死神
「おお、お前さんか!とっくに出来上がっとるぞ」
切り株に腰掛けてから約一時間、ようやく鍛冶屋の扉が開く。頬を真っ赤に染めた筋肉質の男が肩を回しながら出てきた。
「今回のも傑作だ。驚いて腰抜かすなよ」
時成は鍛冶屋の裏手に回り、お目当ての物を持ってきた。
「ほれ、コイツよ」
「これ………」
彼の手に握られていたのは一対の双剣だった。雪陽花とは対象に、その刀身は透き通るような純白の輝きを放っていた。
「感じるか」
「はい、何か……何て言うか………」
俺は渡された双剣を左右で握りしめる。しかし、雪陽花を握る時とは明らかに異なる形容し難い感触が残る。
「変な感じだろ」
「はい、何なんですかこれ」
「そいつにはな、魔力が籠められんのや」
「え?」
俺は耳を疑った。双剣に魔力が籠められない?言われてみれば刀身に魔力を流し込めない。いつも無意識に魔力を纏わせていたからこの違和感の正体に気づけなかったのか。
「え、でもそれって」
「まあ待て、話は最後まで聞け」
「はい…」
「ソイツは魔力干渉を完全に遮断する。それはお前さんだけじゃない、相手からの魔力攻撃も遮断する。それも魔操術じゃなく潜在的な能力によってだ」
「それって、自他共に魔力無効が無条件で可能ってことですか」
「そうだ、これを使えば無条件でフィジカル勝負に持ち込める。だがこの武器は使う者を選ぶ、素の技術や力量が無いとこの武器は扱えん」
「そうですね……」
「そして魔操術なんだが、素で魔力遮断を持っているせいで発現せんかったわ。悪いな」
「いえ、全く問題ないです」
思っていた以上の代物だ。最初聞いたときはデバフ武器かと思った。しかし双方の魔力関与を無効にする効果とは確かに使える者は限られてくるな。
それと同時に使う相手も選ぶだろう。魔力攻撃が得意な悪魔との戦闘では有効だが、元からフィジカルで勝負してくるような悪魔が相手ならただのデバフ武器だ。
「お前さんだから渡すんだ。見てれば分かる、あんたそれなりの修羅場を潜ってきてる人間だろ。筋肉の付き方からして常人の域じゃねえ」
「それはありがとうございます」
「それよか1つだけ注意しとけ。ソイツは破損したら魔力無効の効果が消える。亀裂程度じゃ問題ないが刃先が折れたりしたらそれまで。そうなったら最早ただの鉄具だ」
「分かりました」
「あと悪いがリベリオンには対応できなかった、申し訳ねえ」
「いえ、問題ないです」
魔力無効武器が魔力の受け流しを可能にできる訳がない。そもそもリベリオンが必要な相手なら雪陽花を使えばいいだけの話。使い分けが出来るようになっただけでも今回はかなりの収穫だ。
「そうか、それと名前はカッコいいのを付けてやれよ」
「俺が決めていいんですか」
「特別だ。この鍛冶屋に直接受け取りにくるのはお前さんくらいだからな。名付けはさせてやる」
「ありがとうございます。じゃあ……」
クロの時みたいに安直な名前は避けるべきか。それなりにカッコいいのを付けてやりたいが急に言われても………
「"グリムリーパー"なんてどうでしょう」
何故かスッと降りてきた
「死神ねえ、悪かねぇが長いな……グリムだな」
「グリム………いいですね」
カマキリの鎌を素材にしたので鎌に因んで死神にしてみたが即興にしては悪くない
「それと1ついいですか」
「ああ、何だ」
「俺がコイツと戦った時も同じような魔力無効の能力を持っていたんですが、武器が素材の能力を受け継ぐことって珍しくないんですか」
この魔力無効とは奴が最終形態時に持っていた能力だ。あれには随分苦戦したが、この先も武器に悪魔の能力を応用できるようなら呪楔を結ぶか武器の素材にするかは吟味しなければならない。
「ああ、そう珍しいことじゃ無い。ただ前も言った通り、素材の死後経過時間が短ければ短い程、能力の再現度も高くなる」
「今回は直ぐ持ってきたからほぼ同等の能力を持った武器が作れたということですか」
「そうだ。あと一時間遅かったら魔力無効が魔力半減なんていう中途半端な効果になるところだったな」
それは随分な弱体化だな。半減なんてことになったらこの武器のフィジカル勝負への強制という利点が半減してしまう。
「大分違いが出るんですね。次回からも直ぐに持ってくるようにしますね」
「そうしてくれ。あと代金の請求書はお前さんの住所に送っておいたからな」
前回アルルスカーレット素材を元に作ってもらった肘宛は、全額ハンター統括本部が負担してくれていたが今回は勿論自腹だ。
俺には徳仁と殺りあった時の戦利品がたんまりと残っている。あの時のお金は生活費以外には殆ど使っていない。まず足りないことはないだろう
「分かりました。ありがとうございます」
俺はグリムを受け取り、山を降りた。切り株で待っている間、クロに厳重注意したおかげで帰りは難なく家までたどり着いた。
「ただいまぁ……………あ?」
俺は誰も待ってなどいない部屋に帰宅を報告する。そう、誰もいる筈がなかった。しかし玄関には俺以外の靴が2足綺麗に置いてある。
一足は見覚えがあった。これは妹の物だ。ならその横に並べられたもう一足は誰の物だ……………
俺は考えうる中での最悪の答えにたどり着き、大急ぎで靴を脱ぎ捨てる。
ありえない
そんなこと出来る筈がない
まさかそんな…………
「あ、お兄ちゃん。どこ行ってたのよ」
「おお悪い悪い、ちょっと急用がな…………」
「どうもこんにちは。お邪魔してます」
妹の隣に座るソイツはニッコリと此方に微笑む。俺はその悪魔のような笑みに思わず身震いした。




