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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章【魔道のある日常】
12/24

仕掛け

◆(レイジ視点)



 役割分担の結果、俺は美玲と組むことになった。陽樹は魔法以外の直近の事件について聞き込みを行い、俺たちは魔力の視点から続けて調べることにした。


「ベルディオの悪魔式に必要な点は後3つ、つまり生贄があと三人必要ということね。その被害を出さない為にもここでけりをつけないと」

「了解。でも、何調べんだ?」

「魔力の跡、もしくは術式か何かが仕掛けられていないかを調べましょう。色々あって後回しだったけれど、何かあると思うわ」


 先にラーメン屋を調べることにした。店主に調べる許可を取りにいくと、俺たちを覚えていたようで、顔を見るなりすぐに駆け寄ってきた。


「お前たちはあの時の! すまねぇ、大人だってのに、俺はなんも出来なかった……!」

「いえ! 謝らないでください! それよりもあなたもお店も無事で良かったです」

「だがなぁ、魔法なんかは正直さっぱりなんだが、それでも子供に任せていいものか」

「いいんだよ親父さん、俺らなんともないだろ?」

「兄ちゃんが戻ってった時はビビっちまったがな!」


 背中をどんどん叩かれる。痛い。


「それはすいません……」

「まぁいいだろう! 元気そうだしな。今日はどうした、定休日だが、ラーメンならサービスするぞ」


 サービスと聞いて美玲が反応するも、すぐにピシッと背筋を伸ばした。お前仕事中だぞ。さすがに大丈夫だよな。


「……是非食べたいです。でも、今日はちょっと調べたいことがありまして、お店と周辺を調べて回ってもいいですか?」

「なんだ、そういうことか。なら遠慮なく調べてくれ。あの気持ち悪い腕のやつについてだろ?」

「はい、ありがとうございます。その、厨房って入れますか?」

「大丈夫だ。ほら、こっちだ」



◆



 厨房内を調べるのには理由があった。それは、マンイーターが現れた際、厨房へ押し入ろうとしていたからである。マンイーターはその名の通り、人を喰らうものだが、魔力に引かれているのでは?という意見があった。もしかしたら、厨房内にマンイーターを引き寄せる魔力を帯びた何かがあるのかもしれない。


「ただの魔道具とかが帯びた魔力とかに反応しているようじゃ今回のようにはならないから、明らかに不自然なものがあるか調べるわよ」

「うす」


 厨房内をくまなく調べるが、これといって不自然なものは見つからない。ラーメンの材料や軽い魔道具は見つかったが、どれも調理道具でおかしな点もない。

 美玲も店内をくまなく調査したが、これも特に得られたものはなかった。


「特にないわね」

「そうだな」


 美玲と魔力を帯びたものを見合っていると、店主が戻ってきた。


「どうよ? なんかみつかったか?」

「いえ、これといって何も、すいません、次は外を調べてもいいですか」

「いいぞ、そこに勝手口があるからそっから出な」


 店の周辺を調べる。魔力や術式をくまなく探すが、何も見つからなかった。


「ここには何も無いのかしら……」

「空き地の方調べるか」

「そうね……」


 店主に改めてお礼を行ってから、あの空き地へと向かった。



◆



 空き地にも特に変なところは見当たらなかった。


「うーん……手がかりなしとはね」

「なにか見落としてたりしねぇかな」


 と言っても、土地全体を調べたが、術式もなにも一切出てこなかった。


「発生場所がここでないのなら、一体何を目印に移動してきたのかしら……まさか、たまたま? 店に魔道関連の流れのような痕跡はなかった。私たちに引き寄せられた? だとしたらどこから発生した? いつ? 黒幕があの場にいた?」

「……悪魔式に使われる点以外の視点が必要かもしれないわね。少し資料を取りに戻りましょうか」


 あんま俺、役に立ててないな……

 なにか新しい視点があれば、気を引き締めるため頬を叩くと、一つ思いついた。


「ちょっとさ、一旦あの日の俺らの行動を思い出してみねぇか?」

「どうして?」

「いや、何か見落としてるかもしれねえじゃん。犯人がなんか証拠残してても、あの後回収したとか、あるかもしれないし」

「そうね、わかったわ」


 そうして二人であの日を思い出す。あの日はまず、依頼があった。依頼を達成し、その後ラーメン屋に移動、食事中にマンイーター襲撃、美玲は空き地で対応、俺は客を誘導後、ラーメン屋に戻り、魔道具を持って美玲の元へ戻る。そして撃退……


「特になんもなさそうかな」

「不自然なことは何もないわね」

「あの特殊なマンイーターにほかに変なところはねえかな?」


 俺が疑問を発すると、美玲は何かをぶつぶつとつぶやき始めた。


「ん……待って、そもそも前のマンイーターの時点でレイジの魔力にマンイーターはひかれていた。でも、あのマンイーターはそんなことはなかった。それどころか少し理性を感じた。むやみにレイジに襲い掛からないのに、何かに惹かれるかのように表れた理由は……」


