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勇者二人 ~親友よ。お前は、だれだ?~  作者: しばたろう


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10/12

10見えない親友

「同じって?」


 俺は恐る恐る聞き返した。


 アリスはすぐには答えなかった。


 俺の顔をじっと見つめ、それから静かに口を開く。


「私は、リザルトを見たことがない」


「…………え?」


「君から何度も話を聞いた。リザルトがどこにいたのか。何をしていたのか。何を話したのか」


「…………」


「だが、私には一度も見えなかった」


 何を言っているんだ。


 リザルトはいる。


 ずっと俺のそばにいた。


 七歳のあの日から。


 剣を握る時も。


 魔物と戦う時も。


 勇者に選ばれた時も。


 ずっと。


「おそらく――」


 アリスが続ける。


「他の人間にも、見えていない」


「…………」


 頭の中に、何かが浮かんだ。


 昨日の朝。


 確かに部屋にいたはずのリザルトが、突然消えた。


 閉まったままの窓。


 そして、今日の市場。


『ずっと、お客は誰もいませんでしたよ? 旦那?』


「…………」


 違う。


 そんなはずはない。


 だが。


 思い返してみれば――。


 俺は今まで、リザルトが俺以外の誰かと話しているところを、一度でも見たことがあっただろうか。


「…………」


 ない。


 一度も。


 リザルトに話しかけるのは、いつも俺だった。


 リザルトの言葉に答えるのも、いつも俺だった。


 戦っている時だってそうだ。


 あいつの声を聞いていたのは――。


 俺だけだ。


「じゃあ……」


 声が震えた。


「リザルトは……」


 その先を言えなかった。


 言葉にしてしまえば、何かが壊れてしまう気がした。


 だが、もう分かってしまった。


 リザルトは、俺にしか見えない。


 俺にしか声が聞こえない。


 つまり――。


「…………」


 目の前が歪んだ。


 何も考えられない。


 これまで当たり前だと思っていた世界が、足元からひっくり返っていく。


 その時。


 俺の手に、温かいものが触れた。


「…………」


 アリスの手だった。


 俺の手の上に、そっと自分の手を重ねている。


「君からリザルトの話を聞いた時、私は気づいたんだ」


「…………」


「君は、私と同じなのかもしれない、と」


 俺はアリスを見る。


「だから……俺と旅を?」


「ああ」


 アリスが頷いた。


「いずれ、君自身が気づく時が来ると思った」


「…………」


「そして、その時――君は剣を振れなくなるかもしれないとも思った」


 今日の戦いが脳裏をよぎった。


 アーマーベアを前にして。


 俺は剣を握ったまま、動けなかった。


 リザルトの声が聞こえなかった。


 ただ、それだけで。


「放っておけなかった」


 アリスが言った。


「だから、君に同行を申し出たんだ」


「…………」


 そうだったのか。


 ザナの町で出会ったばかりの俺に、突然パーティを組もうと言い出したアリス。


 なぜ俺なんかと。


 ずっと不思議だった。


 ようやく、その理由が分かった。


「…………」


 頬に何かが流れた。


 涙だった。


 どうして泣いているのか、自分でも分からなかった。


 今まで信じていた世界が崩れたからなのか。


 それとも。


 アリスが、そんな俺を放っておけないと思ってくれたことが嬉しかったのか。


 分からない。


 アリスは何も言わなかった。


 ただ、俺の手を握っていた。


 しばらくして。


「アルサトス」


「…………なんだ?」


「一つだけ、言わせてほしい」


 アリスの手に、少し力がこもる。


「リザルトは、君の親友だ」


「…………」


「それだけは、間違いのない事実だ」


 俺は答えられなかった。


 ただ、俯いたまま。


 その言葉を聞いていた。

 

◇


 翌日、俺とアリスはルーゼの町を後にした。


 再び、街道を北へ進む二人。


 いや。


 正確には、三人か。


 ルーシーも含めて。


 それから俺は、アリスを通してルーシーとも会話するようになった。


「ルーシーは、君のことを気に入っているそうだ」


「それは光栄だ」


「…………」


「どうした?」


「余計なことを言うなと、ルーシーが怒っている」


「ははっ」


「……ルーシー。なんてことを!」


「ルーシーはなんて?」


「すまない。それは言えない」


「なんだよ。気になるじゃないか」


 不思議なものだ。


 俺には姿も見えないし、声も聞こえない。


 それでも時々、俺にもルーシーが見えるような気がした。


 ふと、アリスが頬を緩める。


「君にルーシーを紹介できてよかった」


「ああ。俺もだ」


 すると、アリスは少し真面目な顔になった。


「ルーシーのことだが」


「ああ」


「最近、考えることがあるんだ。ルーシーは、私たち勇者に神が授けてくれた特別な存在なんじゃないかって」


「神が?」


「ああ。魔王討伐は一人では成し得ないと、神が判断されたのではないかと」


「いや」


 俺は首を振った。


「単純に、寂しがり屋の勇者に友達を一人つけてくれただけかもしれないぞ」


 アリスが一瞬、目を見開いた。


 そして――。


 満面の笑みを浮かべる。


「ああ。きっとそうだ」


◇


 それからも旅は続いた。


 山中で。


 街道で。


 あるいは、立ち寄った町で引き受けた依頼で。


 俺たちは何度も魔物と対峙した。


 そのたびに、俺は剣を握った。


 そして、待った。


『右だ、アルサトス!』


 あの声が聞こえてくるのを。


 だが――。


 リザルトが俺の前に現れることは、一度もなかった。


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