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【魔導船】で始める大逆転貿易録 ~無一文から始める、最強毒舌メイドとの冒険商人ライフ~  作者: へいたれAI
第六章 お家再興の第一歩

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第21話 暴走メイドとヘタレの一撃




「あー、あー、聞こえますかー? こちらはオプティヌゾン王国、臨検船でーす。ちょっと止まりなさーい」


 夜の海に俺の情けない声が拡声器を通して響き渡る。

 月明かりに照らされた不審船――大型の二本マスト帆船は、俺の呼びかけに対して非常にわかりやすい反応を返してきた。


 ドォォン!


 火を噴く舷側砲。俺たちの魔導船の鼻先を、魔法の光弾が掠めていく。


「ひぃぃっ! 撃ってきた! いきなり撃ってきたぞ! 野蛮人かよ!」


「海賊や密輸船が素直に『はいそうですか』と止まるわけがないでしょう。旦那様の頭の中はお花畑ですか?」


 サクラは涼しい顔で舵を切る。

 まるで散歩中の犬のリードを引くような手軽さで、魔導船は直角に近い機動を見せ、次々と飛来する魔法弾を紙一重で回避していく。


「ちょ、揺れる!」


「横で騒がないでくれますか。掴まっていてください」


 サクラの表情には焦りのかけらもない。むしろ、この展開を待っていた節がある。

 彼女は華奢な指先でコンソールを操作すると、船首に備え付けられた『魔導砲』のロックを解除した。


「警告射撃を行います」


「おいおい、大丈夫かよ!? 相手は木造船だぞ? 沈めたらクレアも海の藻屑だぞ!」


「問題ありません。出力を極限まで落としてあります。狙うのは『推進力』のみです」


 シュンッ!


 乾いた発射音と共に、青白い光線が闇を切り裂いた。

 それは吸い込まれるように敵船へ向かい――


 バギィィィン!!


 轟音と共に、敵船の後部マストが根元からへし折れた。


「うわぁ……」


「おや、計算通りですね」


 サクラの言う「計算通り」は、ここからが本番だった。

 後部マストが前方に倒れ込む。当然、帆船のマスト同士は無数のロープや索具で複雑に連結されている。

 倒れた巨木は、その重量と勢いを乗せて、前方のメインマストに激突したのだ。


 メキメキメキッ、ズドォォォン!!


 ドミノ倒しのように、二本のマストが絡み合いながら海面へと落下していく。

 今まで風を受けて船を走らせていた巨大な帆が、今度は巨大な抵抗体となって海中に没した。


 急激なブレーキがかかる。

 快調に飛ばしていた敵船は、海に落ちたマストという名の巨大な錨(アンカー)に引きずられ、つんのめるようにして停止した。


「すげぇ……一発で廃船にしやがった」


「廃船ではありません。航行不能にしただけです。これであれは逃げられませんね」


 サクラがニッコリと笑う。悪魔の微笑みだ。

 その光景を見て、甲板で待機していた『暁』の面々が殺気立つ。


「よ~し、やるぞ野郎ども! 先日の汚名、ここで返させてもらう!」


 リーダーのイレブンさんが、盾を構えて吠えた。

 全身包帯姿だが、その闘志は怪我の痛みを凌駕しているらしい。


「サクラさん、寄せてくれ!」


「御意」


 サクラは魔導船を急加速させた。

 停止して無防備になった敵船の横腹へ、一直線に突っ込んでいく。


「ちょ、サクラ!? スピード落とさないの!? ブレーキ! ブレーキ踏んで!」


「接舷(ボーディング)とは、こうやるのです」


 ドッガァァァァァン!!


「ぐえっ!?」


 俺が甲板の手すりに顔面を強打したのと同時に、魔導船は敵船に強引に横付けされた。いや、あれは衝突事故だ。


 だが、その衝撃すら計算に入れていたのか、『暁』のメンバーは揺れを利用して敵船へと飛び移っていく。


「うおおおお! 『暁』の名にかけてぇぇぇ!」


「私の魔法を封じた礼、たっぷりしてあげるわ!」


 イレブンさん、セブンさん、ファミーさんたちが怒涛の勢いで乗り込んでいく。


「旦那様。私たちも行きますよ」


 サクラが優雅にスカートを翻し、軽々と敵船へ跳躍した。

 その背中には、なんとミーシャがおぶさっている。


「わぁっ! 高いですぅ! でもすごいです、サクラお姉ちゃん!」


「ちょ、待て! 置いてくな!」


 一人取り残された俺は、揺れる船の上でしばし呆然としたが、意を決してロープに掴まった。


「くそっ、どうにでもなれ!」


 俺も必死に敵船へと乗り移った。

 そこは、すでに地獄絵図だった。


「どきやがれぇ!」


「ぎゃぁぁぁ!」


 イレブンさんの盾が敵を吹き飛ばし、ロームの剣が舞う。セブンの二丁拳銃が火を噴き、的確に敵の足を撃ち抜いていく。


 さすがはAランクに手が届きそうな実力者集団だ。先日の敗北は、奇襲とクレアを守りながらというハンデがあったからだろう。万全の状態での彼らは強かった。

 そして、それ以上に恐ろしいのが。


「邪魔です」


 ドガッ!