 何も思いつかないのでもう一度一日を振り返った時、ひとつなんでもない事を思い出した。


「そういや、依頼の時、魔道具に頭打たれたな。地味に痛かったんだよなあれ。今でもコブが残ってるし、ほら」

「まだあったの? 少し見てあげるからこっち来なさい」


 美玲がそう言った途端、美玲が俺の頭を固定する。美玲はコブをじっくりと見るとなにかに気づいたようで、あっと声を出す。


「これは……! あなたコブのところに術式が付与されてるじゃない!」

「え!?」


 美玲が魔道具箱から、ピンセットを取り出す。そして、慎重に術式をコブから切り取った。


「ここまで小さく魔力を感じない術式、見たことない。内容は……」

「引き寄せる、匂い、魔力、微量に人除けのまじないのようなものもある……まさか」

「なんの術式かわかったのか?」

「これはおそらくマンイーターを引き寄せる術式……こんなものを用意できるのは、マンイーターの創造主だけ……!」


 それが指すこととはつまり……


「あの依頼主か!」


 その依頼主の印象と言えば、ものぐさで世間から離れたような感じだった。ボサボサの髪の毛に、散乱した部屋。こんな感じなら、術式の管理なんて考えもしないだろうと思ったものだ。喋り方もやたら強烈だった。なんというか腹話術で喋る人形みたいな、声が別のところから発せられているような。


「魔道具の暴走を装ってレイジにこの術式を貼り付けた?」

「なぜ、わざわざ? たまたまか、狙ってか……分からないけれど、とにかくあの依頼主はクロとみて良さそうね」

「じゃあ依頼主のとこに行くか?」


 レイジがそう提案すると、美玲はいや、と首を振る。


「……いや、一旦戻って他と共有してからにしましょう。確定させる材料は多い方がいいわ」


 こうして、依頼主が怪しいという情報を得た俺たちは、ひとまず事務所に戻ることにした。



◆



 事務所に戻ると、全員が戻ってきていたようだ。

 陽樹達の見つけた事件、シャスティの予想、そして俺達の依頼主が怪しいという情報をすり合わせる。


「なるほど、どちらもよく見つけてきてくれた。私の持ってきた情報も役立ちそうだ」

「私はこの件の依頼主の元へ行ってきた。ちょっと前から私の金で研究を再開してもらっていてね」

「その結果、ラーメン屋のマンイーターが変異した時期というのが、およそ一ヶ月前だとわかった」

「一ヶ月ってことは……!」


 その時期は陽樹達の言っていた、行方不明者が出たタイミングと一致している。


「つまり、ラーメン屋のマンイーターは、本当は路地裏の地点の生贄だったってことね」

「そこで、何らかのトラブル発生! 一ヶ月近く見つからないまま、あの日ラーメン屋に現れたってことだよな!」


 トラブルがどのようなものだったのか、魔石をなぜ埋め込んだのかという点を除けば全ての点が繋がった。


「では、次の行動は依頼主の元へGO! ですかね?」

「うん、まだ、依頼主が黒幕と確定は出来ないが、何か知っていることは確かだ。とりあえず、依頼主と面識のある二人が処置に不適切があったとでも言って、中に入り、問い詰める。レイジ君の安全については私がなんとかしよう。陽樹とテリムさんは、外で待機してもらう」


 全員が了承し、決行は後日となった。



◆かくしごと(天草視点)



「にしても、一か月前、ね」


 誰も残っていない暗い事務所、少し寂しい空間は考え事をするのに程よかった。


「偶然……とは思えないな」


 一か月前……特殊なマンイーターが生じたタイミング、それはレイジ君がうちに来た時期と重なっている。彼の特異性はそこらの魔道士と比べるまでもない。

 しかし、だとすると、この事件の背後には王核にまつわる何かがあることになる。


「決めつけは良くない。今は作戦だ。……レイジ君に渡したあれが上手く働くといいが」


 気が付くとそっと左薬指に触れている。


「そうだ。帰らないと」


 ここに残っていてもしょうがない。家に帰ってごはんを作ろう。



◆(シャスティ視点)



「あー、危なかった」


 今日は本当に危なかったー。危うくボロが出るとこだった。あの男の子が鈍くて助かった。

 まだ、私の正体を明かすことは出来ない。そのような契約だからどうしようもない。もしもバレてしまえば、どうなる事か。


「でも、隠し通すのって、ほんっとダルい。なんでこんな面倒なことさせられてるの、私」


 今思えば意味不明な条件だ。正体を隠して便利屋を手伝えだなんて、隠す意味がどこにあるの?そういう趣味?面白そうだから的な?

 どうしたってまだ隠し通さなければいけないことに変わりは無い。この事件の黒幕がしっぽを出すまで、意地でも私は、シャスティ・テリムなのだ。


「あー、今日も頑張りましょう! なんか、トーンが低いか? 頑張り、頑張りましょう! あーわかんない、今日は寝る! 明日は明日の私が何とかするでしょ」


 演技練習を明日の自分に丸投げしたところで、結局苦しむのはまた自分なのだが、連日慣れないキャラクターを演じた疲れがあるし、とっとと眠りたい。

 そう思いつつ、しばらくスマホをいじってから、少女は眠りについた。


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