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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章【魔道のある日常】
20/24

正体

◆(レイジ視点)



 夜が明け、病院を出るとすぐ、事務所へ向かう。相変わらず夏の暑さはしんどいが、足取りは軽かった。


 気がつけば事務所についている。所長に伝えられた時間よりも早くついてしまった……そうだ、昨日の事件、ニュースにでもなっているんじゃないか?そう思って、共有スペースのテレビのリモコンを探す。

 机の下にあった。

 だれだ、ちゃんと片付けなかったの……まぁ今はいい、電源ボタンを押して、チャンネルをニュースに切替える。


「……どこも、やってない?」


 あれだけの事があったのにどこの局も報道していない。今度はスマホを取り出し、ネットニュースを見る。

 どう検索しようと、昨日の駅の騒動は出てこなかった。アルトがなにか手を回したのだろうが、ここまで綺麗に痕跡を消せるものなのか。


「なーにやってーんの?」


 後ろから声をかけられる。この声は……


「月城か……」


 彼女は便利屋メンバーの一人、月城ゆら。

 金髪にウルフカットのうるさいやつだ。


 なんというか、こいつ苦手なんだよな、軽い感じで話してくるけどなんか、陽樹みたいに誰でも態度が変わらないって感じじゃないんだよな。


 こいつは俺にだけダル絡みしてくる。この前なんか『ねぇねぇ! レイちゃん(俺の事)は好きな子とかいるのー?』だの、突然聞いてきてしつこいのなんの、根も葉もない話が突然湧いてでくるもんだからこいつには困ったもんだ。

 同年代だからなのか知らないが、変な絡みがめんどい!


「あー! もしかして、なんか所長が追ってた事件のニュース探してるー? すごいよねー! アタシも詳細知りたいのに、なーんも情報ないの!」


 後で本人に聞けばいいんじゃないか?と言いそうになったが、とどまった。悪魔式、ゼダ、リエンドといった情報……これらは結構な機密だ。変に話すことは出来ない。


「そうそう! それで、しょちょーのおもしろ秘密暴露会やるってホント!?」

「おもしろ秘密暴露会……?」


 今日の慰労会がそんなふうに言われているのか。一体誰がそんな変な嘘をもらした……いや、何となくわかった。


「一応聞くけど、誰がそんなことを?」

「ようきー!」

「だろうな」


 あいつマジで、なにやってんの。


「それ、慰労会としか言われてないぞ」

「えー! そうなのー!」

「そうだよ」

「うそだー! 真実を話せうそつきー! レイちゃんは泥棒なのかー!」


 嘘つきは泥棒のもと、じゃねぇんだよ!


 月城はソファの後ろから体をグラグラと揺らしてくる。そんなことされてもマジで違うし!それに美玲に今回の依頼で知った内容は他言するなって言われてたから話せないんだよ!


「マジで話せないんだよ! あきらめろ!」

「まぁいいや、あとで慰労会の時にしょちょーに聞くし!

「……教えてくれるわけなくない?」


 絶対聞いてやる!と言い残し、月城は共有スペースから出ていった。あいつもこのビルに住んでるし、部屋に帰ったんだろう。


 すると、入れ替わるように美玲がやってきた。


「あら、もう来てたの」

「おう、慰労会って食堂でやんだよな」

「そうね、今グラムさんが大量に料理を作っているみたい」


 いたって普通の会話だ。しかし、この後に続くことはなかった。

 何とか日常へと戻り、気持ちを切り替えるように慰労会というイベントも予定されている。でも、魔石案件は謎を多く残していった。


 シャスティが王女とはどういうことか、ゼダの契約先の目的とはなにか、俺はいったいなんなのか……整理がついていない問題は山積みだ。


「——シャスティって本当に王女なんかね?」


 沈黙を破るため、思い切ってその疑問をぶつけてみる。


「そうね……私としては本当だと思うわ。丁寧に猫をかぶっていたけれど、どの面にも嘘は感じられなかった。それに、ルディアは魔法国家、魔法に突出した王族が治めている国なのよ。そう考えると彼女の魔法の実力にも納得いくわ」

