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悪魔と悪魔

遅くなり申し訳ありません!

貫かれた獅子は地面に沈みもうと身体を歪ませる。しかし沈みかけた奴の身体が剣に引き寄せられる。どうやらあの白剣によって奴のすり抜けが妨害されているようだ。


必死に逃げようとする獅子だがその間にも着々と魔力が吸収されていく。


「グルォォォォォォォォォ」


獅子が鬣を逆立て、咆哮を響かす。奴の身体から魔力が迸る。そしてその魔力を全て吸い上げた白剣は完全に真黒に染まり上がった。


しかしそれでも獅子の魔力は吸収され続ける。獅子から弾けた膨大な魔力は白剣の上限を優に上回っていた。その時、魔力に耐えられなくなった黒剣が限界を迎える。


白剣が弾け、凄まじい衝撃波が俺を襲う。顔を手で覆いながらも爆心地の獅子を視界に捉えた。雪煙の中でもハッキリと奴の姿が浮かぶ。


あれほどの魔力を放出したにも関わらず、今尚奴から放たれる覇気に衰えはない。むしろ強敵を前にして格段に凄みを増した気さえする。


その時、煙を裂くように巨腕が下される。しかし、ゼーレが振り下ろした鉄槌はギリギリで奴を仕留め損ねる。何故かそこに奴の姿はなかった。


「何が障害物判定されたんだ………」


障害物の基準が今だ不鮮明なままだ。今ゼーレの拳は真上から振り下ろされており、地面に触れる前に奴は姿を消していた。前回は木々という絶対的障害物があったが今回は違う。


獅子はゼーレのがら空きになった背中を捉え、一直線に球体へ跳躍する。


『重加操術 六門』


回復してきた魔力をこの一瞬に全て注ぎ込む。魔力が完全回復しきっていない今の俺では六門が限界だ。


奴は死角からの攻撃に反応することが出来ない。空を駆けていた奴は一瞬で地に打ち付けられる。六門では奴の動きを封じるので限界だ。しかし今回はそれで良い、何故なら一対一ではないからだ。


奴の頭上から鉄槌が振り下ろされる。そして今度こそ奴に直撃した。衝撃で俺の足場まで砕け始めた。拳型に地面が陥没し、奴が埋まる。


ゼーレは拳を開き、奴を持ち上げる。俺の重加操術が解けたことで奴が暴れ始める。しかし無数の腕が奴の身体中を掴み上げた。


必死にもがく獅子だったが四肢を掴まれたことで抵抗できなくなり、そのまま球体の前で拘束される。しかし奴は再び口をあんぐりと開き、魔力攻撃のモーションに入る。


しかしゼーレはそれを良しとしない。球体から血管が浮き上がり、球体が眼球へと変化する。瞳はがっちりと獅子を捉えて離さない。


獅子の眼とゼーレの眼球が交差する。ゼーレの眼球が充血し始めると同時に獅子の身体に異変が起こる。奴の全身がブクブクと膨れ上がった直後、炸裂した。


全身を包み込んでいた黒い毛並みが弾け飛び、辺り一面に血飛沫を撒き散らした。そのまま宙で爆散した獅子を地面に叩き付ける。


雪煙が立ち込めるが奴は恐らく瀕死の筈、あれだけ連続的に攻撃をもらって只で済む筈がない。


その時霞む視界の中、俺は見た。紫の炎を。


「何だこれ」


そしてそれと同時に俺の胸に獣の歯形が浮かび上がる。その瞬間、身の危険を感じて即座に駆け出すが、一歩踏み出したところで歩みを止める。


膝から力が抜け、地面に崩れ落ちる。脚を踏み出した瞬間、胸部が抉られた。それも刻まれた歯形通りの傷跡を残してだ。


煙に巻かれて奴の動きは見えなかったが俺と奴との距離は少なくとも20mは離れていた。恐らく遠距離の魔力攻撃、あの紫の炎が関係していることは間違いないだろう。


そしてあることに気付く。前回の敗因となった見えない攻撃、召喚した悪魔に捉えられていた筈の奴がとった謎の攻撃。あれの正体はおそらくこれだ。


あの時も突然脇腹が抉られた。恐らく牙の紋章を見逃していたのだろう。行動不能だと完全に油断していた。


胸部に走る激痛に耐えながらヒールを掛けていく。そしてふと顔を上げるとゼーレにも異変が


「何であいつまで………」


見るとゼーレの球体に亀裂が入っていた。見ていなかったが攻撃対象は俺だけでは無かったようだ。というよりも本命はゼーレだった筈だ。


今までゼーレと戦っていたのに級に俺に攻撃を仕掛けてくるとは思えない。本来先程の攻撃はゼーレへのもので俺は副次的なものだったに違いない。


そう考えると厄介すぎる。複数攻撃可能で尚且つ防ぐ術がない。唯一あるのは奴の発動モーションを中断させることか。


「くそっ!」


脳内で対策の筋道を立てていたその時、胸部が治りきっていないにも関わらず左腕に牙の紋章が浮き上がる。


「ゼーレ!アイツを止めろ!」


呪鏡によって残り時間はほぼ無い。ここでもう一度あれを食らったら負けだ。


ボギェェェェェェェェェあぉぉぉぉぇぇぇぉいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ卯ぇぇエアボボぇぇぇ得ぉぉ得オェボァアィァァアァァアァァァァァァア


命を受けたゼーレはそれに哀哭で応える。直後奴から生える全ての腕が天を仰ぐ。悪魔が天を崇めるという背反した光景を前に俺は息を飲む。


獅子の口から迸る紫炎が唸りをあげようとしたその時、大地が揺れる。地響きが起こり、奴の真下の地面から魔力がこぼれ出る。


直後、奴の足場からドス黒い瘴気が迸発する。メラメラと盛る瘴気は奴を焼き付くした。それと同時に左腕に浮かび上がっていた牙の紋章がゆっくりと消えていく。


安堵したのも束の間、事態は急変する。


「フォォォォォォォォォォォ」


瘴気より獅子の遠吠えが響く。まるで狼のような芯のある咆哮が雪原を駆け抜けた。その時だった、けたたましく盛る瘴気が獅子の闇に飲み込まれる。遠吠えと共に奴から紫の炎が放出された。


「止めろ!」


俺は瞬時に事の異様さに気付く。体感できるほどの魔力に当てられ身体が勝手に震えだした。どれだけ力を籠めてもシバリングが止まらない。


「ゼーレ!命令だ!」


廻天した亡魔は命を背くことを許されない。例え授かりし命を賭しても奴は従順に従う。それが亡魔召喚の宿命だ。


迸る紫炎を前にゼーレの巨躯が捻れる。球体にゼーレの身体が吸い込まれていく。核を守るための虚像を捨て、この一撃に全てを注ぎ込む。


禍々しい魔力を纏っていた悪魔が一瞬にして球体へと変化した。無駄の一切を削ぎ落とし、最終形態へと移行する。

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