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職権濫用

話は綾小路傑が家を出たところまで遡る。その人物は深々と帽子を被り、まるで不審者のような足取りで目的地へと向かっていた。


「ここですね」


その女、不知火凛は今日という日を待ちわびていた。彼女の周りで不可解な現象が起こる度に決まってその現場にはある男がいた。


ホトトケ村でも


上位悪魔乱入のB級ゲートでも


孤島でも


全て綾小路傑がいた。にも関わらず、その全てで彼女からの追求を尽くかわし、今日まで話どころか会うことすら出来ていない。


そこで今日、彼女は強行突破することを決めた。詳細は言えないがとある方法で住所と電話番号を手にいれた。決して天断トップの地位を乱用したわけではない。そう、決してそんなことはやっていない。うん


そんなこんなで、電話を掛けてみたが一向に出る気配はなかった。一週間粘ったが結果は変わらなかった。そこで本日、彼の自宅へ直接出向くことを決めた。


「えらくボロいですね」


事前に調べた住所には一軒のボロアパートが立っていた。階段は今にも崩れそうなほど劣化しており、上る度にミシミシと軋んでいる。


「あった」


階段を上りきり、渡り廊下を進んだ一番奥の突き当たり。その部屋のインターホンには「綾小路」という札が取り付けられていた。私は呼吸を整え、そのボタンを押す。


……………………



インターホンの音が中から聞こえてくる。確かに鳴りはしたが室内からの反応はない。試しにもう一度押してみるがやはり反応はない。


「昼間っから何でいないんですか………出直すしかないですね」


私は今日のためにわざわざ休暇を取っていた。そもそも五大ギルドの代表ともなるとプライベートな時間など無いに等しい。


個人のハンターと違いギルド所属のハンターはギルド単位で活動計画を立てていることが殆ど。それが天断のトップともなれば一日の予定は常にびっしりになる。


そんな中、なけなしの隙間時間をかき集めてようやく作ったプライベートをポロアパート巡りなんかに消費したとなれば立ち直れる気がしない。


そんな時だった、階段から軋むような音が聞こえてくる。誰かがこのアパートの2階へと上ってきたのだ。


私は音の鳴る方を凝視する。その曲がり角から彼が現れることを期待し、固唾を呑んで見守る。




二人の視線が交わり、その場に一瞬の静寂が訪れる。階段から現れたのは女性だった。手には買い物後と思わしきビニール袋を提げている。


お互いに軽く会釈して視線をそらす。私はその場に長居することを諦め、入れ違いになる形でその場を去った。


私が階段を降りようとしたその時、ふと視界の端で女性の姿を捉えた。その女性の右手は直前まで私が張り込んでいた部屋のインターホンへと伸ばされていた。


「え?」




「……え?」


私は無意識に口から疑問符を吐いていた。そしてそれに気づいた女性が横を振り向き、再び二人の視線が交わる。


「えっと………綾小路さんの知り合いの方ですか」


「傑ですか?そうですけど。どちら様ですか」


「あっ………私は……その…………彼の友人です」


改めて自分が彼にとって何者なのかを問われるとスッと答えられなかった。同僚でもなければ、親友でもない。咄嗟に友人と言ってしまったが、まあ何とかなるだろう。


「お兄ちゃんのお友達でしたか!それは失礼しました!少し待っていてください!」


友人と言った途端、その女性は血相を変えて彼の部屋に飛び込んでいった。彼のことをお兄ちゃんと呼んでいたのでどうやら彼女は彼の妹さんのようだ。


それから数分後、室内の掃除機の音がようやく止み、妹さんが出てきた。


「ごめんなさい。到底人を呼べる部屋じゃなかったから。どうぞ上がってください!」


「えっ…………」


薄々分かっていたがまさか本当に部屋に上げられるなんて。此方から勝手に出向いた手前、彼に無断で部屋に上がるのは正直気が進まない。しかしこのまま引き下がれないのも事実。


「では失礼します」


私は意を決して彼の部屋に足を踏み入れた。


「どうぞ座ってください!」


玄関を抜け、居間へと通される。テーブルには2人分の湯飲みが置かれていた。


「出せるものがお茶しかなくて……お客さんが来るなら事前にお茶菓子くらい買っておきなさいよ」


妹さんはこの場にいない彼へとそう告げる。良くできた妹さんだこと、お兄さんと違って


「いえいえ、気にしないでください。実は急に押し掛けてしまったのは私の方で」


「そうだったんですね、でも安心です。最近はあんまりお兄ちゃんと話せてなくて一人で大丈夫か心配だったんです。でもこんなお友達がいたなんて。言ってくれればいいのに」


今更そんな仲良くないなんて言えなくなってしまった。でも同じ任務をこなした以上、友人とは言えずとも知り合いの部類には入るだろう。


「お兄さんは一人暮らししてるんですか?」


「そうなんです、だから妹の私が定期的に兄の安否を確認しに来てるんです。この間なんて3日間も連絡不通だったんですよ。それで来てみたら3日間も寝てたなんて言うですよ、ふざけてますよね!」


「ふふ、かなりの寝坊助さんなんですね」


家でも相変わらずのようで。どうしたら彼の元でこんなしっかりした妹さんが育つんでしょう


「あ!名乗り遅れました。私、綾小路藍と言います!」


「私は不知火凛です」


「え、不知火ってまさか………」



「ただいま……」


その時、扉の開く音がした。それと同時に全く覇気の無い声が部屋に響く。直後、廊下をドタドタと駆けてこの家の主が帰宅した。


「あ、お兄ちゃん。どこ行ってたのよ」


「おお悪い悪い、ちょっと急用がな…………」


「どうもこんにちは。お邪魔してます」


度肝を抜かす彼を見て、私は心のなかでほくそ笑む。彼が何者で、何を知っているのか。今からこの場でその全てを吐いてもらおう

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