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ドラ

『烈火ジ』


瞬が仲間へ迫るゴリラに魔操剣術を繰り出そうとしたその瞬間、奴の動きの軌道が曲がる。いや、正確には曲げられた。


斜め下の魔術師達に木上から飛び掛かろうとしたゴリラが突然の真下に急降下した。頭から落下したゴリラは何とか起き上がろうとするが頭だけが持ち上がらない。


俺は念力で奴の身体を地面に叩きつけたのだ。この距離からでもこれだけの効果が見込めるのか………汎用性が高いな。


俺は目の前の戦闘に頭を切り替えて、左手を真横に振り切る。


「ガァァァァァァァァァァ」



奴の頭が本来曲がるはずの無い方向へと捻じ曲がる。


今度は両手をクロスさせてから、思い切り外側へ振り切る。


「ボギィァァァァァァァァァァァァ」


奴の胴体が絞り雑巾のように捻じ切れる。身体の骨が粉々になり、裂けた皮膚から行き場をなくした血が吹き出している。


天断ギルドのメンバーはその光景を眺めることしかできなかった。後ろで事を済ませている綾小路の事など気づく筈がない。


その場の皆が突如殺されたゴリラに釘付けになる中、一人こんな異常事態の中でも冷静さを保ち続け、綾小路の奇行に気が付く者が居た。


俺達2人と残りの天断ギルドとの間にはゴリラの死体が横たわっており意図せず2人だけの空間が生まれた。


ゆっくりと瞬が後ろを振り向く


「君が殺ったのか」


瞬の眼は笑っておらず此方を鋭い眼光で見つめていた。


「いいえ」


ここは建前でも否定しておく必要がある。恐らくコイツなら俺のやったことに気が付いている筈だ。それでも聞いてくるということは………


「そうか」


瞬はそれだけ言うと振り返り仲間の元へ戻って行く。


「皆、不安にさせてすまなかった。だがもう終わった。戻るぞ」


「い、今の瞬さんがやったんですか」


「そうですよ」


俺は心の中で瞬に感謝する。どうやら俺の考えを汲んでくれたみたいだ。彼は此方を振り返ることなく遠ざかって行く。そして天断ギルドが帰路に着く中、俺だけが足を止める。


「どうしたんですか、置いていきますよ」


一人が俺が立ち止まったことに気が付く。


それに反応して瞬も此方を振り向く。俺は目線だけで瞬に言伝を頼んだ。


「長谷川さん、大丈夫です」


「へ?」


「後からすぐ追いかけますので先に行ってください」


俺からも頼み込む


「でも……ダンジョン内では一人だと」


「長谷川さん」


瞬が長谷川にニッコリと笑顔を向ける。だが普段それほど感情を表に出すことの無い彼の笑顔は長谷川には恐ろしく映った。


「そ、そうですか」


他の仲間達も口を突っ込まず瞬に続いて去って行く。また天断の人間に借りが出来てしまったようだ。まぁ、何故俺の意識を汲んでくれたのかは良く分からないが感謝しておこう














「さてと」


俺は横たえる死体に歩み寄る。天断ギルドが去った今、この場に立つのは俺一人。辺りにはゴリラ以外にも様々な悪魔の死体が転がっている。


「平伏せよ」


調教の時間が始まった。あれ程俺達に敵意を向けていた悪魔は果たして俺に忠誠を誓ってくれるのだろうか。


【呪楔残り31枠】


【呪楔を結ぶ悪魔を選択してください】


脳内に流れる通知は呪楔の制限を告げる。だが何かがおかしいことに気が付く。


「残り31枠………」


以前不知火千影と戦った後、呪楔を結べるか試すために一体の亡霊を無に帰したことは覚えている。そうすると本来は残り1枠しか残っていない筈だ。全部で30体が限界だった訳なのだが………


「呪楔の枠が増えたのか」


どうやら何かが原因で呪楔枠が増えたようだ。そして不知火戦と今日までの間で起こったことといえばあの犬との戦いしか思い浮かばない。


「確か、魔力的順応値が規定値を満たしたとか言ってたな………」


俺の中の魔力が身体に馴染むほどこの呪楔の能力も強化されるのだろうか。そしてもしそうなら馴染むためには繰り返し魔力や肉体を行使する必要があるわけだ。


「この強化はデカイな」


俺は1人で今回の収穫についてぼやく。30の軍勢が60に増えたということは単純計算で戦力が2倍に膨れ上がったということ。これで俺1人分くらいになっただろうか。


色々考えていると既に悪魔に囲まれていた。だがそれは先程のような敵意ではなく洗礼に近いものを含んだ行動だった。


「…………………」


しかし誰一人として言葉を発するものは居なかった。どうやら話せるのは生前でも話せたバベルのような悪魔だけのようだ。確か亡霊も言葉を発してはいなかった筈だ。


俺は悪魔達を一瞥する。出来るだけ速く彼らと合流したいので、ここで時間を割くことはしたくない。


「お前は確定で………後はあんま変わんないか」


ゴリラだけ指名して他は適当に選ぶ。ラパンパラは論外だ。俺のかざした手から鎖が伸びて悪魔達に突き刺さる。これからコイツらには奴隷のように働いて貰おう。


「おい、お前…………」


俺がゴリラを名指ししようとした時、ふと名前がないことに気が付く。バベルなどの主戦力の悪魔は名前があった方が何かと便利な場面が多いのだ。


「………お前はドラだな」


あまり時間がないのでドラミングから取って名付けたが安直すぎたか。でも短い方が呼びやすいし、第2候補の「ゴリ」なんてもっと安直過ぎるだろう。


「お前は今日からドラだ」


「ウォッウォッ」


どうやら意志疎通は出来ているようだ。悪魔と気持ちを通じ合わせるなんて妙技どこで手にしたんだか。


俺は余った悪魔達を無に帰してその場を去った。

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