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「あれ…………いない」


解散が告げられ、各々が帰路に着く中、不知火はある人物を探していた。そして既にその人物の姿はなかった。


「あの人は………………」


不知火は歯を噛み締めながら沸き上がる憤りを必死に押さえ込む。この後彼を捕まえて今回の件で色々と聞き出す筈だった。


まず先日のB級ゲートで起こったこと。あの後透道くんから事情を聞き出したが変わったことはなかった。しかし彼も何かを隠しているような気がした。それを本人に当人聞くつもりだったのだ。


そして2つ目は孤島の猫との戦闘だ。奴が逃げる直前に彼に攻撃しようとしたことは分かっている。あの一瞬の間に何が起こったのか、何をしたのかを問い詰める予定だった


そして最後に彼が遭難したことについて何か隠し事をしているような気がする。南端に現れた時、彼は西側ではなく東側から出てきた。


単に南下する途中で迷ってしまっただけなのかもしれないが来た道をああも真横に間違えることがあるだろうか。


そして帰りの発言の真意も問わなければ気が済まない。


「そもそも私だって心配してっ!」


思わず声を上げてしまった。周りのハンター達が一斉に何事かと振り返る。自分が取り乱していることに気付いた不知火はそそくさとその場を去っていった。




















「はあ………………………」


俺は深い溜め息をつく。それは不知火から逃げるため全速力で走ったからではない。


「ドラ………………」


従僕が討伐した悪魔との呪楔に失敗した。正確に言うと失敗ではなく、そもそも結ぶまでいかなかった。


何故なら悪魔は既に粉々になっていたからだ。悪魔が死んだであろう場所は丸焦げになっており、更に地面が陥没していた。


それもかなりの荒れ地になり果てていた。あんなことが出来るのは一人しかいない。恐らく悪魔を殺した後もひたすらに殴り続けたのだろう。


「俺が死体は残せと指示していれば…………」


いや、こんなことを想定できた筈がない。だがあいつは知性がない脳筋タイプだ、細かく指示しないと今後もこのようなことを繰り返しかねない


「これも教訓だな」


過ぎてしまったことは仕方がない。ぶつぶつと呟きながらも歩いていた俺はふと背後を振り返る。


「いないか……………」


不知火の姿がなかったことで俺はそっと肩を撫で下ろす。あのまま捕まれば間違いなく洗いざらい尋問されていただろう。


ここさえ乗り切ることができれば彼女と今後会うことはない筈だ。嫌な偶然も今回限りにしてもらいたいものだ。二度あることは三度あると言うが何としても回避してみせる。


解散後、俺は帰路に着くこと無く、ある場所へと向かっていた。









「ご無沙汰してまーす」


俺はボロ屋の抜け間から中を覗き込む。相変わらずの悪臭が鼻を突き刺す。どうやら中に人の気配はない。


「困ったな…………」


電車で長時間揺らされてようやく到着したが肝心の当人がいない。今回はカマキリの死体を素材に何か作って貰おうと考えていたのだが本人不在ではどうすることもできない。


「待てよ………確か鍛冶屋に籠り切りだとか言ってたような」


以前ここを訪ねた時、彼は確かにそう言っていた。だから山を降りずに武器や防具を打ち続けているとか


「登るか」


俺は前方に聳え立つ山の道無き道を進んでいく。孤島での疲労が残っている中での登山は想像以上に過酷なものだった。


登り始めてから10分、既に俺の足は悲鳴を上げていた。足取りが徐々に重くなる中、前方に小さな物置小屋を発見する。


「あれじゃないよな」


俺は恐る恐る近付く。すると中から金属を打ち付けるような衝撃音が響いてきた。まさかこんな掘っ立て小屋のような所に籠り切りだとは信じられない。


「すいませーん、時成さんですか」


俺は間延びした声で小屋の隙間から呼び掛ける。人影は見えているが返事はない。見ると高音に熱せられた金属が深紅の煌めきを放っている。


「俺です、綾小路です…………時成さーん」


再び声を掛けるが返事はない。此方を振り向くこともない、集中して気付いていないのかもしれない。俺は戸口へ回り込んで扉に手を掛けた。


「入るな」


その時、まだ扉を開けていないにも関わらず中から声が聞こえた。その声は間違いなく時成のもので、少しだけ語気を強めたような声だった。


俺は戸から手を離して終わるのを待った。近くの切り株に腰を下ろして疲弊した足を休める。それから1時間が経過した頃だった、扉が突然開かれる。


「ふぅー」


額の汗をぬぐいながら顔を真っ赤にてからせた時成が出てきた。彼は辺りを見渡して切り株に座る俺の姿を捉えた。


「おお、あんちゃんか。待たして悪かったな、丁度仕事の最中でよ。俺は鎚打ってる時は基本一言も喋らずにやった方が良いやつが打てるんだ」


「すいません、そうだったんですね」


「気にすんな。ちゃんと今回も傑作が出来たからな。して今回はどうしたんだ」


「今日はこれで何か作って貰いたくて」


俺は零門から死体を引っ張り出し、生々しい亡骸を突き出す。時成はそれを見て目を見開く。最早零門のことなど見えていないかのように死体を凝視している。


「この大きさの悪魔をそのままの状態で見たのは初めてだ。それにしても皮膚がえらく固いな、外骨格か」


時成は死体に触り始める。頭から腰にかけて撫でるように指を這わせる。


「あんちゃん、コイツ倒してからどれくらい経った」


「2時間くらいですかね」


「よくやった、今すぐ始めるぞ」


時成は死体を持って足早に鍛冶屋へと入っていく


「悪魔を素材にすんなら死んでからすぐじゃねぇとダメだ。悪魔は死ぬと身体から徐々に魔力が抜けていく。それは魔核の質の低下と直結する。完成には恐らく………2日くらいかかるから、そしたら取りに来い」


「分かりました」


俺は言われた通り山を降りて帰路に着いた。下山中、上から騒々しい金属音が鳴り響いていた。











その日の晩、俺はいつもより早く眠りに着いた

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