契約を破ってはいけません
◆(レイジ視点)
シャスティの正体が王女だと知ってから、俺は気になることをシャスティに思い切って聞いてみると、話してもいいという。
ただ、あの依頼に関わった人以外に広めるわけにもいかないので、魔石案件に関わった俺、美玲、陽樹、所長のみで会議室へと抜け出してきた。
「それで、なんでゼダを追っていたんだい?」
所長が会議室のドアの鍵を閉めながら言う。
「理由は……端的に言えば、現在のルディアは危機的状況にある。その原因のひとつがあのクソ野郎だから」
「ルディアの危機だって? 私の記憶だと、あの国は太古から続く、現代では珍しい魔法国家だ。簡単にどうこうできるとは思えないが」
その言葉に目を伏せながらシャスティはつづけた。
「私もそう安心しきっていた……事件が始まったのは父様、先王が亡くなってから始まった」
段々と、語気が強くなっていく。
「父様がなくなったことで、次の王がどうなるかが問題になった。私は……少し事情があって継承権がないから関係なかったんだけど、前々から誰が継承するかは問題になってたの。そんななかで次期国王を明言する前に父様がなくなったから、かなり大慌てだった」
「これ自体はゼダと関係あるという証拠もないし、なんともいえないけど、しばらくしてからゼダが国の内政官に人形を潜り込ませてきた。大臣が気づいたからなんとかなったけど、ここから国のいたるところで人形が見られるようになったの」
美玲は険しい表情でシャスティの言葉に耳を傾けていた。
「そして、内側からどんどんと、毒が蝕むように国は崩れていった。文書の改ざん、国の重鎮の殺害、重要インフラの破壊……これらが、瞬く間に起こった。水道に大量の睡眠薬を流されたり……」
陽樹もわなわなと震え始めた。
「しまいには、あいつ自身が手紙を送ってきた。王族の血を継ぐものの人形を作りたい。素材を提供しろってね。怒りで全身の血管が爆発するかと思ったわ」
シャスティの話を聞くと、ゼダは本当にどうしようもない野郎のようだと再確認できた。
……それにしても、王族の血を継ぐものの人形って、シャスティはどうなんだ……?
「ただ、そんな心配しないでほしい。危機とは言ったけど、うちには優秀な魔道士が多くいるからね、被害は出たけど、ゼダの人形自体はもう討伐済み。王位について不在だったのもゼダどうこうよりも前からだったし、単純に色んな対応に追われているって言った方が正しいかも」
「でも、それで私の怒りが収まるわけがない。そんな時にアルトと出会ったの」
シャスティは一通りを話し終えると、肩の力を抜いた。
「そこで、アルトさんが出てくるのね」
「そうだよぉ、権限使ってちょちょいとねぇ」
美玲がシャスティの話に相槌を打った時、ドアのほうから飄々と間延びした声がした。
「アルト! お前なにしてんだ! 不法侵入だぞ!」
「ごめんなさぁい先輩☆」
「こいつ!」
いつ入ってきたんだこの人!全く気付かなかった!
「この際言っちゃうんだけど、ボクら特務班、というかリエンドがゼダを追っていてねぇ。たまたまルディアにボクがいたときに国を出る手伝いをするってことで魔道のほうで個人契約を交わしたんだ」
「魔道のほうの契約?」
普通の契約となにがちがうんだ?なんか宙に浮く羽ペンで書く的な?
「あぁ、そうね、契約についてはまだやっていなかったわね」
美玲はそう言って、普段俺に魔道の授業をするようにビシッと背筋を伸ばした。
「契約とは人同士に条件を付与する手段ね。大きくわけて2つ、そもそもそれを破れないようにする世界契約、破っても構わないけれど、相応の代償が伴う個人契約があるわ」
「世界契約は義務、個人契約は任意みたいなもんか」
「そうね、個人契約の場合、代償を受けるけれど、条件を破ること自体はできるわ」
そういえば、ゼダも契約という単語を出していた気がするな。やっぱりあいつ一人の犯行ではないということなんだ。
「私とアルトのは個人契約だったから、ちょっとボロが出ても平気だったってこと……そ、そこまで重い代償、でもなかったし」
「ゼダを殺すためなら、どんな契約だってしてやるわ」
その瞳には強い執念が見えた。こいつの今までの行動の芯はゼダへの怒りなんだ。
「私は彼に協力、特務班としてゼダの対処に参加することと引き換えにして国を出たの。その協力の内容の一つが貴方たち、便利屋への潜入、私の素性は混乱を招くから隠すことも条件に契約を結んだってわけ」
そういうことだったのか。確かに突然、自分は王女だなんて話を聞いてもまともにとりあうとは思えない。
「つまり、君はゼダを追うためにアルトと契約を結んだ。そして便利屋に協力することでゼダに近づこうとしていたってことかい?」
所長が補足する。
「うん、で、契約内容に関してはこの通り、代償に関してはゆるゆるだったけど」
「そうそう、まぁ、ボクとの契約は特に難しい代償でもないけどねぇ」
アルトは普段以上にニマニマしている。
「契約についてはわかったけど、シャスティの代償ってなんだったんだ? 特に難しい訳でもない代償ってなに?」
「あー、まぁ気になるよね、えっと、その……これも言わなきゃだめ?」
これまでで一番歯切れが悪い。そこまでの事じゃないと言っていたが、もしかして、重い代償を支払っていたんじゃ……シャスティは言いにくそうに口をつぐんでいる。
シーンとみんなが静まり返った中、男が口を開き、その長い沈黙を破った。男のニヤニヤした笑顔が割増でウザく見える。
「………………コスプレさぁ」
さっきまでの空気をぶち壊すように、アルトは自信満々に答えた。
「はい?」
コスプレ……?聞き間違い?
