怪しげな男
◆(レイジ視点)
俺が担当した依頼主が色々な証拠から見て現状何かを知っている可能性が高いと睨んだ便利屋は、依頼を担当していた俺と美玲筆頭に、依頼主の調査をすることになった。
作戦が立ってすぐに、この前の依頼に不手際があったと連絡を入れると、すぐに返事が返ってきた。
そして、空いている日程があるとの事で約束を取りつけることができた。
今日はその決行日である。俺と美玲が依頼主の家に入り込み、陽樹、シャスティは外で待機、所長は別で行動するらしい。
「よし、着いたわね。準備はいい?」
「おう、これはただの機械の無線なんだよな」
「そうね、魔力感知に引っかからないためにね」
小型の無線機で待機組もそれぞれ応答する。魔道具では魔力感知に引っかかる可能性があるため、念の為だ。
指に嵌められたリングに触れる。宝石は固く、少し冷たい。
同時に懐に潜ませたある魔道具に意識をやり、息をゆっくり吐いた。
「じゃあ、いくわよ……」
美玲が屋敷のベルを鳴らす。
ベルを鳴らしてから数十秒、依頼主が扉を開ける。
「どうぞ、お入りくだサイ」
「申し訳ございません。こちら側の不手際ですので、すぐに終わらせます」
こうして、あっさりと屋敷に侵入できた。
『外に異常ないぜ。捕まえるぞ』
『……こちらも異常ないです』
待機組からも報告が入る。
俺たちを閉じ込めて何か起こそうとする可能性は今のところないか?
少し良いように考えたが、警戒は怠らない。
すぐに、この前修復した術式の元へ着く。ここからが勝負だ。不具合を直すように演技しなくてはならない。
「では、作業に取り掛かりますね」
俺が直すフリをしている間に美玲が何気ない会話から、事件に関する話に繋げていく。
「今回はお手数お掛けしてしまい、本当に申し訳ないです」
「気にする事はない。人間にミスはつきものダ」
「そう言って貰えると幸いです……今回はしっかりと間違いないようチェック致しますので……」
話が上手く、だんだんとこの辺りで起こった事件についての話になっていく。
「――本当に物騒ですよね。お客様のまわりで何かおかしな事などはなかったですか?」
「なにもナイ。さっきから出てくる事件についても初耳ダ」
「そうなんですか。気をつけてくださいね……何でもあの悪魔式なんじゃないかって言われているらしいので」
依頼主の様子が少し変わった気がする。作業する背後から不穏な空気を感じる。
「悪魔式とは?」
空気は変わらない。そろそろ嘘の情報を出す頃だろうか。
「あれですよ。ベルディオの悪魔式。リエンドの特務班がその可能性があるって言っているという噂を聞きまして」
リエンドの特務班、魔道士内ではかなりの確率で存在すると言われているが、噂でしかないものである。軍の暗部とか、そんな感じの組織だとささやかれている。
「リエンド、全くどこから流れた噂か。かの特務班が動いていたとして、そんな情報が外部に漏れるか」
「うちは便利屋なので色々な情報が入ってくるんですよ」
「そうそう、ここだけの話なんですが」
「進化の魔石が使われているらしくてですね。リエンドが解明まであと一歩までだとか……」
解明まであと一歩という時点で、美玲の話を聞いていた依頼主が突然笑いだした。
「…………クク、なんとも、面白いことを言う。あれが解明される手前だと! 私ですらまだ完全な掌握ができていない代物をか!」
「……どういうことでしょう?」
「ああ、もう芝居はいいぞ。そこの男も直すフリをやめろ」
雰囲気がさらに異なる。もともとの、人形のように生気が感じられなかった様子が、まるで命が吹き込まれたように生き生きとしている。
「大体の見当をつけてここに来たのだろう? まぁ、そうなるように仕向けたのだから当然だがな」
……!やっぱりクロだったのか!口ぶり的に関係者どころか一連の黒幕の可能性は十分だな。
「しかし、こうして見れば誤算の多い計画だったな。地獄の余興にしては楽しめたが」
「……正直に全部話すつもりはあるかしら」
「話してやってもよいが……どうせ大方わかっているのだろう?」
相手の出方が分からない以上、下手に動けない。外の二人もまだ侵入するタイミングを伺っている。
得体がしれない。余裕がある。張り付いたような笑みが恐ろしい。
「そうだな……これは教えてやろう。ベルディオの悪魔式を発動しようとしているという点、正解だ。あれは実在した術式、再現する価値がある。」
実在していた……悪魔とやらを呼び出す術はただの伝承ではなかった。予想は的中していた。
しかし、情報を引き出すため捕縛を待機しているとはいえ、依頼主には一切の隙というものがない……いや、隙だらけであるにもかかわらず余裕な態度で堂々と計画を語っていることが異質であり、誰も踏み込むことが出来なかった。
「それにしてもレイジ。お前は誤算も誤算よ。お前が現れるとはな。同時進行で片付けてしまおうと思ったんだが、失敗したな」
……俺?
「悪魔式で悪魔を召喚して何するつもりかは教えてくれないのかしら?」
「そうだな。ふむ、それを語る必要はないな」
美玲もまともな情報を引き出せないと考えたのか、手に魔道具を構える。
「これで探偵ごっこに満足したかな。では、お引き取り願えるか?」
「そんなわけないでしょう。捕まえるわよ。あなたを」
「そうだな! まぁいい捕まえられるのなら、捕まえるといい」
ふと、周囲の違和感が危険を知らせる本能に切り替わる。なにか魔力を発動させようとしていることを直感させられる。
「二人とも!」
「おうよ! やっときた!」
「……任せてください」
俺は空気を感じ取り無線に連絡する。
陽樹は壁をぶち破り、シャスティは窓を割ってはいってくる。
「いいぞ! 数の戦いか! とりあえず!」
屋敷中から人形が集まってくる。狙いは俺だ!
人形が数体で突進してくる。それぞれの部位がバラバラな動きをしながらも、その進行方向のみが統一されている。
「ッ!」
咄嗟に腕で構え、突進を受ける。そして衝撃で外へ吹き飛んでいく。しかし、痛みはまるでない。指を見るとリングが光っている。魔石の魔法が発動したのだ。
「な!」
すぐに体勢を立て直し、壊れた壁を見ると、穴が完全に塞がれ、中に入れなくなる。
俺にも役目があったのに……!
「大丈夫か! みんな!」
壁は完全に修復され、どれだけ叩いてもビクともしない。
「早く戻らないと……!」




