お茶好きですよね
まさか彼女が天断ギルドの人間だったとは……てっきり黒薔薇だと思っていた。
「此方です」
俺は彼女の後ろについて行く。乗せられたエレベーターは地下2階から上は48階まであった。上からの景色は京都の街を一望できるほどに壮大な眺めだった。
そしてエレベーターは上り続け遂に47階を通過した。この上ってことはまさか………
「着きましたよ」
開かれたエレベーターの扉からは黒光るソファが見え、その奥に机が一つ置かれていた。そして彼女は部屋に入るなりお茶を1人分淹れて俺に差し出した。そしてソファに腰掛けて俺にも座るよう促す。
「私の名前は不知火凛。天断ギルドの代表者を務める者です」
「まずは貴方の名前を教えてください」
彼女の名前に聞き覚えがあった。不知火凛、そう言われた瞬間不知火千影を思い浮かべた。そして初めて彼女を見た時から感じていた違和感。それは彼女が不知火千影の妹であることを意味していた。
当時、順トップだった不知火千影の妹が天断ギルドのトップを継いだという話は知っていた。だが本人がまさかこんなに近くにいたとは驚きだ。
そうすると余計にその凛々しくも美しい表情からは先程のテンパる姿は想像できない
「綾小路傑です」
「綾小路さんですね」
彼女は話を聞いている間も俺から目を話さない。どうやら探りをいれてきているようだ。
「貴方の役職は何ですか」
「双剣使いです」
「分かりました。では、先日のゲート後どちらに向かいましたか」
やはり村長の件を探っている。どうやら天断ギルドが独自に調査しているようだ。だがここでボロは出さない
「そのまま家に帰りました」
「3人とは一緒に帰りましたか」
「いえ、ゲート前で解散しました」
「そうですか………」
ここで彼女の質問が一旦途切れる。そして考え込むような顔をして俯く。そしてゆっくり此方を向いて話し始めた
「単刀直入に聞きます。貴方は村長が死んだことをご存じですか」
「いえ、始めて聞きました。そんなことがあったんですね」
「ご存じないですか………村長の死因はうなじを切られたことによる出血死でした。そしてその切り口から犯人は剣、それも小振りの剣を使ったと考えられます」
彼女の顔付きが変わる。その鋭い瞳が俺をとらえて離さない
「喋れ」
彼女の口から乱雑な言葉が吐かれた。その言葉には魔力が込められていて俺に開口を強制した。
俺が村長に使った物と同じ魔術。それは不知火千影の魔術でもあった。あの書庫で魔道書を読んでこの魔術を会得した俺同様に、彼女が使えても何らおかしくはない。何せ彼女は不知火千影の妹なのだから。
俺は彼女から放たれた呪詞を魔力を放つことで霧散させた。魔力に対抗できるのは魔力だけだ。
しかし今の動作で俺が犯人だとばれてしまったわけだ。何せ今の行為は真実を話せないということの裏返しでもあるからだ。彼女が呪詞を使った時点で俺の敗けは決まっていたのだ。
「分かりました。俺が殺しました」
これ以上続けても無意味だ。恐らくこの現場は録画されている。元々俺に自供させるためにここへ招いたのだろうから取られていない筈がない。
30分前の俺に言ってやりたい。逃げてでもその女についていくな、と。
「動機はなんですか」
彼女は俺に村長を殺した動機を訪ねる。そんなのは一つだ
「俺を殺そうとしたので殺しました」
俺はありのままを伝える。ハンターの仕事は悪魔を殺すことだ。そしてあんなもの人間とは呼ばない、悪魔だ
「そうですか、分かりました。ですが私はこの事をどこにも話すつもりはありません。私が個人的に知りたかっただけです。勿論この現場の録画、録音もしていません」
彼女から信じ難いことが告げられる。俺の殺人を黙認すると言ったのだ。自分で言うのもあれだが彼女の立場的にそれはどうなのだろうか。
「村長が死んだのは私と西園寺さんしか知りません。そしてこの件は私が一任されています。ですが勘違いしないように、殺人は許されることではありません。しかしあの村長がアブソルゲートのことを黙認してハンター統括本部に虚偽の申告をしていたことも事実。そして私は貴方の行いにどうこう言える立場ではないんです」
彼女が俺にどうこう言える立場でないとはどういうことだろうか。まぁそれはさておき、どうやら俺は牢屋に行かなくて済むようだ。
「そうですか…………えっと、ありがとうございます」
「やめてください、私が殺人に関与してるしてるみたいじゃないですか」
あながち間違ってはいないが余計なことは言わないでおこう。2人の間に気まずい空気が流れる。俺はこの場から消えたい一心でソファから立ち上がる。
「では、俺はこれで」
「お茶最後まで飲まれていかないんですか」
俺がエレベーターへそそくさと向かっていくのを彼女は止めた。先程ハンター統括本部で一杯飲んだのにまた飲まされるのか。というか何で俺の分だけお茶を淹れたんだ
お茶は嫌いじゃないが一日に二杯連続で飲むほど好きでもない。何となく断りづらくソファに座り直してお茶を啜る。
まだ三分の二は残っているお茶に自分の顔を映しながら、それをじっと見つめる。そして何故か彼女も俺のお茶を見つめている。
「あの…………何ですか」
「へ?……………あっ…………いえ………」
再び彼女が挙動不審になる。どうやら彼女はお茶を見ると精神が不安定になるようだ。俺は残りをぐぐっと飲み干した。
「美味しかったです」
「それは良かったです」
俺はその場で彼女と別れてエレベーターで降りた。俺は外を眺めながらこの景色を毎日見ることができる彼女を羨ましく思った。




