ゴリラは遅れてやってくる
召喚魔術は大きく2つの部類に分けられる。
1つは現魔召喚、そしてもう1つは亡魔召喚と呼ばれている。
現魔召喚は召喚時に生存している悪魔を別空間から呼び寄せて使役することができる魔術である。
そして亡魔召喚は殺した悪魔を呼び出すことができる召喚魔術。そしてこの魔術会得者は不知火千影ただ1人である。
そしてこの2つの召喚魔術の大きな違いは
「召喚する悪魔を指定できるか否か」にある。
そして現魔召喚は悪魔の指定が出来ない部類に入る。しかし個の指定が出来ないだけで、詠唱者の魔力量によって召喚される悪魔の強さも変わる。
A級魔術師1人が召喚できる悪魔は精々C級ほどだ。A級ほどの魔力量をもってしてもC級悪魔一体が限界なのは現魔召喚の魔術構成が関係している。
現魔召喚では生きている悪魔を召喚するだけでなく、使役しなければならない。召喚に成功したとしても、使役に失敗すれば戦場に悪魔が増えるだけになってしまう。
この2段階の魔力使用が詠唱者の等級と召喚悪魔の等級とのズレへと繋がってしまうのだ。
そして今回はA級魔術師5人を媒介にして召喚された悪魔。その等級はA級の中でも上位に位置していた。
そして彼等の精神的な乱れが使役に支障をきたしてしまったのだ。使役に失敗した悪魔は枷のないライオン同様、誰にでも牙を剥く。
自力で枷を外し、現界に降臨した悪魔は真下で起こる魔力のぶつかり合いに気付く。
その時、デポロワームが突然現れた不届き者に尻尾の凪払いを打ち付ける。確実に奴を捉えたワームだったが力の差は歴然であった。
「イギャァァァァァァァァ」
奇声と共にデポロワームの巨体が宙を舞う。振るわれたワームを掴み上げ、後ろへ投げ飛ばす。半回転したワームはそのまま地面へと叩きつけられ、砂塵が巻き上げられる。
「俺たちも行く……」
この好機を逃すまいと加勢に入ろうとした西園寺だったが、急にその足を止めた。地面に伏せるデポロワームに火達磨が追撃を仕掛けたのだ。
その瞳からは邪魔するなとでも言わんばかりの覇気を放っていた。
奴が拳を打ち付ける度に火花が散り、デポロワームの表皮が一瞬にして丸焦げになっていく。必死に抵抗を見せるワームだったが噴射した毒霧はまるで効いておらず、反撃の隙すら与えない。
「ドギャァァァァァァァァ」
焦げた腹部に特大の一撃が振り下ろされようとしたその時、奴が最後の抵抗を見せる。隠し球のように最後まで温存していた毒針を口から伸ばす。
高速で伸ばされた針は火達磨の右肩を貫いた。そして奴の動きが一瞬硬直する。その隙を見て、デポロワームが火達磨を飲み込んだ。
奴の身体が波打っていき、悪魔が食道を通過していくのが分かる。
「………………」
しかし皆が見ている前で、デポロワームの腹部が急激に膨張し始めた。明らかに奴が内側から何かをしている。
「ぐっ………………」
その瞬間、内側から大爆発を起こした。連鎖するように腹部から両側へ爆発が起き、デポロワームが完全に粉々に粉砕した。
あまりの衝撃で砂塵がハンター達を襲う。目を開けることの出来ない中、それでも奴の標的が変わったことは分かる。
奴の鋭い視線は俺達を射抜き、それだけで背筋に電流が走った。西園寺は奴は4年前のS級に次ぐ大物だと確信した。
砂塵が止み、先頭の西園寺と火達磨が睨み合う。
『魔操け』
「ブビィァァァァァァァァァァ」
先に仕掛けたのは西園寺。高速で懐へ潜り込み、魔操術で先手を奪う予定だったが奴は更にその先をゆく。
後出しにも関わらず西園寺の速度を上回った悪魔は大剣の振り抜きが来る前に西園寺の顔面に膝蹴りを叩き込んだ。
「ゴリッ」
超速度に乗せた蹴りは一撃で西園寺の顎を粉砕した。その衝撃は顎から脳まで達し、彼の意識を刈り取った。
「んんんんっ!」
土壇場で舌を噛み千切り、スタンを回避する。既に意識は無かったにも関わらず、脊髄反射で彼の顎の筋肉に指令が飛んだ。
彼の生存本能は既に身体中に染み付いていたのだ。
『ノースベルグ』
絶体絶命の状況に仲間達が応える。魔術師達は奴の足元に巨大な氷山を形成させて、火達磨ごと氷結した。
「助かった、先ずは一旦距離を取ろ」
「後ろ!」
「バァァァァァァァァァァ」
氷結してから僅か3秒。奴を中心に大爆発が起こり氷山が跡形もなく溶けきった。西園寺がその衝撃に気付き、振り向き際に横の凪払いを打ち込む。
ノールックの払いは見事奴の頭部を捉えたが、奴は自ら刀身に噛り付いた。
「ボギャャャャャャャャャャ」
奴の噛みついた箇所がパチパチと火花を散らし始める。そして次の瞬間、西園寺の大剣が大爆発を起こした。
刀身は粉々に粉砕して、使い物になら無くなった。それでも西園寺は諦めていない。その不屈の瞳は死を恐れていない。
「ガギャャャャャァ……………」
再び叫ぶ火達磨だったが途中で奴が硬直する。西園寺に向けて開口し、微動だにしない。
西園寺は感じ取る。これは隙ではないことを。まるで居合いのような一瞬の戦いが始まった。
どちらかが動き出した瞬間、どちらかが死ぬ。
「ジュッ」
奴の口から放たれたのは火炎放射でもなければ火球でもなかった。超高熱の閃光が光速で西園寺の蟀谷目掛けた撃ち込まれた。
瞬きしている間に撃ち抜かれるほどの超高速の居合いに彼は反応した。しかし無傷ではなかった。
「えっ……」
仲間が絶句する。蟀谷は避けた西園寺だったが、避けきれなかった右目と右脳の一部を抉り取られた。
『ヒール』
瀕死の西園寺に仲間がヒールを掛ける。しかし、悪魔というものは残酷で残忍だ。そしてそれを好む生き物なのだ
「ブジュリ」
西園寺の腹部に鈍い痛みが巡る。
「ガバッ」
西園寺の腹を奴の腕が貫く。穿たれた西園寺は吐血する。
「バギャャャャャャャャャ」
奴は西園寺を貫いたまま身体に纏う火炎を加熱させた。西園寺の細胞のタイムリミットが近づく。
『ヒール』
『ヒール』
『ヒール』
『ヒール』
魔術師が不作の黒薔薇ギルド内で唯一ヒールを使える一彦が必死にヒールを掛ける。
しかしヒールが奴のダメージに追い付かない。治しては滅却を繰り返していくが着々と西園寺の死が近づく。
その時
「ウボォォォォォォォォォォ」
西園寺の死に待ったをかけたのは4腕の獣達だった。




