挙動不審な女
各々が退出する中、俺は出されたお茶を飲み干してから帰ろうと思い席を立たずにいた。そして目の前に座る女性も何故か帰らずに座っていた。
皆退室して俺と彼女の2人だけが残る。
彼女の湯呑みにお茶はもうなく、何故残っているのかよく分からない。しかもそれだけではない。
俺がこの部屋に入室してから今まで、ずっと彼女は此方を見ていた。チラチラと横目で見ていたが、なんだか怖くて目を向けることはできなかった。
そして意を決して始めて彼女を見る。すると偶然目が合った。俺はこういう時、目を逸らしたりしないよう心がけている。なんか負けた気がするからだ。
そのまま軽く会釈をするが彼女はすぐ目を逸らす。そして彼女があのアブソルゲートの時、西園寺の隣にいた女性だと気が付いた。
やはり彼女も黒薔薇ギルドの一員なのだろうか。西園寺といるということはそういうことだろう。メディアへの露出を拒まない西園寺はよくテレビで見かけるが、その時いつも側近で見かけるのは別の女性だ。
ほぼ初対面なのに何故こんなに睨まれているんだ。
まさか………
この女、俺が村長を殺したことに勘づいたのか。いや待て、俺だという痕跡を残した筈はない。じゃあ何故こんなに………
俺はゆっくりと視線を彼女に向ける、すると再び目が合う。なんだこの中学生カップルの付き合いたてみたいなのは、だんだん恥ずかしくなってきたぞ。
俺は意を決して彼女に問いかける。
「………あの、どうかしましたか」
これが俺の自意識過剰だったなら恥ずかしすぎる。当分は人混みを歩けないほどの羞恥レベルだ。
「え……あっ…えっと…………その」
彼女は声を掛けられると思っていなかったのか挙動不審な反応を見せる。変な人だ
「なんでもないです」
彼女はそう言うと足早に席を立った。そして鞄を置き忘れる。
「あの、鞄忘れてますよ」
「え……あぁ、ありがとうございます」
やはり挙動不審だ。
西園寺さんが気に掛けるハンターというからどんな人なのかと思ったけど、掴み所が無さすぎる。
今のところ障りのないことを言っているだけ。至って平凡なE級ハンターとしか私は思えなかった。
ボケーっとした顔は何を考えているのか分からない。というか何も考えてなさそうだ。だから尚更西園寺さんの目に留まる理由が分からない。
私はチラチラとタイミングをずらして彼を観察する。特に此方に気がつく様子もなく、茶を啜っている。
一度でも村長を殺した犯人だと疑った自分がバカらしく思えてしまう。でも残りの二人も人を殺すような人とは思えない。
でも動機を考えると、自分達を間接的に殺そうとした村長への報復しかない。となるとやはりこの3人しかいないのだ。
でも、その誰かが村長を殺していなかったら間違いなく自分が殺していただろう。姉を殺された怒りを止めることができなかった。私も人のことを言える立場ではないのだ。
だからその誰かには少しだけ感謝している。それと同時に自分の浅ましさを実感するのだ。
会長の口から解散が告げられ皆が席を立つ中、彼だけはまだ茶を啜っている。ぼんやりと彼を眺めていると、ふと目が合う。
まずい………今まで完璧に観察できていたのに油断した。ついじっと彼の姿を凝視してしまった。
「あの、どうかしましたか」
その時、突然彼の方から声をかけてきた。予想外の呼び掛けに思わずしどろもどろな返答をしてしまった。
あぁ……なにやってんだ私。いつもは緊張せずに誰とでも話せるのにビックリして変なこと言っちゃった。変な人だと思わないでください………
「なんでもないです」
私はそう言い直して足早に退室しようとした。一刻も早くこの恥ずかしい空間から逃げ出したい。そう思った矢先、再び彼に呼び止められる。
「あの、鞄忘れてますよ」
見ると机に私の鞄が置かれていた。余りに焦って持ってきた荷物を置いてきてしまった。彼から向けられる視線が痛い。挙動不審な奴だと思わないで!いつもはこうじゃないの!
私は赤く茹で上がった顔を隠すように俯いて今度こそ部屋を出た。
お茶を飲み干した俺は一番最後に応接間を出た。すると先程の彼女が廊下で俺を待っていた。あんなに急いで出ていったのにまだ何かあるのか
「この後お時間ありますか」
彼女は俺に向かってそう言った。そしてその表情に先程の焦りはない。嫌な予感がする。ここは一度断るべきだろう
「すいません。この後ゲートの予約が入ってまして」
本当は入れていないが彼女にそれを知る術はないだろう。
「あなたが今日ゲート予約を取っていないことは確認済みです」
前言撤回、知る術はあったようだ。だが単なる鎌掛けかも知れない。しかしこの場に呼ばれている以上彼女も天断ギルドか黒薔薇ギルドか、ハンター統括本部の人間だ。
施行日が今日のゲート募集を全ての確認すれば確かに可能だ。この自信に満ちた顔は真実なのか、それともブラフか………
「分かりました」
ここは一度折れておこう。いっそ今回で疑いを晴らしてしまおう。俺達は本部を出て、車に乗り込む。行き先は聞かされていないが重大な内容なのは間違いない。
あの場で話さなかったということは他の誰にも聞かれたくない話なのだろう。やはり村長のことを勘づかれたか………
車はある高層ビルの前で停車した。そしてそのビルにはでかでかと剣と翼のエンブレムが描かれていた。
「天断ギルド本部………」
思わずそう口にしてしまった。