「外国のワケアリ王女ってことか……」


 地理には疎いため、あまり詳しくはないが、ルディアは確かこの国の西にある大陸のどっかにあった、遠い国という印象だ。

 大陸の国ってだけでもすごいものだ。あっちは日本から見たら魔境らしいし。


「まあ、彼女自身が話してくれるのを待った方がよさそうね。あのゼダとかいう男と因縁があるようだし」


 ゼダ、圧倒的な力と異常思想を持つ男、あいつの脅威が消え去ったわけではない。やはり力を知識をつけなくてはいけない。


「そうだな、俺もあいつがまた来てもぶっ飛ばせるくらい強くならなきゃな」

「……あなたはもう十分に強いわよ。私と違って」


 美玲は、右手で左腕をぎゅっと握りしめた。


「え? どういう……」

「……忘れて頂戴。ちょっといろいろあってつかれたみたい」


 明らかに何かを隠している美玲だったが、唇をかむのを見て、もう何も言えなくなった。



◆



「うおお! すげぇ! バイキングだぁ! すげぇなグラム!」

「すごいのは当たり前だ! それよりも大声を出すな! 唾が飛ぶ!」


 事務所について数時間後、俺たちは慰労会を開催していた。グラムさんが一人でホテルのビュッフェ並みのものを作ったと聞いたときは震えた。マジで何者なんだあの人。


 俺は料理をとりながら、食堂の隅の方で俯いているシャスティを見る。なんか、ちいさく見える。


「でもなんか規模が大きくねぇか?」

「そうかい陽樹、これはテリムさ……シャスティさんのちゃんとした歓迎会も兼ねているし当然じゃないかい?」


 陽樹の質問に所長が答えた。なにそれ、俺も初耳なんだが。

 その言葉にシャスティはピクリと動かすと、目を見開いた。


「なんで、私の、歓迎会って……みんなに、嘘だってついてたのに……?」

「ん? なんだい? もう君は便利屋の一員だ。やめたいって言っても辞めさせないよ。ただでさえ人員不足なんだからね!」

「とんだブラック企業ね。辞職しようかしら」

「いや待ってくれ綾崎! 君がいなくなるとうちの仕事が回らなくなる!」


 美玲が軽く所長をあしらうのを見ながら、シャスティは茫然としてから、また下を向いてしまう。

 ……仕方ない。


「なぁ、シャスティ」

「な、なに」

「お前はゼダを追ってたのか?」

「……うん」


 小さく、それでもしっかりと肯定した。

 目を逸らしているが、嘘では無いのは分かる。


「俺たちに嘘をついてたのも、その目的のためで、必要がなければ正体を隠すこともなかったか?」

「うん、実は嘘とかつくの苦手だし、貴方たちとは……仲良くなりたいと思った、し」

「じゃあいいだろ、何気にしてんだ? 俺らはなーんも気にしてないぞ。顔、上げてみろよ」


 シャスティは恐る恐るといった様子で顔をゆっくりと上げた。所長も美玲も陽樹も、そして俺も、あと月城にほかの人たちも、シャスティが仲間になることに何も問題など感じていない。


 便利屋がそんなこと(邪魔だなんて)思うわけが無い。むしろみんな新しい仲間が増えるのだと、にこやかな表情だ。


 俺だって素性がハッキリしないまま受け入れて貰えたんだ。ここはそういう場所だ。


「そうだよーシャスたん! アタシたちはまだ話したことないし、何があったかは聞いてないけどー、ここにいる人たちはそんなこと関係なくやっていけるからねー!」


 いつの間にか横にやってきた月城が、シャスティの手を握る。


「そうね。レイジだってよくわからないし」


 俺をいじってきやがったな美玲!


「俺らもうダチだろ! 話したくないこと、話せないことなんて誰にもあるぜ!」


 陽樹は肉に食らいつきながらしゃべるな!


「……いい、の?」

「ああ! だろ? みんな!」


 全員が声を揃って肯定した。シャスティの目には少し涙が溜まって顔が赤い。


「ほんとは……ほんの数日だけど、居心地が良くて……国では王女として生活しなきゃ行けなかったから、友達も全然いなくて、普通に過ごせてるのがとても楽しかったの。ここにいられたら、どれほど幸福なんだろうって、そう思ってた」


 シャスティは深呼吸しながら言葉を紡ぐと、まっすぐに前を向いた。


「みんながいいって言うんなら、私も、便利屋に入る……!」

「そうかい! よし新人ゲットだ! よろしく、シャスティ君!」


 所長がいち早くガッツポーズした。


「これからは俺の後輩か! レイジ先輩って呼んでもいいぞ」

「は! そんなふうに呼ぶわけないでしょ! ただのレイジよ! あんたは!」


 んだとこいつ!さっきまでナイーブだったくせに!


「じゃあ、改めて自己紹介すべきだよね」

「私の本当の名前は、シャスティ・ルディアス」

「ルディア王国第一王女……です」


 そう言うと、丁寧な所作でお辞儀をした。

 驚くものも、すでに聞いていたものもいる。多様な反応はあるが、誰もそれでシャスティを遠ざける訳ではなかった。


「よろしくな、シャスティ」


 そっと手を差し出す。


「うん! よろしく!」


 シャスティはその手を握り返すと、目元の涙を拭った。

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