大合唱
「やめろ野呂!」
俺の声が届くことはなくどんどん事態は悪化していく。キキの突然の行動に違和感を感じ、ラパンパラの唸りモーションに気が付いたが一足遅かった。
俺のミスが仲間を死の恐怖へと駆り立てる。鼓膜を破られたガーディアン達の盾が機能しなくなり陣形が崩れる。
丸裸同然の後衛に木上のキキ達が長い舌を乱雑に振り回す。しかし溶けて死んだ仲間の面が脳裏を過り、ガーディアン達は動けなかった。
ガーディアンは鼓膜を放棄してキキ達から自分の身を守る。しかし自分だけだ。本来自分と魔術師の両方を守る筈のガーディアンは決死の2択で全員が自分の防御を選んだ。
死を目前にして初めて知る己の醜さ。真後ろの仲間を死に晒すガーディアンの姿はラパンパラの容態とは比べ物にならない程醜い。
『コーカスシールド』
瞬の叫びが響く。その手には魔道書が握られていた。本来剣士である瞬は防御系魔術を使うことができない。魔操剣術は攻撃系の魔術しかバリエーションがなく、こんな時のために瞬は魔道書を常備していた。
「柳瀬!ヒール!」
俺達を囲い混むように張られた障壁の中で瞬が叫ぶ。その声色に余裕はなく、冷静な瞬が珍しく怒鳴る。
2番目に襲われた奴はキキに貪られて既に骨だけになっていた。これではヒールの対象外だ。
仲間が治療される中、障壁に亀裂が入った。ここまで瞬は魔操剣術を温存する気でいた。ボスが徘徊型の場合、倒してからでないとそいつがボスなのか判断できない。
もし魔操剣術を使って倒した結果、チャームが鳴らなかったら、恐らくボスで苦戦することになる。ボス前で使うということは中ボスが既に手強いということ。更に手強いボスを手負いの状態で勝つなんてことはほぼ不可能なのだ。
しかし瞬に選択の余地は残されていなかった。コイツがボスであることに賭ける以外に助かる道はない。
『魔操剣術 血雷矢』
瞬の大剣の剣先が水の張った地面に突き立てられる。仁王立ちする瞬の頭上が突如曇天に変わる。
刹那、視界が一瞬真っ白に光り、その数秒後に遅れて轟音が鳴り響いた。辺り一面が火の海と化す。
一瞬の内に大量の雷が地面に降り注ぎ、大量のキキとラパンパラが落雷に貫かれた。木から落下してきた悪魔達を俺達は一斉に叩く。
壊れかけの障壁を自らで破り、木から落下してきた悪魔達を俺達は一斉に叩く。全員にヒールが渡ったことと、瞬の一撃で全員が正気を取り戻したのだ。
俺も迫りくる悪魔を蹴散らしていく。この状況ではバベル達を召喚することができない。只でさえコイツら全員が天断ギルドの人間なのだ。
不知火凛に村長殺しのことを知られている以上、更に詮索されるのは御免だ。
さっきの一撃が悪魔にも隊にもかなり効いているようだ。みるみる内にキキ達が殲滅されていく。先ほどと違いどうやらキキの数はこれが限界だったようだ。俺達はキキを蹴散らして徐々にラパンパラに迫る。その時
「フゥオッフゥオッフゥオッフゥオッフゥオッ」
ラパンパラが突如奇声を発し始めた。先程のような野太い声ではなく跳ねるようなリズムで上空へ叫んでいる。
明らかに俺達への攻撃でないことを察した瞬は何かが起こる前にラパンパラを仕留めようと決める。
「何かしたが何か起こる前にケリをつけるぞ!」
俺達はとうとうキキを全滅させ、安全圏にいたラパンパラと対峙する。奴は近距離攻撃が苦手なため懐に入ってしまえば此方のものだ。
ドンドンドンドン
バコッバコッボコッ
ピーギョロロロロピーヒョー
ウォッウオッウオッウオッ
ジャリジャリジャリヌポッ
後一歩でラパンパラを仕留められるところで俺達の手が止まる。突然大合唱が始まった。しかもその音を一種類ではなく何種類もの生物が奏でている。
その大合唱は徐々に大きくなっていきクライマックスへ突入した。
大地が揺れる
空が振動する
水面が波打つ
木々がざわめく
この湿地帯に生息するあらゆる悪魔達が群れを成して俺達に襲いかかってきた。
「一旦退避だ!」
瞬がそう叫ぶも既に逃げていないのは瞬だけで、皆が来た道を駆け出していた。俺達は必死に逃げるが、悪魔に全方向を囲まれていたので既に退路は断たれていた。
ガルゥゥゥゥゥゥゥ
前方からジャガウォックがその強靭な牙をむき出しにして此方を睨む。
後退りする俺達を後ろからの鋭い視線が貫いた。
ラパンパラを先頭に無数の悪魔達が此方に迫っていた。どうやらこの湿地帯の主は奴だったようだ。
俺は覚悟を決める。こうなった以上バベル達従僕に頼らなければこの量の悪魔を殲滅するのは不可能だ。決心した俺が腕を上に振り上げようとした、その時
「ウボォォォォォォォォォォォォ」
ラパンパラの後ろからこの日一番の唸り声が鳴り響く。遅れてやってきた"そいつ"は群れる悪魔達を蹂躙した。後ろにいる悪魔達の断末魔が響き、ラパンパラが後ろを振り替える。
しかし"そいつ"の姿はなく視界に広がるのは悪魔の死体だけ
ボゴン
突如上から重い一撃が振り下ろされ、奴の頭が地面に叩きつけられた。ラパンパラの上に着地した"そいつ"は繰り返しラパンパラの頭を殴り続ける。
両手の指を絡ませた鎚はとうとうラパンパラの頭蓋を撃砕させた。"そいつ"の腕は赤く染まり、ゆっくりと身体を持ち上げる。
奴は辺りの悪魔を一瞥し、最後に俺達を睨んだ。
「未確認か…………」
瞬がそう溢した。俺達の前に突如現れたのは腕が4本のマウンテンゴリラだった。体躯はラパンパラを張るかに上回っており、全身が真っ白な毛皮で覆われていた。
奴は鼻から白い鼻息を吹き出し、毛皮を逆立てた。前腕を地面に突き立てたゴリラ特有のポーズを取って、周りに威嚇を振り撒く。
この状況で俺達ハンターに残された選択肢はコイツらと戦う以外に残されてはいなかった。
チャームとは徘徊型のボスが死んだ時にそいつがボスでしたよと知らせてくれる魔道具です。




