっと俺のそばにいてくれたこと。


 戦いになれば、いつも的確な指示を出してくれること。


 俺が剣聖と呼ばれるようになったのも、勇者に選ばれたのも、あいつの力があったからこそだと思っていること。


 そして――


「ただ、気まぐれなんだ」


「気まぐれ?」


「ああ。今回みたいに、突然どこかへ行ってしまう」


「そうなのか」


「そのうち、何事もなかったみたいな顔で戻ってくると思う」


「なるほど」


 アリスが楽しそうに笑う。


「面白い友人だな」


「ああ。振り回されてばかりだけどな」


「でも、嫌いではないんだろう?」


「まさか」


 俺は即答した。


「あいつは、俺の唯一の親友だ」


「…………」


 アリスが一瞬、黙った。


 その瞳が、ほんの少しだけ揺れたような気がした。


 だが、すぐにいつもの穏やかな表情へ戻る。


「……いい友人なんだな」


「ああ」


 俺は頷いた。


 それからも、リザルトの話をした。


 昔の失敗談。


 旅先で突然いなくなったと思えば、いつの間にか戻ってきていたこと。


 俺が人と話せず困っていると、いつも横から茶々を入れてくること。


 話しているうちに、いつの間にか緊張は消えていた。


 アリスは時折笑いながら、俺の話を聞いてくれた。


 そして――


「今度、もっとリザルトの話を聞かせてくれ」


「ああ。もちろん」


 気づけば、昼食はとっくに食べ終わっていた。


 さっきまで、あれほど苦しかった沈黙が嘘のようだった。


 アリスと話すのは――


 思っていたより、ずっと楽しい。


 そんなことを考えている自分に気づき、俺は少しだけ驚いた。

 

◇

 

 昼食を終え、俺たちは再び街道を北へ進んだ。


 不思議なことに、午前中とは違って、沈黙はそれほど苦にならなかった。


 むしろ、アリスのことを少し知りたくなっていた。


 ふと、昼食の時に俺がリザルトの話をしたことを思い出す。


 そういえば。


 アリスには、俺にとってのリザルトのような存在はいるのだろうか。


「アリスには、親友と呼べる人はいるのか?」


「ああ。いる」


 アリスはすぐに答えた。


「ルーシーというんだ。子供の頃から、ずっと一緒にいる」


「へえ」


「白いワンピースがよく似合う、愛らしい娘だ」


 そう言うアリスの表情は、どこか楽しそうだった。


「そんなに可愛いのか?」


「ああ。とても」


「そうか」


 アリスがそこまで褒めるのなら、よほどの美少女なのだろう。


 白いワンピースを着た、可愛らしい少女。


 そんな姿を勝手に想像する。


 いつか、会ってみたいものだ。


 それからも、俺たちは時折、他愛もない会話を交わしながら街道を歩いた。


 好きな食べ物。


 これまで旅した町。


 勇者に選ばれる前は何をしていたのか。


 どれも大した話ではない。


 けれど、俺にとっては新鮮だった。


 リザルト以外の誰かと、こんなふうに話をしながら歩く。


 そんな経験は、ほとんどなかったからだ。


 午前中はあれほど長く感じられた道のりも、午後は不思議なほど早く過ぎていった。

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