鬼が出るか蛇が出るか
今後午後6時投稿の日が増えるかもしれませんがご了承ください
「なんやこれ…………地獄か」
砂漠地帯に到着した橘は目を疑った。彼女の目に飛び込んできたのは戦闘を繰り広げる悪魔達。そして完全に蚊帳の外となった黒薔薇一団だった。
彼女達の前を横切った悪魔達は一体の悪魔と戦っていた。身体中に炎を纏い、その動きは間接が外れたように乱雑でそのくせ目で追えぬ程の神速だった。
それでも戦況は一方的なものだった。4腕のゴリラが火達磨の足をつかんで地面に叩きつける。そこに間髪入れずに無数の槍が突き刺さる。
どうやらこの孤島全域では悪魔達の争いが激化しているようだ。見た限りゴリラと鹿骨と火達磨はA級以上はあるだろう。
数時間前に倒した蜘蛛とあの猫も恐らくA級。東堂会長が言っていたことが正しいのであれば、あの3体が残りのボスということになる。
「全部引き当てるなんて付いとるなぁ」
これから始まる漁夫の利に心踊らせる橘は視界の端で呆けている黒薔薇一団へと駆け寄っていく。
「大丈夫か、西園寺」
「お前達……」
「なんや、こんなとこで泣くなや」
「泣いてなどいない」
「てか、どないなってんねんこれ」
「間違っても参戦しようなんて考えるなよ」
そう忠告する西園寺の眼光は獣のそれだった。間違えても近付くなと言葉だけでなく視線でも告げている。
「漁夫の利でもしようかて考えてたんやけど」
「恐らくその必要はないだろう」
西園寺の目には確信があった。
「何があったんや」
「俺もこんなことは初めてだ」
西園寺はそう言い置きして事の成り行きを話し出す。
「あの火達磨は俺達が召喚した悪魔だ」
「は?」
「そして使役に失敗した。恐らくそこらのA級ボス以上はある筈だ」
「…………そのバケモンがあれか」
そう言って振り向いた橘の視線の先にはゴリラに振り回される火達磨の姿が。
「ああ、あの悪魔達はそれ以上だ。だが問題はそこじゃない、あいつらは俺達を敵と認識していない」
「根拠は」
「俺達の頭上を飛び越えるようにして現れて、此方を見向きもせずに火達磨に一直線に飛びかかっていった。しかも俺達を庇う素振りまで見せた」
「……………」
橘の表情が曇る。彼女の経験上そんな悪魔は見たことがなかった。というよりいる筈がない。あの66年前の大災害から悪魔という存在は絶対的悪とされてきた。
しかし今も奴らはこちらに興味を示さずにあの一体の悪魔に群がっている。それが何よりの証拠だ。
「このまま殺らせておけばあの火達磨は間違いなく殺される。そしてその後奴らが此方に攻撃してくることはない筈だ」
「なんや、あいつらをみすみす逃すってのか」
「そうだ。あの火達磨ですら黒薔薇では太刀打ちできなかったんだ。そう考えると奴を凌駕する悪魔と戦うには最低でもここにいる全ギルドの協力が必要だ。一度北端で合流してから折り返した時に奴らを討つ」
「初めからそう言えや」
彼らの方針が決まった。ここで火達磨の討伐を見届け次第、北端へ進む。そして全ギルド合流次第奴らを狩りに行く。そして意外にもその時は唐突に訪れた。
「ギィヤァァァァァァァァァァ」
火達磨の呻き声が響く。腹部を槍で串刺しにされ地面に叩き落とされる。直後、ゴリラが4腕を交互に振り下ろして地面ごと奴が陥没した。
大量の砂埃を巻き上げ、その中から奴の断末魔だけが聞こえる。そしてある時その声はポツリと止んだ。
「終わったか」
それでもゴリラは振り下ろす鉄槌を止めようとしない。それから数分間殴り続けたゴリラは鼻息を荒くしてその手を止めた。それから悪魔達は樹林の方へと消えていった。
「予想通りだな」
「ああ」
奴らが消えてから数分後、婆娑羅と黒薔薇は北端へと向かった。
「後少しです」
猫との遭遇から約一時間、俺達天断ギルドは順調に北端へと進んでいた。
猫との交戦から今まで悪魔と遭遇することもなく樹林は恐ろしいほどに静まり返っていた。敵は200体いる筈だが他のギルドのところに集まっているのだろうか。
「………………」
突如、俺は大量の魔力を感知する。そしてそれはバベル達のものと同じだ。先ほどまで一点に停滞していたのでそこで悪魔と交戦していたのだろう。
だが奴らはもうすぐそこまで来ている。歩くのに夢中で魔力を感知するのが遅れてしまった。今から不知火に許可をもらっていては遅いかもしれない………
彼女達には悪いがこれしかない。俺は一団の最後尾からそっと道を外れて茂みに消える。すぐに合流すればなんの問題もないだろう。
「ここらでいいか」
少し歩いたところで不自然に空けた広場に出る。そして茂みの先から膨大な魔力の大群が迫ってくる。
「ご苦労だったな」
茂みから姿を見せた従僕達が俺の前に並ぶ。ドラやバベルの身体の節々に血痕が付着していが、誰1人として欠けてはいなかった。
どうやら殺られた奴は1人としていないようだ。そろそろ従僕状態で死んだ時、復活は可能なのかどうかの検証がしたいと思っていたがその機会はまだ先のようだ。
「戻れ」
鎖に繋がれた悪魔達が地面に沈む。用を済ませたので急いで戻ろうとしたその時、視線の端であるものを捉える。
「…………」
茂みのある一点だけが不自然に葉が抜け落ちて道のようになっている。まるで奥に導いているかのような不気味さがあった。
早く戻らなければいけないのは分かっている。まるでバベル戦での歪みを見つけた時と同じ状況だ。分かっていても自然と足だけが導かれるようにその道へと進んでいく。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
そう言いながらも十中八九出てくるのは悪魔だろう。




