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案件レベル

そこから彼女の説教は30分間続いた。


「分かりましたか」


「はい………」


始めの方は言い訳を挟んでいた俺だったが後半はあまりの正論の連打に言い返す気力を失ってしまった。ただ耳が痛くなるような話がひたすら続き、この30分間は永遠にも感じられた。


「凛、説教はもういいだろ」


「まだ言い足りませんが」


「それよりも奴らの捜索が急務だ」


「………そうですね」


橘の仲裁で説教タイムが終わる。俺は潤んだ瞳を彼女に向け、ありったけの感謝を視線で伝える。


「綾小路、お前がいない間に事態が悪化した。詳細は中にいる奴から聞け、そして私達は再び悪魔の討伐に行くことになった。お前は休んでおけ」


「ありがとうございます。では俺は戻ります」


俺は彼らの目的がバベル達の討伐であるとは考えもせず待機中の航空機に乗り込む。そして俺が搭乗橋に足を掛けたその時、突如地面が激しく揺れ始めた。


「何だ………………おかしいぞ!」


西園寺がその異変に気付く。揺れは次第に激しさを増し、横揺れと縦揺れを繰り返す。そして次の瞬間、足元に浮遊感を感じ始める。


地震というよりは沈んでいくような、そんな有り得ないような現象を体感していた。


「戻れ!今すぐ全員航空機に戻れ!」


西園寺の掛け声で全員が一斉に駆け出した。俺の後ろからぞろぞろとハンター達が押し寄せてくる。パニック状態を何とか押さえようと西園寺達が声を上げるが揺れが収まる気配は無い。


その時、周囲を見渡した西園寺は目を疑った。先程まで砂浜だった場所が海面になっていた。ようやく彼はこの島全体が海に沈み始めていることに気づいた。


「急げ!島が沈んでるぞ!」


それを聞いた隊員から悲鳴が上がる。それでも何とか海面に飲まれる前に全員が乗り込むことに成功する。


「会長!出してください」


「分かっている!」


両翼の先端からけたたましい爆音を響かせながら航空機は離陸する。高度を上げていき、全員が無事に生き残ることが出来た。


「…………………」


俺は特殊強化ガラス越しに孤島を見つめる。既に島の3分の2が沈んでいた。先程まで自分達がいた場所とは到底思えない。


俺は遠ざかる島をじっと目で追う。何故だか異様な速さで島が遠ざかっていくように感じた。


「本当に何が起きたんだ………」


西園寺のぼやきは最もだった。地殻変動で一瞬にして島が沈むことなんかありえるのか。


「取り敢えず誰一人欠けなかったんだ。それでいいだろ」


「ああ、そうだな。悪魔達も海の藻屑になった筈だ。全員今日はよく休んでおけ」


悪魔とて海中で生存可能な部類と不可能な部類がいる。そして地上を生活拠点に置いている悪魔は基本的に後者だ。


「悪かった」


隣から突然声を掛けられる。それは橘からの謝罪だった。謝られる覚えは無いので疑問を浮かべながら問いかける。


「僕何かされてたんですか」


「ふふ、気にしていたのは私だけか」


橘は笑みを浮かべながら告げる


「会議室でのことだ。少々強く言いすぎたと思っていた」


「気にしてませんよ。むしろ感謝したいくらいです」


「そうか、ならいい。でもあれは本心だ。無茶と勇敢であることは違う。だがそれでもお前は生き残った。どんな形であろうと生きて帰れば勝ちだ。勝ち続けろ綾小路」


「……………カッコいいっすね橘さん」


「………………」


思ったことを口にしただけだが、彼女は俺を睨み付ける。茶化した訳ではなかったが、そう捉えられてしまったようだ


「口説くならせめてもう少し強くなってからにしろ」


「……………」


俺は彼女を睨み返す。それはまったくの見当違いだと顔で訴え掛ける。


「それはそうとお前からまだ感謝の言葉を聞いてないな」


「……何かありましたっけ」


「あのままだったら島が沈みながらでも説教続けてたぞ」


「その節は本当にありがとうございました」


「やけに素直だな」


「橘さんは命の恩人です」


「ガンッ」


俺が言葉を発した瞬間、後部座席から蹴りを入れられた。最早見なくても後ろに座っているのが誰なのか分かる。というかあまりの殺気に振り返ることが出来ない。


その後、俺達は一言も言葉を発すること無くハンター統括本部へと戻った。









「会長、あれは作戦成功と言えるのでしょうか」


会長室には西園寺と東堂の2人だけが残っていた。あの後ハンター統括本部に到着次第即刻現地解散となり、残った2人は本日の任務について語り合う。


「ああもちろんだ。誰一人として負傷者を出さずに全悪魔を殲滅したではないか」


「しかし孤島が沈んだ理由など分からないことだらけです」


「後は我々の問題ではない。実は先程IHAから通達があり、案件レベルが引き上げられた」


「何故今になって彼等が動くんですか………しかもどうやって我々の情報を得たんでしょう」


「そこだ。恐らく私達日本政府には伝えられていない秘密事項がある筈だ。でなければ彼らがこんなに速く動ける筈がない。初めから日本を当ててから残りを引き受ける計画だったのだろう」


「日本の扱いは昔から変わりませんね」


IHAとはInternational Hunter Associationの略である。平たく言えば国際的なハンター協会のことだ。一国では扱いきれない重大案件や天災、反社会勢力の暴走などの非常事態を鎮圧する国際集団である。


IHA連合国軍は各国のトップ陣で構成されており、悪魔討伐の最後の砦とも言われている。そしてそこに登録されている日本人は僅か1名のみ。


「彼は何時戻ってくるのでしょうね」


西園寺はそう呟きながらも当分は戻ってこないだろうことを分かっていた

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