禁縛のゲート
俺は暗闇の中で意識を取り戻した。
「何だここ」
俺は手足を動かしてみるが地面を踏みしめる感覚がない。そしてここに来るのが3度目であることに気が付く。
「零門か」
追憶のゲート零門。名前が長くて言いづらいから零門と呼んでいる。しかし何故いきなりここにいるんだ。俺は直前までの記憶を遡る
確か、天断ギルド本部を出てからそのまま家に帰った。そして疲れていたから早めに寝た筈だ。ということは夢の中なのか………
零門に初めて来た時も確か病院のベットで寝た時だったな。俺が思考を巡らしていたその時
【現肉体の魔力的順応値の規定値到達を確認】
【現肉体の活動停止状態を確認】
【只今より禁縛のゲートが開かれます】
【立入りますか】
【はい】 【いいえ】
俺の目の前に選択肢が現れる。まるで追憶のゲートのようだ。だが今回のゲートは禁縛のゲートと言うようだ。
俺は今回は迷わず【はい】を選択する。恐らく前回の追憶のゲート同様、報酬がある筈だ。あの時の報酬を考えるとやらない選択肢はない。
すると俺の目の前に突如ゲートが出現した。どうやらこれが禁縛のゲートのようだ。俺は足を踏み入れる。
「でかいな…………………」
ゲートを潜った俺が目にしたのは4つの巨大な扉だった。横並びに4つ並び、どれも大きさが20mくらいある。そして扉は太い鎖で何重にも固定されていた。
俺は正面の扉に近づく。しかし何も起きない。どうやらまだ何も始まっていないみたいだ。俺は扉に触れてみる。
◆ 禁縛【覇】◆
【解縛不可】
俺が触れた瞬間、扉に文字が浮き上がった。羅列の最後に解縛不可の文字。恐らく4つの内、挑戦できるのは限られているのだろう。俺は残りの3つを全て確認していく。
◆ 禁縛【冥】◆
【解縛可能】
◆禁縛【覇】◆
【解縛不可】
◆禁縛【一】◆
【解縛不可】
◆禁縛【悦】◆
【解縛不可】
右から順に【冥】【覇】【一】【悦】の順番で扉が並んでいた。そしてその内、挑戦可能なのは【冥】のみ。
俺は【冥】の扉の前に立ち、右手を扉にかざした。すると更に文字が浮かび上がる。
【解縛可能です。解縛しますか】
【はい】 【いいえ】
俺は【はい】を押す。
【解縛中は『呪楔』を使用することができません】
【解縛に失敗すると呪縛の魔神と呪楔を結ばれます。それでもよろしいですか】
【はい】 【いいえ】
中ではバベルや亡霊を呼び出すことができないということか。バベルの欠員は痛いが何とかなると信じよう。
そしてもし負けた場合、俺が呪縛の魔神と呪楔を結ぶということは、バベル戦の時のように身体の主導権を奪われ、俺が呪縛の魔神の従僕と化すということだ。
ならば絶対に負けられない。負けは"死"と同義だ。しかし最初に魔力的順応値が規定値を満たしたとか言っていたので負け試合というわけではない筈だ。
俺は意を決して【はい】を選択した。すると扉に掛かっていた鎖が一瞬で闇に消えて、扉が開き始める。俺はその奥の無限の闇に飲み込まれた。
「ここは……」
太陽がギラギラと輝きを放っている。そんな中、俺が目を覚ましたのは新雪の上だった。ふかふかの絨毯に横たわっていた俺は辺りを見渡す。
そこかしこに木が立ち並び、辺り一面雪で覆われている。まるでホワイトアウトが通った後のように雪が降りしきっていた。
俺はその林の中を歩いていく。どれだけ歩いても見える景色は木と雪だけ、一向に変化がない。俺の足跡だけが雪に残る
そして目的地も分からずただ直進していると前方に黒い物体が見えた。この白銀の世界の中で唯一黒く塗りつぶされている"それ"は何か振動しているように見える。
俺は更に距離を詰める。すると真っ黒い大型犬のような狼のような獣が尻尾を左右に降って大人しく座っていた。大きさはだいたい俺と同じくらいだ。だから犬にしては大きすぎる。
その黒は深みがあり、雪とのコントラストを感じる。
見ると新雪に首から取れたであろう鎖が埋もれていた。俺達は互いに見つめ合う。その間も犬はずっと尻尾を降っている。
その真丸な瞳と目頭まで裂けている口だけが真っ白く染まっている。舌が垂れ下がり、鋭利な牙が剥き出しになっていた。
「なんか少し可愛いな」
耳を垂直に立てて此方を見るその姿はお座りを覚えたお利口な犬にしか見えなくなってきた。こんな可愛いのが本当に悪魔なのか………
そんなことを思っていると犬は真横の大木目掛けて走り出した。そして次の瞬間
「っ!………………」
突如俺の真後ろから姿を現した。俺はその姿をずっとこの眼で見ていた。にも関わらず奴が通った大木の反対側から奴の姿が出てくることはなく、まるで木の裏にワープゲートがあるのではないかと思うような移動を見せた。
前に転げるように回避して奴の姿を追う。しかし俺の視界に奴を捉えたときにはもう既に眼前に迫っていた。
俺は腰から雪陽花を抜いてそのまま奴の開かれた口内に縦に差し込んだ。奴に覆い被せられながらも何とか噛みつきを押さえ込んだ。しかし差し込んだ雪陽花が既に軋みをあげている。いくらなんでも早すぎないか………
俺のそんな疑念も虚しく縦に突き立てた雪陽花がへし折られた。そして折られた片剣を咀嚼し始めた。鉄の塊を喉に通した大型犬は、俺にのし掛かったまま頭にかぶりつこうとする。雪陽花が一瞬で折られたことを考えると俺の頭は煎餅のようにバリバリと噛み砕かれるだろう。
『スワップケープ』
俺は不知火から受け継いだ魔術を無詠唱で発動する。すると、俺と犬の位置が逆転した。俺に覆い被さっていた犬が今度は俺に覆い被さられる体勢となる。
スワップケープ
対象と接触している場合のみ、その対象と座標を入れ替えることができる。




