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勇者二人 ~親友よ。お前は、だれだ?~  作者: しばたろう


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02もう一人の勇者

 隣町ザナに到着したのは、ちょうど日が落ちようとしている頃だった。


 街角には魔導灯がぽつぽつと灯り始め、人々の活気に満ちた声が通りを行き交う。


 さすがは王都近郊の街だ。


 規模も大きく、人の流れも絶えない。


 リザルトは街に入るなり、


「ちょっと見物してくる」


 そう言い残して、人混みの中へ消えていった。


 俺はため息をつきながら、その背中を見送る。


 リザルトは俺と違って、賑やかな場所や華やかなものが好きだ。


 人混みも祭りも平気で飛び込んでいく。


 ああいう自由で無鉄砲なところは、少しうらやましく思う。


 俺には真似できない。


 俺はそのまま町長の館へ向かった。


 勇者は街を訪れたら、まずその街の長に挨拶をする。


 そういうものらしい。


 理由は二つ。


 一つは情報を仕入れるため。


 もう一つは、その土地で何か困り事が起きていないか聞くためだ。


 勇者の目的はもちろん魔王討伐である。


 だが、旅の途中で人々を助けることもまた、大切な役目だと聞いている。


 もっとも――


 そんな決まりを律儀に守る勇者ばかりではないらしい。


 王様も、


「わしの話を最後まで聞かんで出発する勇者もおる」


 と、ぼやいていた。


 だが俺は、慣習や決まり事には素直に従う。


 昔からそういう性格だ。


 つまらない奴だとリザルトにはよく言われる。


 俺もその通りだと思う。


 だが、性分なのだから仕方がない。


◇


 町長の館は、町の中央広場に面した立派な石造りの建物だった。


 夕暮れの空を背に、その姿は重厚な影を落としている。


 門番に勇者の証を見せると、すぐに中へ通された。


 応接室に案内され、しばらく待つ。


 落ち着かない。


 豪華な椅子。


 磨き上げられた机。


 壁に飾られた絵画。


 こういう場所は苦手だ。


 王城ほどではないが、それでも緊張する。


 帰りたい。


 そんなことを考えていると、慌ただしく扉が開いた。


 恰幅の良い中年男性が転がり込むように飛び込んでくる。


「勇者殿! 丁度良いところに!」


「!!」


◇


 男性は息を切らしながら俺の前まで駆け寄った。


「町長のザザンでございます! 勇者様、お助けを!」


 そう言うなり窓へ駆け寄り、震える指で外を指さす。


「街の裏手に魔物が大量に押し寄せております! このままでは城壁を越えられる!」


◇


 俺は町長が用意した馬に乗り、街の裏手へ急いだ。


 石畳の大通りを駆け抜ける。


 道行く人々が悲鳴を上げて左右へ避ける。


 やがて前方に城壁が見えてきた。


 その一角では、多くの兵士たちが城壁の上に集まり、慌ただしく動き回っている。


 背中にしがみつく町長が叫んだ。


「あそこです! あそこに魔物が!」


 城壁の手前で馬から飛び降りる。


 町長とともに階段を駆け上がった。


 息を切らせながら城壁の上へ出る。


 目の前には夕日に染まる平原が広がっていた。


 遠くには赤く輝く山脈。


 一瞬、その壮大な景色に見とれる。


 だが、


「あれです!」


 町長の声に我に返る。


 城壁の外側を覗き込む。


 そして、絶句した。


 無数のオオトカゲが城壁に張り付き、蠢いていた。


 壁一面を埋め尽くす灰色の鱗。


 長い尾。


 鋭い爪。


 そのすべてがうごめきながら、こちらへ這い上がってきている。


 気持ち悪い。


 思わず後ずさる。


 兵士たちは俺の横で必死に応戦していた。


「撃て!」


「石を落とせ!」


 矢が飛ぶ。


 岩が落ちる。


 だが数が多すぎる。


 倒しても倒しても、次のオオトカゲが這い上がってくる。


 このままでは時間の問題だ。


 そう思った、その時だった。


 一本の矢が風を裂く。


 次の瞬間。


 城壁を登っていたオオトカゲのこめかみを正確に射抜いた。


 さらに一本。


 また一本。


 どれも寸分違わず急所を貫いていく。


 恐ろしい精度だった。


 しかも速い。


 あまりにも速い。


 俺は矢の飛んでくる方向を見る。


 城壁の上。


 さらに高く設けられた監視台。


 そこに人影があった。


「女……?」


 夕日を背にした弓使い。


 金色の髪を風になびかせながら、機械のような正確さで矢を放ち続けている。


 一本。


 二本。


 三本。


 放たれるたびにオオトカゲが地面へ落ちていく。


