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強者

彼女は弱い人間が大嫌いだった。己の身も守れないで他者に頼るしか生き残る術を持たない、そんな人間が大嫌いだった。


もしあの人との出会いがなかったら今もそう思っていた筈だ。だが彼女達は出会った。同じ強者という立場ながら全く異なる思想を持つ二人は意図して出会った。


そして彼女は変わった。不知火千景という1人の人間のたった一言によって変えられた。






「貴方は弱者ですよ」






初めての共同戦線後そう彼女に言われた時、底知れぬ怒りが沸き上がった。自分が見下していた弱者と自分が同じ存在だと言われたのだ。


しかし、何故か言い返すことが出来なかった。


「貴方の定義する強さは最も陳腐な部類のものです。貴方が悪魔を倒したとしても仲間が1人でも死んだのならそれは貴方の負けです」


「後ろを見てください、それが貴方が本来守るべきだった者達です」






天断と婆娑羅の共同戦線で出た負傷者は婆娑羅からの8人のみだった。


初め、彼女の目に映る不知火は只の偽善者だった。強者でありながら弱者に手を差し述べるその姿は偽物であり、本当は自分と同じような軽蔑の眼差しを向けているのだと、そう思っていた。


だから彼女の心の核を、彼女を支えるものを知った時、それを認めることが出来なかった。自分には無いものを信じて強く生きる彼女が嫌なほど眩しく映った。


「本当の弱者は守るものが無い者だけだ」


そう力強く告げた不知火千景は真の強者だった。



だから仲間達が蜘蛛に捕獲されていくこの状況を今の橘が許す筈はなかった。


今は無き友との誓いを彼女は剣を振るうことで果たすと決めたから


濁る視界の中、橘は感覚だけで糸を判別して蜘蛛へと迫る。奴が触れた時の糸の微細な振動を感知出来るのは恐らく彼女だけだろう。


煙る視界の中にとうとう蜘蛛の姿を捉えた。橘は太刀を抜いて振り抜く。しかし軌道の先にいたのは悪魔ではなく、天井に吊るされた仲間の繭であった。


仲間の拘束を解いた橘であったが、既に蜘蛛の姿はなかった。奴は姿を隠しながらガーディアンと後衛を先に殲滅させる狙いのようだ。


実に堅実な作戦だ。だが、それは橘紅を放置することと同義であり、奇しくもこの場合の愚解となってしまった。


橘は奴を追うこと無く地面へと着地する。そしてここで再びライターをポケットから取り出した。灯火はゆらゆらとはためき、奴の糸に引火した


「終いや」


煙った視界に光が灯されてゆく。橘はライターの火に魔力を付与していた。でなければ悪魔が生成した糸を伝播するなんて芸当は不可能だ。


「ギィギャャャャャャャャ」


仲間を取り戻した時点で橘の勝利は確定していた。糸を伝播して炎が蜘蛛に群がる。甲高い呻き声をあげて悪魔が焼却されてゆく。


「更に煙くなったな」


穴が自分達が落ちてきた天井の1つしかないため、なかなか煙が抜け切らないのだ。


「起きろお前達」


橘は捕らわれた仲間達に絡み付いた糸を引き剥がしていく。


「寝てませんよ橘さん」


顔の糸が取れた仲間が橘に虚ろになった瞳を向ける


「なんだお前、泣いてんのか」


「な、泣いてませんよ!」


誰だって悪魔に捕らわれたら死を覚悟するものだ。しかし彼の目に涙が浮かんでいたのは死の恐怖というよりも橘が助けに来てくれたという安心感から来るものだろう。


その後捕らわれた全員の糸を剥ぎ、全員がほぼ無傷であることを確認する。糸にくるまれていた奴らは少しべっとりしていたが奴の粘液か何かだろう。だが目立った外傷はなかった。


煙が抜けきって既に呻き声すら上げなくなった蜘蛛の死体が現れる。


「お前らは近づくな、動き出したら攻撃しろ」


昆虫型の悪魔は稀に死んだふりをしている可能性がある。それを確認するために橘だけが死体へと近づいていく。


彼女は戦闘中ずっと咥えていた煙草を死体に近づける。


「ジュュュュュュ」


それを蜘蛛の頭部に擦り付けた。外骨格が徐々に溶けていき、痛々しい音が巣穴に響く。しかし奴が悲鳴を上げることはなかった。


これを必死に耐えているのだとしたら、とんだ演技派な悪魔だ。


「死んどるな」


悪魔に1本の粗末なお線香があげられた














「西園寺さん!せ、制御ができません!」


「やめろ!今すぐ解術しろ!」


「と、止まりません!解術できません!」


「だめです!もう降臨します!」






その時、一体の悪魔がこの地に降臨しようとしていた。誰1人として予測できなかったイレギュラーな事態。










そう
















召喚魔術の失敗という前代未聞のイレギュラーが

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