共犯者
「あれ………俺……戦ってた………」
「…………」
二人は頬を軽く叩くとやっと目を覚ました。奴が死んだ時点で幻術は解ける筈なんだがそのまま眠りこけていたのか何なのか。
「二人で骸骨を倒したみたいだな」
「…………なんかアイツが突然ボロボロと崩壊し始めて、気づいたらここに倒れてたんですけど俺達が倒したんすかね」
須藤が頭を抱えるなか、友瀬は此方を睨む。
「あなた途中からいませんでしたよね。どこ行ってたんですか」
どうやら幻術中で俺は消えていたようだ
「魔術で姿を消しただけだ。足手まといになるのは御免だったからな。悪かったな」
「いいえ!E級だから仕方ないっすよ」
須藤は何の疑いもなく俺の話を信じ込んでくれた。二人ともあれが幻術中であったことに気が付いていないようだし、このままやり過ごそう。
「ボスを倒したんだ、早くここを出よう」
俺達は扉を出た。そして二人とも隅に転がっている不知火の頭に気が付いた様子はなかった。
道すがらこの後の事を考える。このゲートがアブソルゲートだと、ここにいる三人とも知っているため隠し通すことは不可能だろう。口裏を合わせることもできるが、納得させられる理由がない。
2件目のアブソルゲート発生として日本国内に知れ渡るのも一瞬だ。そうなった時に注目されることは避けられないが二人を隠れ蓑に使えばなんとかなるだろう。
どうあがいても俺はE級なのだ。まさかE級であることに感謝する日が来ようとは。まぁそもそもB級2人とE級1人でアブソルゲートを攻略できるかどうかも怪しいところだが
そしてもう1つだけ決めかねていることがある。それは不知火千影の存在だ。
突然姿を眩ました不知火はこのゲート内で殺されていたことが判明した。そしてそれを知っているのは俺だけだ。
もし不知火千影の存在をハンター統括本部に報告すれば、不知火千影が失敗したダンジョンを俺達が攻略したと露見してしまう。
俺達が不知火達よりも強いということになってしまうのだ。これは明らかに怪しい。非情だが俺は彼女の死を無かったことにすると決断した。彼女には永遠に最強の魔術師であってもらわなければ困る。
「アブソルゲートを攻略したなんて俺達一躍時の人っすね」
「余りに拍子抜けだったけどね」
俺達は十字架を抜け、ゲートに到着した。そしてゲートを抜け、現世に帰還した俺達を待っていたのは村長ではなかった。
「なっ…………………人間」
何故か此方に大剣を向けて構えている男と此方を凝視する女の姿があった。二人とも口を半開きにして此方に驚愕の表情を向けている。
俺はこの男を知っている。というか知らない人間はいないだろう。
西園寺豪
ギルド黒薔薇のトップを張るS級ハンターだ。黒薔薇と言えば、先日の徳仁達も黒薔薇の一員とか言っていたが何か関係がありそうだ。
しかし不味いことになった。隣の女は知らないが西園寺にこの現場を見られるのは不味い。その時、西園寺が何処かに電話を掛け始めた。
「あぁ、俺の勘違いだったようだ。至急要請を撤回してくれ……………あぁ了解」
西園寺は電話を切り、此方に向き直る。俺は西園寺に何か聞かれる前にここを去ろうとする。
「聞きたいことは山ほどあるが、ボスを倒してからどれくらい経った」
不味い、最悪だ。考えられる選択肢の中で一番不味い。西園寺は自分でこのゲート内を確認しようとしているのだ。だからボスが倒されてからの時間経過を知りたがっている。
空かさず俺が応えようとするがここで横槍が入る。
「20分くらいっすかね」
須藤、前言撤回だ。頭のネジが緩すぎるのも問題だな。須藤は自慢げな顔で西園寺に答えた。
「そうか、ありがとう」
二人は一直線にゲートに入っていった。こうなったらもう彼らを止める術はない。まぁ不知火の頭は焼き切ったし、本人だとばれる心配はないだろう。
しかしあの女性は誰なのだろうか。西園寺と一緒にいたということは黒薔薇の一員なのか。その凛とした顔立ちと、どこか儚げで愁いを帯びた瞳はどこかで見たことがある気がしたが分からなかった。
「ではここで解散ということで」
俺達はゲート前で解散した。二人が帰路に着く中、俺にはまだやらなければならないことがある。
俺は戸を開き、渡り廊下に出る。そしてある一室に人の気配を感じて、その部屋の戸を開いた。
「……………………お帰りなさいませ」
俺を出迎えてくれたのは村長だった。そしてその顔に映った一瞬の動揺を俺は見逃さなかった。コイツの中では俺はゲート内で死ぬ筈だったのだろう
「どうぞ此方にお座りください。今お茶をお出ししますね」
老夫はゆっくりと立ち上がり、俺にお茶を注いでくれた。そして向かい合う俺達に静寂が訪れた。そしてその静寂を破ったのは俺だった
「不知火千影」
俺はポツリとその七音を口に出した。単なる誰かの名前。しかし老夫にとってみれば一番知られてはいけない名前でもある。
「その方が何ですか」
老夫はしらを切る。まるで全く存じ上げていないような顔をして此方を見る。己の不死のために三百の命を犠牲にした鬼畜。コイツは最早人間ではない。こんな奴のために日本の宝、いや、一人の若き魔術師が命を落としたのだ。
そして何より俺を殺そうとしたこと。それだけで万死に値する。
「お前は不死を条件に悪魔と手を組みここに来るハンターをアブソルゲートに送った、そうだな」
「はて、なんのこ」
「喋れ」
「その通りです」
あの悪魔の言っていたことは本当だったようだ。思わず老夫は両手で口を塞いだ。勝手に喋り出した口は真実を語る。
「今までにどれだけのハンターを見殺しにしてきた」
「346人です」
「なかなかの大罪だな」
「契約日は」
「6年と5ヶ月前です」
「随分前からやってるんだな」
俺は事細かに喋らせる。奴との話に食い違う点はない。確定だ、コイツが共犯者で間違いない
「お茶どうも、美味しかった」
俺は立ち上がり奴の後ろを横切って退室した。