「そこ、どいてください」


 バキッ!


 サクラだった。

 素手である。武器など持っていない。ただの平手打ちやデコピン(に見える打撃)で、武装した男たちが宙を舞っている。


 さらに、


「えいっ!」


 ミーシャが近くにあった木樽を持ち上げ、ボウリングの球のように投げつけた。

 ゴロゴロゴロ、ストライク!


 屈強な男たちがピンのように弾け飛ぶ。


「やった! 当たりましたご主人様!」


「う、うん。すごいねミーシャ……」


 俺は戦場の片隅、マストの残骸の影に隠れて震えていた。

 俺の仕事? 邪魔にならないこと、これに尽きる。

 圧倒的な戦力差に、敵の賊たちは次々と無力化されていく。制圧完了まであと少しかと思われた、その時だ。


「動くな! こいつの命はないぞ!」


 船尾楼の扉が開き、薄汚い男――船長らしき人物が現れた。

 その腕には、猿ぐつわを噛まされ、後ろ手に縛られた少女、クレアが抱えられている。


 喉元には鋭いナイフが突きつけられていた。


「クレア!」


 俺は思わず叫んでしまった。

 クレアの瞳が俺を捉える。恐怖に震えているが、怪我はないようだ。


「くそっ……人質かよ」


 イレブンさんが動きを止める。

 さすがに人質の喉元に刃物があっては、迂闊に手が出せない。

 優勢だった場が一転、膠着状態に陥る。


 船長は歪んだ笑みを浮かべた。


「へっ、貴族の娘だ。殺したくはねぇが、俺たちが逃げるためなら仕方ねぇ。全員武器を捨てろ! さもなきゃこいつの喉を掻っ切るぞ!」


 典型的な悪党のセリフだ。

 だが、この状況では効果的すぎる。

 『暁』のメンバーが悔しげに武器を下ろそうとした、その時。

 サクラが、スッと視線を俺に向けた。

 無言だ。だが、その目は雄弁に語っていた。


 ――『旦那様。貴方の腰にある飾りはなんですか?』

 ――『今撃たなくていつ撃つんですか? このチキン』


 俺の腰にあるのは、護身用の魔導銃だ。

 有効射程内。相手は俺を冒険者だとも思っていないのか、視線は強そうな『暁』やサクラに向いている。


 俺は完全にノーマークだ。

 だが、人を撃つ? この俺が?

 手が震える。もし外したら? もしクレアに当たったら?

 冷や汗が背中を伝う。


 その時、俺の視界の端で、ミーシャがこちらを見ているのに気づいた。

 彼女の猫のような瞳は、真っ直ぐに俺を見ていた。

 信頼の眼差しだ。


 『ご主人様ならできます』。そう言われている気がした。

 

 ……あーもう! 

 可愛い奴隷に見つめられて、ここで逃げたら男じゃないだろ!


「え~い、ままよ!」


 俺はホルスターから銃を引き抜くと同時に、狙いもつけずに引き金を引いた。


 ドン!


 乾いた音が響く。

 俺の手の中で衝撃が走る。

 次の瞬間、船長の肩から血飛沫が上がった。


「ぎゃっ!?」


 船長が体勢を崩し、ナイフを持つ手が緩む。

 クレアを抱えたまま前のめりに倒れ込む――その隙を見逃すような連中ではなかった。


「とうっ!」


 猫のようなしなやかさで飛び出したのは、ミーシャだった。

 彼女は倒れ込む船長からクレアをもぎ取ると、そのまま甲板を転がって距離を取る。


「確保しました!」


「でかしたミーシャ!」


 人質がいなくなれば、もう遠慮はいらない。


「よくもやってくれたな、この野郎!」


 ブチ切れたイレブンさんの盾バッシュが、負傷した船長の顔面に炸裂した。

 船長は悲鳴を上げる間もなく気絶。

 リーダーがやられたことで、残っていた賊たちの戦意はポッキリと折れた。


「こ、降参だ!」


「助けてくれ!」


 そこからは一方的な制圧劇だった。

 甲板上の敵を縛り上げると、『暁』のメンバーはミーシャを連れて船内へ突入していく。


「まだ隠れているネズミがいるかもしれねぇ! 一匹残らず燻り出せ!」


「鼻が利くミーシャちゃんがいれば楽勝ね!」


 ポプラの探索能力と、山猫族の野生の勘。そして物理で殴るサクラ。

 狭い船内で待ち伏せしようにも、彼らの前では無意味だったようだ。

 船内からは時折「ぎゃー!」とか「ごめんなさーい!」という悲鳴が聞こえてくる。


 俺たちが乗り込んでから、わずか二時間。

 月が中天に昇る頃には、船は完全に制圧されていた。


「ふぅ……終わったか」


 俺はへたり込むように甲板の木箱に座り込んだ。

 震えが止まらない手を、反対の手で押さえる。

 人を撃った感触が残っている。だが、それ以上に……。


「グラス!」


 拘束を解かれたクレアが、涙目で駆け寄ってきた。


「……無事でよかったよ、クレア」


 俺は精一杯の強がりで、震える声でそう言った。

 だが、とりあえず一つだけ言えることがある。

 

 俺、めちゃくちゃ頑張ったよな?

 誰か褒めてくれ。切実に。



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