合格
俺は突然のゴリラの登場に思わず頬を緩めた。先程までのさばっていたラパンパラは見たところそこまで強敵ではなかった。
場の錯乱が得意なキキが大量にいて初めて奴の遠距離攻撃が猛威を振るう。そのため俺が奴と呪楔を結んだところであまり役に立たなかっただろう。
俺としては従僕は近距離の悪魔と遠距離の悪魔が一体いれば十分だと考えている。
それを考えるとどうしても奴では役不足なのだ。そんなところに突如現れた4腕のいかにも近距離なゴリラ。見たところ魔力量もバベルに近いものを感じる。
恐らくA級ゲートボスに近いものを持っている。何故そんな奴がB級ゲートに居るのかは分からないが俺としては最高の展開だ。
呪楔を手にいれてからバベル以降はあまり呪楔を結べていなかった。ここに来てこんな大物を仲間にできるのは棚ぼただったな。
主人を殺された悪魔達のヘイトが俺達からゴリラへと移る。
ゴリラはこの湿地帯の主に喧嘩を売っただけではなかった。この湿地帯全域の全悪魔を敵に回してしまったようだ。
その時、俺達の背後にいたジャガウォックの群れが突然此方に駆け出してくる。俺達は武器を構えるが奴らは横を素通りした。
俺達ハンターにはまるで興味を示さずに奥のゴリラ目掛けて駆け出していた。見ると全ての悪魔がゴリラに群がっていく。
だが、群がるしかない悪魔達を個の力が捩じ伏せる。4腕が宙を駆け回り、悪魔達を一体一体駆逐していく。
腕に噛みつくジャガウォックがそのまま大木に叩きつけられ、骨ごと粉砕する
背中にしがみついたキキの群れが大木に背中ごと叩きつけられてプレスされる
地面に群がる昆虫型と魚類型悪魔が奴から振り下ろされた拳に叩き潰される
木上から矢を放つエルフ達が木々を伝って接近した奴に枝木ごと折られ、地面に叩き落とされる
空を飛ぶ鳥類型悪魔が奴の放つ木の槍に貫かれて絶命する
1人で湿地帯の全悪魔を相手にしても尚、ダメージを負う素振りを見せず殲滅していく。
「皆さん!魔操術を使ってください、全力です!」
瞬がボス戦用に温存していた魔操術の使用許可を出す。眼前の圧倒的脅威対して数多のダンジョン経験を持つ瞬の頭が黄色信号を灯した。
『魔操盾術バルクアトランティス』
全ガーディアンが後衛を囲い込み透明な結界を作り出す。
バルクアトランティスは複数人による連携魔操術で、人数によって効果の効き目が変わってくる。そしてその効果は凄まじく、結界内の魔力量を(1+ガーディアンの人数×0.25)倍にするというもの。
しかも結界の強度は魔操盾術の中でも上位に位置する。そしてこの隊のガーディアンの人数は8人。結界内から放たれる魔術は実に3倍の威力を持つ。
『アブソリュート・ゼロ』
魔術師達の一発は湿地帯を突如、氷雪地帯へと変貌させる。群がる悪魔達を粗方殲滅し負えたゴリラの足が氷結していく。
氷結は足から腰へ、腰から胴体へと広がって行き、遂にはゴリラの全身を氷漬けにした。
しかしゴリラは己に牙を向く者に対して容赦はしない。相手が悪魔から人間に変わった、只それだけのことだった
キュリキュリキュリ……………
氷結が軋みだす
バコッ
氷結にデカイ亀裂が生じる
「ウオォォォォォォォォォォォォォ」
ゴリラが身体に纏わりつく氷結を粉々に破壊して咆哮を轟かす。悪魔達の返り血を浴びたゴリラはのそのそと此方に迫りくる。
その瞬間、誰よりも速く反応したのは瞬だった。
『陽炎』
瞬は地面を舞うようにゴリラへと接近した。そして瞬の動きが次第にぶれ始めた。姿が歪んで写り、目視では彼を完璧に捉え切ることは不可能。
ゴリラの乱打が瞬を捉えることはなく地面だけが衝撃を受ける。
そして瞬が奴の首筋に飛びかかろうとしたその時
奴が突如ドラミングを始めた。4腕で胸を交互に叩き始め、爆音が湿地帯に響き渡る。奴が胸を叩く度に空気が波打ち、瞬の行く手を阻む。
まるで重加操術のように身体が地面に押し付けられ、遂には瞬の膝が地面に着いた。後ろにいる俺達の所でさえ振動が伝わってくる。
後衛部隊は魔術の詠唱を始めたが恐らくあまり期待できないだろう。先程のバフ付きの複合魔術であの有り様なら今のゴリラに届くかすら怪しい。
俺はドラミング中のゴリラに正面から突っ込む。合格だ、コイツは強い。正直、コイツらの魔術に屈しているようなら仲間にする価値はなかった。この先その程度の悪魔はごろごろと居るだろう。
しかし天断2番隊であっても苦戦する悪魔というのは実に魅力的だ。バベルは正確に言うと近距離には属さない。槍を使った攻撃は中距離専門といったところだろう。そうするとコイツとの相性は抜群にいい。
ゴリラの乱打が俺を襲う。動き自体は大して早くもない、あの犬に比べれば羽虫でも止まるようなスピードだ。
俺は奴の拳を潜り抜け、奴の足元にたどり着く。俺は左蹴りを奴の右足に叩き込み、重心を崩す。奴が傾いた拍子に地面に腕を着こうとする。
それを待っていたと言わんばかりに、雪陽花を振り抜いて地面に着いた腕を切り飛ばした。しかし倒れたままの体勢から残りの3本の腕が俺を捕らえようと迫る。
俺は念力で一本の腕を捻り上げる。痛みによって奴の動きが硬直したその瞬間、腕を完全に捻じ切った。螺旋を描きながら肘から千切れた腕が地面に落ちる。
「俺達も続くぞ!」
起き上がる瞬が後続のハンター達に声を掛けたが有り難迷惑だ。
魔術の詠唱が終わった魔術師達が一斉にその高火力を放つ
『ドベルボース』
魔術師達から放たれた火球は奴の足元に命中し派手に砂埃が立つ。姿が隠れた一瞬、奴が頭上の枝木に跳び移った。
「まずい」
奴は2本の腕で枝木を伝い後衛に迫る。追いかける瞬だが奴のスピードに追い付くことが出来ない。
「古川!魔操盾術だ!」
瞬が掠れた声を振るわせる
「ダメです!もう使えません!」
しかし返されたのは死を待つだけしか出来ないという非常な答えだった
ジャガウォックは狼型の悪魔です




