失敗したことがないという危険性
透道徹の初登場は5話になります。分からなかったら読み返してくださいね
俺が集合場所に到着すると既に人集りができていた。そして、よく見ると知っている顔が一人。
「綾小路君かい…………」
「透道さん、お久しぶりです」
まさかこんなところで透道に出くわすとは思わなかった。彼とはサークルセネピード戦で共闘して以来だ。
「あの時の傷は完治したんですね」
「お陰様で戦線に復帰してB級に昇級しました」
「そうだったんですか」
「僕あれから天断ギルドに入って2番隊に所属することができたんですよ」
「ではここにいる皆さんは天断ギルドの2番隊のハンターなんですか」
「そうです。でも今回は兄貴が来ていますので万が一にも攻略できないなんてことはないですよ」
俺達が話していると透道の背後から知らぬ誰かが近づいてきた。
「こんにちは、今回のゲートの指揮を執る透道瞬です。よろしくお願いします」
「綾小路傑です。此方こそよろしくお願いします」
透道瞬は天断ギルド1番隊の副リーダー、順トップに位置するハンターだ。トップの不知火凛の代わりに公の舞台に立つのは彼の役割なので世間に顔も知れている。そして目の前で話す透道徹のお兄さんに当たる存在だ。
兄弟揃って天断ギルドなんて親御さんたちは鼻が高いだろう。
「以前弟がお世話になったみたいだね。改めて感謝するよ」
どうやらサークルセネピード戦でのことを知っているようだ。報道ではボスは徹が倒したことになっているが本当は俺が倒したのだ。それを知っているということは大方弟の徹から聞いたのだろう。俺は謙遜気味にお辞儀した。
「それではこれよりB級ゲートの攻略を始める。皆心してかかるように」
瞬の一声で隊の士気が上がる。流石天断の2番隊だ、各々が修羅場を潜ってきただけにゲートに入る前から面構えが違う。
俺達はゲートに足を踏み入れる。
ギィヤァァァァ
ココポッッココポッココポッ
ピューヒョロロロロピューポッポックルルッ
ボォォォォォォォ
「まずいな」
開始早々、悪魔達の呻き声が響き渡る。そして降り立った俺達の足には泥が絡み付いていた。膝元まで水が張っており、オオオニバスがそこら中に浮いている。
しかも大樹がそこかしこから伸びており、枝木が俺達の頭上を覆い尽くしている。ここで悪魔に襲われれば苦戦を強いられることになるだろう。
「まずはこの湿地帯を抜けるぞ。全員はぐれないように注意しろ」
俺達は列を成して進む。泥を押し退けてかれこれ30分ほど進んだが、視界に写る景色が変わる気配はない。
その時、湿地帯全域に響き渡っていた悪魔達の鳴き声がピタリと止む。突如訪れた静寂の中、瞬の合図もなく全員が円型の陣を組み構える。
俺の首筋を一筋の汗が滴る。何度味わってもこの瞬間の張り詰めた緊張感には慣れることができない。
静寂の中に微かな音が響いた。それは次第に大きくなり、俺達の前に姿を現す。
「ラパンパラだ!」
俺達の目の前に現れたオランウータンはその醜く肥大化した腹部を揺らしながら木々を伝って此方に近づいてきた。
奴の身体を覆い尽くす毛並みは鮮やかなオレンジ色をしており、その長い腕は体長の3分の2くらいある。
しかも奴の身体に無数のキキがしがみついている。コイツらとはホワイトアウト戦で遭遇して以来だが、あの時とは別にラパンパラを親分に据えているようだ。
ラパンパラの体躯は4m程あり、頭上の木々を伝う奴の影が俺達を覆い隠す。そして奴が身体を震わせたその時、大量のキキが俺達の頭上から振り落とされた。
「来るぞ!」
瞬の掛け声で陣が起動する。ガーディアンが盾を円型に並べて後衛を囲む。瞬たち前衛は各々がキキを蹴散らしていく。
そして魔術師以外は誰一人として、魔操術を使用していない。使用できないわけではなく、ボスまで温存しているのだろう。
瞬の剣捌きは見事なもので複数体のキキに纏わりつかれても冷静に対処している。
統率された陣形は連携と各々の技術やフィジカルだけでキキの群れを殲滅していく。その間もラパンパラは木の上で一人腹を掻きむしっているだけで此方に攻撃を仕掛けてこない。
キキの中でも舌を絡ませて攻撃してくるキキと近距離から爪の切り裂きで攻撃してくるキキの2種類に別れていた。しかしキキ相手の定石として近距離のキキから先に殲滅していくというルールがあるのだ。
キキの前衛を狙った舌攻撃を魔術師が確実に打ち落としていく。前衛と後衛が完全な連携を見せていくなか、メンバーの中で少しずつある疑念が浮かび上がってくる。
何故か倒しても倒してもキキの数が減らない。隊員達がそれに気が付く中、地面には死体だけが増えていき、足場が不安定になっていく。
「焦るな!一体一体仕留めていけ」
減らない悪魔に対して次第に焦りを感じ始めていたメンバーを瞬は鼓舞する。この状況で一番まずいのは混乱による自滅なのだ。
減っていないだけで依然押しているのは此方だ。このまま続けていけば負けることはない。
しかしこの混乱にトドメを差すように前衛の一人がキキの舌に搦め捕られる。巻き付かれた頭皮が音を立て溶かされて行き一瞬で頬骨が露になる。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「騒ぐな!柳瀬、ヒールを掛けろ!」
必死に混乱を押さえ込もうとする瞬だったが、2番隊は今までダンジョンで失敗したことは愚か、誰一人として重度の怪我を負ったことさえなかったのだ。
そして無意識に生まれた副リーダーの参加という心の油断をキキは見逃さなかった。一人が怪我を負ったことでカバーに入るもう一人の前衛。
その瞬間、他のハンターの相手をしていた周辺のキキがカバーに入った前衛を一斉に囲むように攻撃を仕掛ける。
戦況は実に1対12。カバーに入った男は呻き声をあげながらキキの群れに埋もれて消えていった。
ここでガーディアンの一人が仲間を庇うため、キキの群れに突っ込んだ。
「やめろ野呂!」
瞬の叫びも虚しく、男は盾を前に構えてキキの群れに突っ込む。それと同時に円型の城壁に一点の穴が開いた。
一人のガーディアンの欠員で後衛を守っていた陣形に乱れが生じる。その時、キキ達が一斉に木の上に駆け登っていく。その瞬間、この後に待つ最悪の事態を予見した瞬は1人ラパンパラに跳躍して突っ込んだ。
「ボガァァァァァァァァァァァァァァ」
木上でふんぞり返っていたラパンパラが突如、野太い唸りを上げた。その唸りは俺達の身体にずっしりとのし掛かる。明らかに魔力が乗っている奴の唸りに鼓膜が悲鳴を上げた。
瞬の刃は寸手のところでラパンパラには届かず、地面に叩きつけられた。それと同時に仲間達の耳から血が吹き出す。
「お前ら魔力で鼓膜をかば」
瞬が仲間に声をかけたその時、瞬自身の耳からも血が吹き出した。瞬は確かに鼓膜を魔力で覆っていた筈だ。ラパンパラとの戦闘では鼓膜の保護は基本事項だった。しかしそれを突き破って鼓膜にダメージを与えてくる。
上位個体
同一の悪魔でも、ダンジョン別に強さが異なっている。強さの定義はフィジカルであったり、魔力量であったり、エリアの環境に順応した結果の形態変化であったりと様々である。
しかし今回の場合はその併用型、フィジカルと魔力量の強化はハンターにとって一番の驚異となった。