「あの方はアリス=ノバン様です!」


 町長が叫ぶ。


「あなたと同じ勇者です!」


 勇者。


 女の勇者か。


 アリス=ノバンは矢をつがえたまま、こちらへ視線を向けた。


「そなたが勇者アルサトスか!」


 凛とした声が響く。


「私ひとりではここを守るので精一杯だ!」


 そう言って顎で平原の先を示す。


「あれを見てくれ。奴らを操っているボスがいる!」


 俺はその方向へ目を凝らした。


 最初はよく見えなかった。


 だが、しばらくして気付く。


 平原の中央。


 無数のオオトカゲたちが城壁へ押し寄せるなか、その遥か後方に、一匹だけ動かない個体がいた。


 まるで王が玉座に座るように。


 真紅の巨体を地に横たえ、悠然と鎮座している。


 全身を真紅の鱗に覆われた異様な大トカゲ。


 周囲の個体より二回りは大きい。


 あれだ。


 俺にも分かった。


「すまないが、あいつを仕留めてきてくれないか!」


「わかった」


 短く答える。


 俺は階段を駆け下りた。


 馬に飛び乗る。


 すると城壁の上から町長が叫んだ。


「開門! 勇者殿が打って出るぞ!」


 重い音を立てて城門が開く。


 馬一頭が通れるだけの隙間。


 その瞬間だった。


 背後から人影が飛び込んでくる。


 軽やかな着地。


 誰かなど確認するまでもない。


「勇者様の腕の見せ所だな」


 リザルトだった。


 いつの間に戻ってきたのか。


 俺の後ろに跨がり、楽しそうに、

 リザルトは笑う。


「さあ行こうぜ、アルサトス」


 夕日は沈みかけていた。


 俺は手綱を握り直した。


 そして馬を走らせる。


 城門を抜けた瞬間、無数のオオトカゲがこちらに気付いた。


 何匹もの大トカゲが地を這い、左右から飛びかかってくる。


 だが――


「右!」


 リザルトの声が飛ぶ。


 俺は迷わず剣を振るった。


 飛びかかってきたオオトカゲの首筋を斬り裂く。


「左!」


 今度は反対側。


 振り向きざまに一閃。


 牙をむいて迫っていた個体が地面を転がる。


「また左!」


 次々と飛び込んでくる魔物。


 だが、その動きはすべてリザルトに見抜かれていた。


 俺は待ち構えていたかのように剣を振るう。


 飛びかかる敵をカウンターで迎え撃つ。


 斬る。


 斬る。


 斬る。


 馬は一度も速度を落とさない。


 まるで風のように平原を駆け抜けていく。


 やがて、俺たちは群れの中心を突破した。


 目の前に、真紅の巨体が現れる。


 近くで見ると、その大きさは想像以上だった。


 まるで小山だ。


 分厚い鱗は鎧のように重なり合い、夕日を浴びて赤黒く光っている。


 馬が怯えたようにいなないた。


 これ以上近づけるのは無理だ。


 俺は馬の背を蹴った。


 地面へ飛び降りる。


 そしてそのまま、ボストカゲへ向かって突進した。


 真紅の大トカゲが低いうなり声を上げる。


 巨体が動く。


 丸太のような前足が振り下ろされた。


「右!」


 リザルトの声。


 俺は横へ飛ぶ。


 直後、地面が爆ぜた。


 土と石が吹き飛ぶ。


「前だ!」


 駆ける。


 大トカゲが長い尾を横薙ぎに振るう。


「しゃがめ!」


 身を伏せる。


 頭上を尾が通過した。


 風圧だけで体が揺れる。


 まともに当たればひとたまりもない。


 だが。


 リザルトの声は一度も外れない。


「左前足!」


 飛び乗る。


「そのまま登れ!」


 分厚い鱗の隙間へ足を掛ける。


 まるで岩山を登るようだった。


 大トカゲが暴れる。


 体を揺らす。


 振り落とそうとする。


 それでも俺は駆け上がる。


 背中。


 首。


 そして――頭。


 巨大な頭部の上へ到達する。


「そこだ!」


 リザルトの声が響く。


 俺は剣を両手で握り直した。


 全身の力を込める。


 そして、


「はあああああっ!」


 渾身の一撃を振り下ろした。


 刃が脳天を貫く。


 真紅の大トカゲが絶叫した。


 大地を震わせる断末魔。


 巨体が大きく揺れる。


 そして――


 動かなくなった。


 静寂が訪れる。


 その直後だった。


 城壁の方から歓声が上がる。


 俺は振り返った。


 城壁を埋め尽くしていたオオトカゲたちが、一斉に逃げ出している。


 蜘蛛の子を散らすように。


 右へ。


 左へ。


 我先にと平原の彼方へ消えていく。


 群れを率いていた王が倒れたのだ。


 もう戦う理由はないのだろう。


 城壁の上では兵士たちが武器を掲げ、歓声を上げていた。


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