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知らぬが仏

俺は曲がりなりにも天断ギルドの準トップに位置するハンターだ。実力だって上位の位置付けだと自負している。だがあのゴリラと対面したとき、1人では太刀打ちできないと感じてしまった。


あれはA級ボス並の実力を持っていた。何故そんな奴がB級ゲートに居たのかは不明だがもっと不可解なのはそんな悪魔を1人で葬った彼の存在だ。


以前弟からあの事件の裏で起こったことを聞き出した時に出てきた名前が綾小路というハンターだったのを記憶している。


C級相当のボスをE級ハンターが単独で攻略したという事実にどんな奴なのかと思っていたが実際に目にして理解した。

今思えば気が付かない方が良かったとさえ思える。



彼は確かに笑っていたのだ。



口元を緩ませた彼の瞳には捻り潰される悪魔の姿が写り込んでいた。俺はそれを見た瞬間、これまで感じたことの無いような悪寒を感じたのだ。


これ以上、知ってはいけない。彼に関わってはいけない。そんな事を言われているような気がした。


代表とはまた違う覇気を持っていた彼に、心の底から恐怖を感じた。だからその瞳が俺に向けられた時、彼の瞳と俺の瞳が交わった時、瞳の奥に潜む何かを見た。


そして長谷川が彼に意識を向けた時は咄嗟に口を挟んだ。これ以上は踏み込んではいけない領域なのだと悟ったからだ。


「遅れてすいません」


ゲート直前で彼が合流した。彼が1人で何をしていたのかは分からないが知らない方がいいこともあるだろう。















「本日の報告書です」


「ありがとう」


夜中の12時、私は今日一日の出来事をまとめた報告書に目を通す。これもギルド代表者の勤めである。一日の総括をして、明日を少しでもより良いものにするための取り組み。


いつも深夜12時に透道くんから渡され、約1、2時間かけて読み終える。眠気に襲われながらも必死で取り組んでいる。


これは姉がギルド代表者だった時からの取り組みで、あの時まだ高校生だった私は遅くに帰る姉をよく心配していた。だが今思えば姉もこれが原因だったのだろう


姉がやってきたことを自分が繋いでいくことに誇りのようなものを感じ、大変な作業も今日までなんとか乗り越えてきた。


時刻は1時半を回った。あれからかなり時間が経って眠気のピークに差し掛かる。ここまで見た限り、本日の重傷者はなく、天断ギルド全体で16のゲートを攻略していた。


その中でもA級ゲート、B級ゲートともに一件ずつあった。そしてこのAゲートは私が昼に攻略したものだ。1番隊であればAゲートであろうと苦戦することはあまりない。


「これが最後ですか」


私は眠気眼を擦りながら最後の報告書をめくる。見るとそこには、透道くんが参加した2番隊のダンジョン報告が記されていた。


今日は2番隊の監査日でこの編成隊が組まれてから丁度3ヶ月になる。うちでは編成から一定期間を置いて監査日という日を設けている。


編成隊がうまく機能しているかや、陣形と戦術、それから隊内でのコミュニケーションなども監査対象である。これに合格すると正規の隊として認められる仕組みになっている。


監査官として透道くんを付けたが果たして成果はどうだったのだろうか。



「再監査……」



見込みがあっただけに正直驚いている。実際に私が見た時は連携も取れていて陣形も戦略もしっかり練れていたはずなのだが。今回は何が引っ掛かってしまったのだろうか


私は目を下にスライドさせる。そしてある項目で止まる


「死傷者………」


死傷者が1人出ていた。


彼らが潜ったのはBゲートだ。確かに適正ゲートだった筈なのだ、しかも今回は透道くんも一緒にいたのに何故………


私は何があったのかを探るべく透道くんの備考欄に目を通す。そして死傷者を生んだ事故の発端を知る



「え………A級ゲートボス並の悪魔の乱入が発生……」


そこにはボスのラパンパラを討伐中、突然の別悪魔乱入によってラパンパラが討伐され、その後、乱入した悪魔の討伐に成功した旨が記されていた。


ラパンパラはキキを率いている場合が多い。そして下位ダンジョンでの死亡原因の大半はコイツらキキが占めている。


そして死傷者2人の死因もキキだと書かれていた。


「なるほど」


死因がキキだと言う点は確かに看過できない。上位ダンジョンになればなるほど下位悪魔の対処は重要になってくる。上位ダンジョンでは下位悪魔が強化されて出現することが多いからだ。


そしてそれがキキにもなると尚更だ。うちではギルド入隊直後から各悪魔に対しての戦略を講義を開いて話している。


その中でも特にキキは重点的に話しているのだ。死因ランキングからみても分かるように、最も狡猾で賢い戦い方をしてくる。そしてそれだけ頭を使わなければならないのだ。


そしてそのキキに負けている内は天断ギルドの2番隊として認めることは出来ない。私も彼の判断には同意だ。


そしてさらに浮かび上がる疑問。


「どうやってそんな乱入者を討伐したんでしょう」


A級ボス並であれば透道くんが加わったとしても2番隊での攻略は難しいだろう。だが備考には誰が倒したのかの記載がない。透道くんにしては珍しい記載漏れだ


「明日聞いてみますか」


私が諦めて最後の報告書を鞄に仕舞おうとしたその時




「え………………綾小路傑…………………」



目を疑った。軽く5回は読み返した。眠すぎて幻覚をみているのか疑ったがそうではないようだ。ここに来てタイムリーすぎる名前


「西園寺さんの見立ては当たっていたようですね」


私は1人そう呟く。どうやらこの件にも彼が一枚噛んでいるのかもしれない。そして何かを隠している。姉の最後を看取ったあのアブソルゲートでの疑念が再燃する。


「やはりあの人がボスを倒したのかも」


そうすると今回の乱入者の討伐も辻褄が合う。前回も今回も彼が倒していたとしたら………





「調べる価値はあるわね」



彼が座っていたソファを見つめてそう呟いた

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