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勇者二人 ~親友よ。お前は、だれだ?~  作者: しばたろう


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11/12

11ドラゴン

 俺たちは、山岳地帯に近い町、ザナドに到着した。


 魔王領へも、少しずつ近づいている。


 王都周辺の町とは、明らかに雰囲気が違った。


 行き交う人々の表情は険しく、街道には武装した兵士や冒険者の姿が目立つ。


 魔王の存在が、少しずつ現実味を帯びてきている。


 俺とアリスは、例によって町長の館を訪ねた。


 だが、今回は挨拶をする間もなかった。


「勇者様!」


 町長は俺たちの姿を見るなり、駆け寄ってきた。


「隣町が……サウスザナドが、ドラゴンに襲われています!」


「ドラゴン?」


 思わず聞き返した。


 その名を聞くだけで、背筋に緊張が走る。


 ドラゴン。


 これまで戦ってきた魔物とは、まるで格が違う。


「被害は?」


「すでに町の一部が焼け落ちています! 兵士たちも必死に応戦しておりますが、とても……」


 町長の声が震える。


 俺とアリスは顔を見合わせた。


「行こう」


 アリスが言った。


 俺も頷く。


 俺たちは馬に飛び乗り、サウスザナドへ向かった。


◇


 だが、俺には一つ、不安があった。


 あれ以来――


 リザルトが現れていない。


 ザナを出てから、もう何日になるだろう。


 そして今。


 ドラゴンとの戦いが迫っている。


 戦闘になれば、俺は役に立たない。


 これまでの戦いも、リザルトの指示があったからこそ勝てた。


 今回も、アリスに頼ることになるのだろう。


 彼女はたしかに強い。


 あれほど正確に矢を射る弓使いを、俺は見たことがない。


 だが、相手はドラゴンだ。


 いくらアリスが強いとはいえ、一人でドラゴンと戦えるのだろうか。


 一抹の不安が、胸をよぎった。


◇


 サウスザナドが近づいてきた。


 その上空を、巨大な影が旋回している。


 遠くからでも、その大きさが分かる。


 黒い巨体。


 翼を広げるだけで、空を覆い尽くしてしまいそうだ。


「……あれがドラゴンか」


「ああ」


 アリスも険しい表情で空を見上げている。


 俺たちは、そのまま町へ入った。


 大通りを馬で駆け抜ける。


 家々が崩れ落ちている。


 あちこちから煙が上がり、炎が夜空へ向かって伸びていた。


 逃げ惑う人々。


 消火に走る兵士たち。


 その頭上を、黒い影が悠然と飛んでいる。


 やがて、俺たちは町の広場へたどり着いた。


 馬から飛び降りる。


 その瞬間だった。


 轟音。


 地面が揺れた。


 目の前に、巨大な何かが舞い降りる。


 土煙が舞う。


 その向こうから、二本の巨大な脚が現れた。


 さらに上を見る。


 黒い鱗。


 巨大な翼。


 長い首。


 そして、こちらを見つめる金色の瞳。


 ドラゴン。


 俺たちを、自分に歯向かってくる愚かな者と認識したらしい。


 ドラゴンは、ゆっくりと歩き始めた。


 一歩。


 また一歩。


 その動きには、焦りも緊張もない。


 まるで、俺たちを獲物として、狩りを楽しんでいるかのようだった。


「私が相手をする」


 アリスが一歩前へ出る。


 弓を構えた。


 その瞬間――


 ドラゴンの前足が動いた。


 近くにあった木や石が、まとめて薙ぎ払われる。


「!」


 俺とアリスは、とっさに飛び退いた。


 木が宙を舞う。


 石が地面を跳ねる。


 ドラゴンは、そのまま間合いを詰めてくる。


 速い。


 あんな丸太のような腕にまともに殴られたら、一撃で終わる。


 俺たちは左右に散った。


 次の瞬間――


 強烈な風圧が俺を襲った。


「うわっ!」


 体が宙に浮く。


 そのまま地面を転がり、近くの樹木に背中を叩きつけられた。


「ぐっ……!」


 一瞬、息ができなくなる。


 それでも、なんとか身体を起こす。


「アリス……!」


 周囲を見回す。


 いた。


 だが――


 アリスは、近くの木にもたれかかっていた。


 片腕を押さえている。


 立ち上がろうとしているが、身体に力が入らないようだ。


 それでも、目だけはドラゴンを睨みつけている。


 まずい。


 ドラゴンが、一歩ずつアリスへ近づいていく。


 俺の手が震えた。


 剣を握る。


 ――リザルトはいない。


 その事実が、頭をよぎる。


 剣を構えたところで、俺に何ができる?


 ドラゴンの動きなんて読めない。


 避けることもできない。


 まともに戦えば、殺される。


 それでも――


 俺は走り出していた。


 アリスを助けなければならない。


 たとえ、ここで俺が死ぬことになろうとも。


 アリスには、指一本触れさせない。


「うおおおおおおおっ!」


 剣を振り上げ、ドラゴンへ向かって駆ける。


 ドラゴンがこちらを向いた。


 目が合う。


 その金色の瞳が、笑っているように見えた。


 ドラゴンが腕を振り上げる。


 俺は剣を握りしめた。


 次の瞬間――


「そうこなくっちゃ。親友」


 耳元で声がした。


「……リザルト?」


「右によけろ!」


 反射的に身体を右へ投げ出す。


 直後。


 俺がいた場所を、ドラゴンの腕が薙ぎ払った。


 轟音。


 地面が砕ける。


「上!」


 飛ぶ。


「次、下だ!」


 身を伏せる。


 頭上を巨大な爪が通り過ぎる。


 顔を上げる。


 俺の真横を、リザルトが走っていた。


「右!」


「ああ!」


「左!」


「分かった!」


 懐かしい。


 俺が剣なら――


 リザルトは目。


 俺には見えない敵の動きを、リザルトが見抜く。


 七歳の頃から、ずっとそうだった。


 俺たちは、二人で一人前だ。


「リザルト!」


「なんだ!」


「ありがとう!」


「こんなときに何を言い出す!」


「今、言いたくなった!」


「お前は変な奴だ!」


「それは自覚してる!」


 ドラゴンとの距離が縮まる。


 あと十歩。


「右!」


 かわす。


 あと五歩。


「リザルト!」


「なんだ!」


「ずっと一緒にいてくれ!」


 リザルトが、一瞬だけ目を丸くした。


 そして――


 いつものように笑った。


「別にかまわない」


 あと三歩。


「左だ!」


「ああ!」


 ドラゴンが口を大きく開いた。


 次の瞬間。


 灼熱の炎が吐き出される。


「前!」


 俺は炎の脇を駆け抜ける。


 熱い。


 髪が焦げる。


 それでも止まらない。


 あと一歩。


「リザルト!」


「ああ!」


「ありがとう、親友!」


「どういたしまして、親友!」


 俺は大地を蹴った。


「行け、アルサトス!」


「ああ!」


 全身の力を込める。


 剣を突き出す。


 そして――


 俺の剣が、ドラゴンの胸へ深々と突き刺さった。


 硬い鱗を貫き、その奥へ。


 ドラゴンの巨体が、大きく揺れる。


 金色の瞳が見開かれる。


 そして――


 ゆっくりと、その巨体が崩れ落ちた。


 轟音とともに、大地が震える。


 俺は剣を握ったまま、その場に立ち尽くした。


 ドラゴンが動かない。


 倒した。


 俺たちは――


 ドラゴンを倒したのだ。

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