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勇者二人 ~親友よ。お前は、だれだ?~  作者: しばたろう


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4/12

04二人きり

 次の目的地は、街道を北へ進んだ先にある町、ルーゼだ。順調にいけば、夕方には到着する。


 俺は、北へと延びる街道を歩いていた。


 季節は初夏。


 街道沿いの草木は青々と茂り、吹き抜ける風にはまだ春の名残の涼しさがあった。


 見渡せば、どこまでも平原が広がっている。


 色とりどりの小さな花が咲き、風が吹くたびに草原が波のように揺れる。


 少し離れたところには、鹿の親子らしき姿。


 そして遥か彼方には、雄大な山脈が連なっていた。


 実に気持ちのいい旅日和だ。


 ……なのだが。


 俺には、この心地よい風景を堪能する余裕など、まったくなかった。


 なぜなら――


 俺の隣を。


 弓使いの勇者、アリス=ノバンが肩を並べて歩いているからだ。


 ……待て待て待て待て。


 どうしてこんなことになっている。


 ボッチ&コミュ障のこの俺が。


 美しい女性と二人きりで旅をしている。


 しかも、肩を並べて。


 俺は生まれてこの方、リザルト以外の誰かとこうして肩を並べて歩いたことなど、記憶する限り一度もない。


 それが、突然これだ。


 昨日出会ったばかりの美しい女勇者と二人旅。


 ……様々な段階を飛ばしすぎではないだろうか。


 心臓が口から飛び出しそうだ。


 恐る恐る、隣を歩くアリスを盗み見る。


 金色の髪が、初夏の風になびいていた。


 アリスは口元にわずかな笑みを浮かべ、正面に広がる風景を楽しみながら歩いているように見える。


 綺麗だ。


 ……いや。


 何を考えているんだ、俺は。


 慌てて前を向こうとした、その時だった。


 ふいにアリスがこちらを向いた。


 目が合った。


「……?」


 アリスが、どうした、とでも言いたげに小さく首を傾げる。


 俺は慌てて目を逸らした。


 ああ。


 情けない。


 情けないぞ、俺。


 こんな時、リザルトがいてくれたら。


 あいつなら適当に場を盛り上げて、俺とアリスの会話まで取り持ってくれただろう。


 なぜ、こんな重要な時に限っていないんだ。


 俺は今ほど、親友の不在を恨めしく思ったことはなかった。


 そのまま歩く。


 沈黙。


 俺とアリスの足音だけが、街道に響いている。


 何か話さなければ。


 せっかく二人で旅をしているのだ。


 何か。


 何でもいい。


 何か話題を――


「いい風だな」


「えっ?」


 突然アリスが口を開いた。


 驚いて顔を向ける。


「気持ちのいい日だと言ったんだ」


「あ、はい。そうですね」


「うん」


「…………」


「…………」


 ……終わった。


 会話が終わった。


 なんということだ。


 せっかくアリスの方から話しかけてくれたというのに、わずか二往復で会話を終わらせてしまった。


 俺は馬鹿なのか。


 いや、馬鹿なのだろう。


 横を見る勇気もなく、ただ前だけを見て歩く。


 しばらくして、再びアリスが口を開いた。


「アルサトス」


「は、はい!」


「……なぜ敬語なんだ?」


「え?」


 思わずアリスを見る。


 彼女は少しだけ可笑しそうに笑っていた。


「昨日は普通に話していただろう?」


「そ、そうだったか?」


「ああ」


 言われてみれば、そうだった気もする。


 昨日は魔物との戦いの直後だった。


 町長に抱きつかれたり、宴に参加させられたり、アリスから突然パーティに誘われたり。


 あまりに色々なことが起こりすぎて、緊張する暇すらなかったのかもしれない。


 だが今日は違う。


 二人きりだ。


 逃げ場がない。


「私たちは同じ勇者だ。それに、これから一緒に旅をする仲間でもある」


 アリスは前を向いたまま言った。


「そんなに緊張しなくてもいい」


「……分かった」


「本当か?」


「……努力する」


 アリスが吹き出した。


「ははっ。努力するものなのか、それは」


「俺にとっては、かなりの努力が必要なんだ」


「そうなのか」


「そうなんだ」


 今度は。


 会話が続いた。


 ほんの少しだけだが。


 それでも、さっきよりはずっといい。


 俺は少しだけ肩の力を抜いた。


 再び、初夏の風が街道を吹き抜ける。


 草原が揺れる。


 アリスの金色の髪も、さらりと風になびいた。


「ところで、アルサトス」


「なんだ?」


「さっきから気になっていたんだが」


 アリスがこちらを見る。


「お前、私のことをちらちら見ていないか?」


「…………」


 心臓が止まりそうになった。


「み、見てない!」


「そうか?」


「見てない!」


「なら、いいんだが」


 アリスは不思議そうな顔をしながら、再び前を向いた。


 危なかった。


 非常に危なかった。


 魔王と戦う前に、俺はこの旅で死ぬかもしれない。


◇


 昼時になった。


 街道脇にちょうど大きな木を見つけたので、その木陰で昼食を取ることにした。


 草の上にゴザを敷き、今朝、町で仕入れておいたパンとチーズを鞄から取り出す。


 朝からずっと歩きっぱなしだ。


 さすがに腹が減った。


 俺はパンをひとかじりする。


 うまい。


 空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。


 もうひとかじり。


 そこで、ふと顔を上げる。


 目の前では、アリスがうまそうにパンをかじっていた。


「…………」


 ……待て待て待て待て。


 この状況はなんだ?


 昨日出会ったばかりの美しい女勇者と、木陰にゴザを敷いて二人並んでランチ。


 まるで、ピクニックデートではないか。


 いや、もちろん違う。


 これは勇者二人による魔王討伐の旅である。


 断じてデートなどではない。


 ないのだが。


 もし、一緒に街道を歩くのがレベルAだとすると。


 これは――レベルSだ。


 もう、どう振る舞えばいいのか分からない。


 俺はアリスの方を見ないようにしながら、黙々とパンをかじる。


 ひたすら食べる。


「…………」


「…………」


 また沈黙だ。


 どうする。


 何か話すべきなのか。


 いや、食事中なのだから無理に話す必要はないのではないか。


 しかし、男女二人で無言でパンを食べ続けるというのも、これはこれでどうなのだ。


 そんなことを考えていると、


「アルサトス」


 アリスが口を開いた。


「は、はい」


「…………」


 返事をしたが、その後が続かない。


 不思議に思って顔を上げる。


 アリスはパンを膝の上に置き、こちらを見ていた。


 どこか思いつめたような表情だった。

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