B級映画
時は黒薔薇一団が砂漠地帯に入る前に遡る。
「西園寺さん、おかしくないすか」
「ああ、200匹が聞いて呆れるな」
婆娑羅同様、黒薔薇も作戦開始から1時間経過しても尚、悪魔との遭遇は皆無だった。
しかし、常に気を張っている彼等からしてみれば悪魔がいないからといって疲労がないわけではなかった
踏みしめる一歩一歩に注意を払う。特に樹林地帯は厄介な悪魔が多いのだ。地形が完全に敵有利になってしまい、尚且つ悪魔の種類も多い。
「着いてしまったか」
先頭の西園寺がそう呟く。順調すぎるほどのペースで進んだ結果、予定より速く砂漠地帯に着いてしまった。
上空から確認した限りでは砂漠地帯に悪魔は確認できなかった。まっさらな砂が敷き詰められ、足取りが悪い中を約1時も歩かなければならない。
更に今まで砂漠地帯のダンジョンで確認されてきた悪魔は数種類しかおらず未知が残る秘境とされている。
そもそもゲートで砂漠地帯に飛ばされること事態が少ないため、研究が遅れているのだ。しかしその中でも1つだけ自信を持って言えることがある。
それは全てのエリアの中で最も悪環境なのが砂漠地帯だということだ。灼熱の中、纏わりつく砂が進行を妨げる。
防具の熱対策が必須なのだが、今回のように事前に分かることではないので熱対策が出来ていることはまず無い。
そして何より悪魔が凶悪な奴ばかりなのだ。その中でも一際凶悪とされている悪魔は
「デポロワームだ!」
砂漠を進行中だった彼等の足元が突如揺れ始める。その揺れは"奴"の襲来の合図だった。
彼等一団を飲み込むように地面から捕食者が現れる。大口を開けて這い出てきたワームは地面から見えている部分だけでも10mはあった。
奴の口はラフレシアのような開き方をしており、飲まれたらひとたまりもないのが見て分かる。
全員が奴の突き上げを回避して、陣形を成す。前衛の後ろでガーディアンが後衛を囲むというスタンダードな型。基本の型にして鉄壁の固さを誇るこの陣形は汎用性が高く、色々な場面で重宝されている。
西園寺を先頭に前衛がワームに突っ込む。歪な頭部だが胴体は通常のワーム同様、筋肉質な作りをしているため、剣が通りやすいのだ。
鋭い振り抜きがワームを捉える。しかし見た目からは想像できない程の強度によって攻撃が弾かれる。
「なっ」
全くの予想外な事態に、前衛が一旦距離を取るが奴は待ってはくれない。飛び退けたハンターに向かって大口を地面に叩きつける。
寸前で回避に成功するが奴は砂漠の中に姿を消した。再び死の緊張が彼等を襲う。こうしている間は自分達はただ奴の出現を待つことしか出来ず、受動的な動作しか取れない。
この焦りが彼等の感覚を狂わせ、数十秒ですら永遠に続くとさえ思えてくるのだ。
しかし訪れたのは予想外の事態だった。下からの突き上げを想定していた彼等の裏をついた奇襲。前衛達の踏みしめる砂が微動し始める。
先程とは比べ物になら無いほどの些細な揺れは彼等に感知されること無く、徐々に彼等を蝕んでゆく。
「おっ」
1人の前衛がほんのすこしだけバランスを崩した。それは軸がすこしぶれた程の些細なずれ。その時、突如地面の砂が螺旋を描いて回転し始めた。
しかもまるで蟻地獄のように中心へと吸い込まれていく。焦れば焦るほど激しく引きずり込まれていく。頭では分かっていても身体は危険を感じ取ってしまう。
焦りを止めようとすればするほど悪循環に陥ってしまうのだ。
「え…あ……ちょっ……」
「やぁぁぁぁぁぁ」
「くそっ……くっ………やめろ」
蟻地獄は半径5m程の大穴へと成長し、彼等を飲み込まんとする。中心に現れたぎっしりと歯の敷き詰められた口は砂ごと飲み込んでハンターを待っている。
『クワトロア……』
前衛を飲み込もうとするデポロワームに後衛部隊が魔術を打ち込もうとしたその時、魔術師達の動きが止まり、視線が彼等の後ろへ集まる。
「な……なんで」
彼等の足元が揺れ始めていた。先程のデポロワームはまだ前衛と交戦中である筈。ということは………
「に、2体目のデポロワーム出現です!」
イレギュラーの最中に更なるイレギュラーが重なる。しかも1体目と同じ程の巨体を誇り、魔術師とガーディアンへとその大口を開口していた。
『魔操盾術ポリゴンアーマー』
ガーディアン達が盾を密着させ、魔術師ごと覆い尽くす半球型の障壁を形成させた。それと同時にデポロワームがかぶり付くが、障壁に阻まれて突進の勢いが止まる。
「ギィィィィギゴギゴゴゴ」
障壁内部からはワームの口の断面が繊細に映っている。何層にもなる細かな歯がギシギシと音を立て、障壁に傷をつけている。
「な、何だよそれ………」
デポロワームは歯で障壁を破壊しようとしていたが、突如歯を口内に仕舞い込む。代わりに奴のラフレシアのような口が更に裂けていく。
胴体がみるみる内に裂け、障壁ごと飲み込み始めたのだ。
「や、やだ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
障壁の内側にいる後衛部隊は壁越しに飲み込まれていくのを只待つしか出来ない。障壁に奴の粘液がべっとりとこびりつき、腹の中のひだが映し出される。
『魔操剣術ラーヴエンファイア』
その時、西園寺は蟻地獄から這い出ることを諦め、奴の口内に攻撃を放り込んだ。
彼の刀身が紅蓮に染まり、振り抜くと同時に奴の口内へと火炎が駆け抜けてゆく。体内へと侵入した火炎は内側から奴を滅した。
奴はその衝撃で思い切り噎せ返り、前衛部隊を砂塵ごと空に巻き上げた。そしてこの一撃は2体目のデポロワームへと連鎖した。
何故か、2体目のデポロワームの口から火炎が吹き出し、体内の中腹まで押し込まれていた後衛部隊を吐き出した。
地中でのたうち回るデポロワームは遂にその全貌を現す。
「やはりそうか」
そう口にした西園寺が見たのは、頭と尻の両側に口が付いた、デポロワームの変異体だった。2体いた訳ではなく、2口のデポロワームだったわけだ
此方を睨み付けるその姿は、2輪の覇王花がコバエが誘い出されるのを待っているようだった。




