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報い

「なんだここは」


隣の西園寺さんがそう溢した。数多のダンジョンを攻略してきた彼でさえここまでの惨劇を見たことはなかったようだ。


かくいう私もこの光景に言葉一つ出てこない。一体このゲート内で何が起こったと言うのか。


視界一面に広がる十字架。そしてそこに括りつけられた人間の亡骸。皆干からびたように死んでおり、防具を着た状態のままだ。恐らくハンターだった者達だろう。ざっと見ただけで三百人はいる。


「どう思う不知火」


「…………これだけの数のハンターが一度に編成されることはありません。恐らくこのアブソルゲートは何年間も存在しているのかもしれません」


「俺もそう思う。だがそんなことをハンター統括本部が知らないのもおかしい。考えられるのは2つ、まず短期間の間に偶然ゲートが複数回開かれたという場合、そしてもう一つは中の悪魔がゲートの開閉を調節可能な場合だ。」


「どちらもあり得ない話ですね」


「そうだな。だがそうでもないと説明できない」


西園寺さんが言うことは最もだ。一度攻略されたゲートは生態系の回復に長い年月がかかると言われている。だから短期間に同一ダンジョンが複数回ゲートで繋がることはあり得ないのだ。


ダンジョンと地球がゲートで繋がる条件はダンジョン内の魔力量が規定値を満たした場合だとされているからだ。


そして2つ目、此方は一つ目より可能性はある。だがそれはアブソルゲートの完全上位互換の存在を認めることになる。


8年の月日を経てアブソルゲートはそこまで進化したのか。


そしてその場合、尚更あの編成隊で攻略できたことが疑問だ。B級2人にE級1人。8年前のアブソルゲートはA級並みの魔力量が測定された。つまりその上位互換となるとS級に限りなく近くなる。


分からない。だがこの先に何か手がかりがあるかもしれない。


「行きましょう」


「あぁ」


私たちはひっそりと佇む廃屋敷へと進む。道中で悪魔に遭遇することもなくすんなりと屋敷にたどり着いた。


「ボロいな」


「そうですね、しかも中から魔力を感じませんね」


私たちは屋敷に侵入する。そこには大量のプレートアーマーが散乱していた。


「ここで戦闘があったようだな」


「そのようですね」


私は散らばったプレートアーマーを一片拾い上げた。そしてそのプレートアーマーに見慣れた紋章を発見する。


「これは………………天断ギルドの防具です」


「何だって!?」


二人は顔を見合わせる。驚愕の事実に言葉が出てこない。


「ということは西園寺さんが言っていたことはあらかた間違いではありませんね」


「………そうなるな」


自分で言っておいてまだ信じられないようだ。そして散乱した防具の先で開かれた一際大きな扉に目を向ける。


「なんだあれ」


同じように扉の先を見つめていた西園寺さんから疑念の声が零れた。私たちはその開け放たれた扉をくぐり抜け、その光景を目にした。


「まるで書斎だな」


「ボス部屋にこんな本が並べられているなんて…………」


二人は天を仰ぐ。遥か上まで続く螺旋階段と円柱型の書斎。壁一面に敷き詰められた本はボス部屋の雰囲気を感じさせない。


「あれ………………」


「あ?なんだあれ」


そして二人は気が付く。部屋の隅に転がった物体に。近づいてみると人間の頭部のような形をしていた。だが顔面が焼け爛れていて誰なのか認識することはできない。


「人間ですね」


「そうみたいだな………それにしても長い髪だな」


認識できないほどの損傷を負った頭部からは不自然に黒い長髪が伸びていた。まるで長年手入れされてきたように滑かな髪の毛。この人間は女性だったようだ。


不知火はその頭部をじっと見つめる。そしてあの人の笑顔が無惨な燃え殻に重なる。そこには不知火凛にしか分からないことがあった。


長年跡を追い続けたから


その長い黒髪に憧れたから


大好きだったから分かること


分かってしまったこと



「これは姉です」


「え?」


西園寺の思考が一瞬停止した。隣の不知火から告げられた言葉。この酷い残骸が不知火千影であるという戯言。


しかし振り向いた西園寺の目に映った彼女の顔を見て、それが真実なのだと悟った。その瞳から一筋の涙を溢し、ただただ姉の骸を見つめていた。


今もこの世のどこかでひっそりと生きているのではないかとという凛の淡い願いは今この瞬間潰えた


胴体はなく、生首が無造作に転がっている。これが最強の魔術師の最後だ。そして凛の愛した姉の最後だった。


「ごめんなさい、行きましょう」


「…………あぁ」


平然を装った彼女の言葉。しかし涙だけは拭っても拭っても止まることはなかった。彼女は振り返えることなく先に屋敷を出た。


そして不知火千影の死によってあることが浮き彫りになった。


「村長さんの証言は偽証ですね」


「そうなるな」


村長は不知火千影の失踪時に、ハンター統括本部に不知火がゲートから出てきたと証言していた。だが中で彼女の死体が見つかったことでそれが嘘であると判明した。







その時、不知火が突然走り出した。そしてその行動が意味することは



「待て不知火!落ち着け!」


「ごめんなさい」


不知火は確実に村長を殺そうとしている。そしてこのままでは彼女を人殺しにしてしまう


「ハンター統括本部に任せよう!!」


「ダメなんです!私………もう…………」


不知火は物凄い早さでゲートへ駆け出していく。このままでは彼女は本当に殺してしまう。必死で止めようとする西園寺だったが、先に不知火がゲートを潜る。


「待て不知火!」


俺の声が彼女に届くことはなかった。急いで追うようにゲートを潜った西園寺は渡り廊下へ進む不知火の姿を捉えた。


「不知火!」


そして彼女がある一室の戸を開いた時、ピタリとその動きを止めた。すぐさま追い付いた西園寺は不知火に覆い被さるように彼女を床に叩きつけた。


「一度落ち着け不知火!お前の姉はそんなことを望んじゃいないぞ!」


必死で説得する俺だったが、不知火は俺を全く見ていなかった。そしてその目線は何故か開かれた扉の先をじっと見つめていた。


西園寺は不知火の視線を追うように首を回す。そしてそれを見た


「………村長さんですよね」


「………ああ」


そこにはうなじから喉元まで掻っ切られて卓に頭を突っ伏して死んでいる村長の姿があった。









そしてその卓上には村長のとは別にもう一つ空の湯呑みが置かれていた。

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