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HOPE

「キャッキキキキキャキャキャ」


先程までの静寂が嘘のように樹林が喧騒に包まれる。四方八方を大樹で囲まれ、身動きの取りにくい中でのキキとの遭遇。これ以上無いくらい最悪のタイミングだ。


しかも糞を投げるなんて行動は今までに報告されていない。恐らく現界に住み着いた個体だけが持つ特性なのだろう


キキは計18体。先日のラパンパラの時と比べれば少ないが今回は新個体と考えていいだろう。そうなると少ないからと油断はできない。


「陣形!それと透道さん」


「分かってます!」


不知火に言われるより先に瞬が動き出す。


『レボルトアサイトメント』


瞬は自分の中軸に大剣を旋回させる。円を描く軌道は周りの大木を根刮ぎ切断した。キキとの戦闘では敵の地の利を消すのが最優先なのだ。


足場を破壊されたキキ達が地面に落ちる。猿も木から落ちるをそのまま体現しているようだ。しかし地の利を失ったキキ達が次にとった行動は攻撃ではなく逃走だった。


更地になった戦場を避けるようにキキ達が散り散りになって樹林へと逃げ込む。しかし彼らはそれを許さなかった


『アイアンウォー』


ガーディアン達が魔操盾術を放つ。逃げ込むキキ達を阻むように、更地と樹林との間に巨大な城壁が形成される。


ものすごい速さで煉瓦が組上がって行き、胸壁なんかも忠実に再現されている。壁には魔力が付与されていて悪魔達は壁を越えることが出来ない。


今まではガーディアンは防御系の魔操術しか使えないと思っていたが、応用1つで捕縛することも可能になるようだ。


通常、ハンターと悪魔の間に障壁を形成させて、攻撃を防ぐところをハンターと悪魔どちらも閉じ込めることによって敵の退路を断ったのだ。やはりこの段階でも2番隊との差は歴然だ。


幽閉されたキキに前衛が距離を詰める。魔操術を使うこと無く殲滅する。そしてその一挙一動は洗練されており、キキに反撃の隙を与えない。


1人のハンターが複数体のキキを相手にしても尚、押される様子は無く、18体のキキを全滅させた。


「先を急ぎましょう」


突然の奇襲にも動じること無く、再び樹林を潜り抜けて行く。不知火が手を下さずとも1番隊は十分に機能していた。














「ドンパチやってんねぇ」


西側から響く騒々しい衝撃音を聞いて橘がそう呟く。


婆娑羅ギルド一団が樹林に入ってから30分、未だ悪魔との遭遇はない。それでも橘を先頭に一団は進む


「あ?」


その時、橘が抜けたような声を出した。彼女以外はその異変に気が付いていない。


「なんだこれ」


「どうしたんですか」


突然立ち止まった橘は自分の靴裏を覗き込むように確認した。それを不思議に思った後ろの団員が彼女に問いかける


「……………」


しかし彼女からの返答はない。その代わりに橘の靴裏にはガムのような粘着物質が地面とくっ付いて糸を引いている。


ここで初めて橘は自分達が敵の餌場のど真ん中まで足を踏み入れていたことに気が付く。しかし今さら何をしたとしても既に遅い。


「お前ら、戦闘準備だ」


「え」


橘の重く低い声がそう響いた時、彼ら一団の踏みしめていた地面が突如、波打ち出す。後ろのハンター達は何が起こったのかすら理解できず、ただただ大地の揺れに身を任せていた。


そして揺れが激しくなって行き、地面が螺旋を描きながら回転して行く。まるで遊園地のコーヒーカップのように彼らは振り回される。


しかもそれだけでは終わらなかった。回転と共にゆっくりと地面が陥没していっているのだ。そしてとうとう彼らの踏みしめていた大地は完全に消え、ぽっかりと穴ができる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


彼らは真っ逆さまに穴へ落ちて行き、固い地面に叩き落とされた。


「痛ぇ…………なんだよここ」


団員の1人が困惑を口にした。地面が消えたと思ったらその地下の地面に叩きつけられるという意味不明な状況。


しかし彼らの目の前に広がる景色は今何が起きているのかを理解するには十分なものであった。


空洞のような空間には至る所に糸が張り巡らされていた。しかも天井からは何かが糸でくるまれて吊るされている。


そしてその視線を少し横にずらすと俺達が落ちてきた穴から光が差し込んでいる。否応にも理解する。だが悪魔の巣穴にのこのことやってきた愚行を悔やんでいる暇はない。


「ガリ…ガリ…ガリ…」


暗闇の奥から地面を削りながら何かが近づいてくる。しかしここにいる全員が姿を見る前から粗方の予想はついている。


「キュルルルルルルルル」


8本の足を互いに動かしながら蜘蛛型の悪魔が姿を現す。しかし本来頭部がある部位から人間の上半身が上向きに生えている。そしてその人型の両腕の五指からは糸が伸びていた。


「気持ち悪いなぁ」


橘はそうぼやると徐に手をズボンのポケットへと突っ込んだ。そしてポケットから抜くと、その手にはライターとシガレットケースが握られていた。


「ちょいと待っとれ」


彼女は今にも飛び掛かってきそうな悪魔にそう告げると、持っていたシガレットケースから煙草を一本取り出して口に咥える。そしてその先端にライターの火を翳して煙草を吸い始めた。


「フゥー」


人差し指と中指の間で煙草を挟み、彼女の口から白い煙が立ち上る。





「ほな、始めるか」



そう言うと彼女は煙草を咥えたまま悪魔へと歩き出した。

橘さんはスイッチが入ると口調が変わる方なんです

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