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因縁

「待ちわびたぜ」


無。俺を包み込むのは無限の闇。それは何も無い空間であり、何も無い筈なのに無限に広がっているように感じる。


通常、光の無い暗闇では何も見ることができない。それは次元も同じことで奥行きを捉えるには光が必要なのだ。しかしこの空間は無限に広がる"無"を作り出していた。


覚醒した俺は自分に触れて置かれている状況を認識する。そして感じ取る既視感、もう驚きも不安もない。ただ奴との邂逅に気持ちの昂りを感じるだけだ


零門で目覚めた俺は奴との再戦の機会を得た。前回からのインターバルは一週間もなかった。



【現肉体の魔力的順応値の規定値到達を確認】



【現肉体の活動停止状態を確認】



【只今より禁縛のゲートが開かれます】



【立入りますか】



【はい】 【いいえ】


俺の前に現れた選択肢に迷うこと無く指を運ぶ。次の瞬間、目の前にゲートが出現する。ゲートに足を踏み入れた俺の前には4つの門が聳え立っていた。


前回同様の光景、全ての門に近付いてみるがやはり解縛可能なのは【冥】の門だけだ。俺は門に手をかざす。


【解縛可能です。解縛しますか】



【はい】 【いいえ】


【はい】を選択する。



【解縛中は『呪楔』を使用することができません】



【解縛に失敗すると呪縛の魔神と呪楔を結ばれます。それでもよろしいですか】



【はい】 【いいえ】


【はい】を選択しようとした俺は一度目の光景を思い出す。開始早々雪陽花をへし折られ、謎の瞬間移動に翻弄された挙げ句、片腕を食い千切られた俺が見た光景。


それは眼前に迫る"死"そのものだった。それでも俺は迷い無く【はい】を選択する。ただ気の赴くままに進むのみ。例えそこが死地であろうと





「帰ってきたぞ」


頭上の太陽が俺を無慈悲に照り付ける。俺が降り立ったのは前回同様積雪地帯だった。靴底は新雪を踏みしめる。シャリシャリという感触を残しながら俺は歩みを進めた。


「…ン…………ワン」


静寂を射抜く愛らしい鳴き声。前方から聞こえた声に俺は歩みを止める。奴はまるで里親に再開した子犬のように尻尾をブンブン振り回して迫り来る。


「感動の再開とはいかないか」


しかしその愛くるしい鳴き声に騙されることはない。何故なら既に奴の本性をしっているからだ。借りてきた猫ならぬ借りてきた犬のように振る舞う奴の本性は獣そのものだ。


それを身を持って知った俺はこれが感動の再開などではないこと知っている。腰から双剣を抜き、奴の動きを脳内で描く。周りに木などの障害物はない。考えられるパターンは1つに絞り込まれた。


「単純なんだよ」


予想通り正面からの噛みつき。勢いに任せただけの単純な軌道。たが奴は俺自身を障害物と認識して消えることができる。俺は奴の動きを見てから動く。


剥き出した牙が俺の鼻先に触れようとしたその時、直接攻撃だと判断した俺は頭を真後ろに仰け反らせて回避する。


そのままの体勢で上半身を半時計回りに捻り、右手の双剣を奴の頭蓋に振るう。2度目の戦闘だけあって奴の動きの特徴や速さに確実に対応できている。


「グワァァァ」


刃先が奴の下顎の付け根に突き刺さる。思いの外、表皮は固くない。前回は速攻で雪陽花が破壊され、刃物の通りを確認することができなかったが確実に有効だ。


俺は突き刺した右手を軸に上方へと回転する。上から股がるように旋回した俺はそのまま奴の首に左腕を回す。


「クワッ…………ガ……」


左腕を上に傾けて奴の気道を塞ぐ。正常に呼吸が取れず奴の口から掠れた声が漏れる。序盤はかなり言い立ち回りが取れている。


「なっ…………」


その時、左腕から奴がぬるりと抜け落ちる。まるでゼリーが腕を這ったように奴の姿が消える。それと同時に奴に刺さっていた双剣が地面に落ちる。


「一旦落ち着」


俺が呼吸を整えようとした次の瞬間、間髪入れずに正面から奴が現れる。視界一面に迫るのは奴の尖鋭な犬歯。


俺は回避を諦め、右腕を間に挟む。痛みに備え、歯を食い縛るがそれでも足りない。奴の牙は俺の前腕を穿ち、激痛が身体中に駆け巡る。


それでも奴は噛みついたまま離れようとしない。俺は奴ごと右腕を地面に叩き付ける。その衝撃は奴を伝って傷口に広がる。それでも奴は牙を抜かない。


「もう痛みも感じねぇ」


俺は右腕を自ら切断する。噛みつかれた時点で痛覚が麻痺している。即席の麻酔で切断した痛みも殆ど感じない。


奴は俺の左腕を咥えたまま地面に打ち付けられる。俺はまるでサッカーボールを蹴るかのように奴の脳天を蹴り飛ばした。更に平行して傷口にヒールを掛けていく。


『アリュマージュ』


吹き飛ぶ奴を不死鳥が追尾する。新雪を溶かしながら低空飛行する火の鳥は奴に突っ込んで爆裂した。衝撃で舞い上がった氷粒が俺の顔に打ち付ける。


光を乱反射させて輝く雪煙は奴の姿を覆い隠した。ゆっくりと霧散した雪煙の中に奴の姿はない。俺は腰を落として双剣を構える。既に右腕は完治していた。


奴がどこから現れようと既に対処はイメージできている。


『アリュマージュ』


俺は不死鳥を自分の足元に放つ。その衝撃で俺を中心に氷粒が舞い上がる。これで舞台は整った。


次の瞬間、奴は俺の背後から奇襲を仕掛けた。勢いそのままに奴は雪煙の壁へと突っ込む。


「所詮獣だな」


俺は間抜けにも飛び出してきた獣を真上から襲う。両手で握った雪陽花を奴の後頭部に乱打する。周辺の障害物は俺と奴自身だけ、障害物から障害物への移動を可能にする奴の能力が今回に限っては完全に仇となった。


奴の奇襲は俺の周囲からのみ。ここまで絞り込めれば後はそこにまきびしを敷くだけ。


煙に巻かれた奴は無策にも突っ込み、真上に跳躍していた俺に奇襲を受けた。双剣が繰り返し差し込まれ、奴の返り血が俺の顔に吹き付ける。


ここまでは順調に行っていた、それも恐ろしい程に

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