「ボクは彼女が契約を破ったら、つまり嘘がはがれたと自覚したとき、その都度かわいいコスプレをノリノリで動画に残すという代償をつけたのさぁ!」
またもや誰もが沈黙する。しかし、約一名、みるみるうちに顔が赤くなっている。体も震え始めた。
「ッッッ! あああああ! もうやめて! 思い出させないで!」
シャスティは赤面した顔を隠すように地面に項垂れている。
「いやぁ、メイドとか可愛かったよぉ、あ、でも個人的にはもっとみんなの前で素を出してもらってぇ、契約ビリビリにぶちやぶっちゃうレベルまでいってもらってもよかったんだよぉ? もっと色んな衣装で動画撮れたし。便利屋に行く前はもっとひどかったもんねぇ」
「は? 代償ってそんな変なもんでもいいのかよ!」
思わず口に出た。本当に意味わかんないこの人!
「最低……それにしても、契約内容をそこまで自由にできるなんて、無駄な事に実力を発揮しているのが気に食わないわ……」
美玲はゴミを見る目でアルトを見ている。
「おい! ちなみにメイド以外にどんなコスプレをさせられたんだ……!」
「うるさい稲垣! しゃべんな! バカ!」
「いや、気になるじゃんか! あとバカ言うな!」
過程はどうあれ、アルトの発言によって重苦しい空気というのはすっかりなくなったのだった。
◆
慰労会も終わりに近づき、各々が談笑したり、食べ過ぎで休憩したりしている。アルトはひょっこり顔を出したかと思えばすぐにいなくなった。
「えー、秘密暴露会をずーっと待ってたのにー! じゃあレイちゃん構ってよー!」
「や! だ! 俺も一応病み上がりなんだよ! 休憩させろ! 陽樹にでも構ってもらえ!」
体を揺らすな!なんでこいつ俺にだけだる絡みしてくんだよ!陽樹には雑なのに!
「お、じゃあゆら! あっち向いてホイでもやるか!」
そう言って陽樹はジャンケンを繰り出す構えをとる。なにかオーラが見えるようだ。
「やーりーまーせーんー! 陽樹と違って子供じゃないし! 一人でやりなよ!」
「一人じゃできねぇよ! あと俺と違ってってなんだよ!」
くそ!陽樹にまわしたのは間違いだった!うるさいコンビが覚醒する……!美玲に助けを求めるか……?
そう思って美玲の方を向くと、前とは違ってしっかり使いこなせるようになったスマホでなにか調べ物をしているようだ。イヤホンまでしている。
チラリとこちらを向いたが、ジト目で話しかけるなと訴えかけてくる。面倒に巻き込まれたくないらしい、イヤホンしてるのは、こうなることを予測していたのか!
所長……は当てにならない。シャスティはさっきまでの顔の赤みは引いて、落ち着いた様子だ。
「……シャスティ、助けてくれ」
「なに、あんたが自分で蒔いた種でしょ……あの二人っていつもこうなの?」
そういえばシャスティは月城とは今日が初対面か、聞かれた通り、普段の様子を思い出す……
「ああ、月城って結構陽樹の扱いが雑なんだよ。この前なんか、わざわざ陽樹のプリンを目の前で狙って食べてたし」
「そうなんだ……いや、え、もしかしたらかまって欲しいとかあるんじゃないの? 好きだからつい意地悪しちゃう! 的な!」
シャスティが突然早口になった。
まさか、コイツ恋バナ好きなのか。
「いやぁ、ないだろー、それ言ったら俺も意味不明な絡みされてるんだけど、一体なんなんだよ」
「……! もしかしたら、かまって欲しいってのはあるけど、実はレイジが本命で、稲垣になにかけしかけることで、誤魔化してるとか!」
こいつの推理能力は恋愛に振り切ってんのか!悪魔式に関しては鋭い指摘をしてた気もするが、あれは演技によるたまものだったのか?てか、推理っていうか妄想だな!
「ないない。面白がってるだけだろ」
「えー? そうかなぁ? あ、もしかしてレイジ、別に本命が……!」
「ちょっと待て! 全部恋愛に繋げんな! 頭真っピンクか!」
「頭真っピンクってなによ! ワンチャンあるでしょ! ワンチャン!」
ためだ!こいつも平穏枠になり得ない!誰か助けてくれ!




