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断末魔の叫び

テンペスト

それは嵐を意味する。

その厄災は万物を乱し、絡め、蹂躙する。発動者の意のままに物体を操り、支配する。不知火はページがめくられる度、己の内で数万とある魔道書を解析していた。


凡人には到底成し得ない妙技を彼女はいとも容易くやってのける。ヒールの常時詠唱を軽くこなす彼女にとって魔術が1つから数万になったところで作業行程が増える以外の意味を持たなかった。


不可能は無い。まさしく神の所業だ。彼女は頭のなかで解析した魔術を再構築していく。全ての魔術を一つに組み替えることで、単なる魔術の寄せ集めは一つの玉として磨かれる。


そして今ここに魔術の最高峰が更新された。



『ゼノヴァ』


奴の口にした術名はこの世に存在しない術名だった。


火炎、凪、氷結、電雷、大地、光、闇黒、あらゆる魔術の複合体。しかしこの魔術はこれらのどの特質にも属さない。



『虚無』



それがこの魔術を形成していた。概念すら存在しない零次元の極点。全と無が共生する位相。故にそれは虚実の全であり、虚実の無なのだ。


その魔力規模を数値化することは不可能である。強いて例えるならば、次元そのものを破壊し、再構成するほどの力を宿しているといったところだ。



次第に不知火の身体にブロックノイズが掛かり始める。奴の身体の細胞を蝕み、魔核を破壊し、新たな生命体へと遺伝子情報を組み換える。


「₩マココニ……$ラ$ナル………¥€$ノ……◇ンジョ$ヲ」


不知火の声にも酷いノイズが掛かっている。ブロックノイズは奴の全体を覆い尽くし、存在自体がバグと化す。


俺の身体は超重力で軋みをあげながらも奴を見据え雪陽花を構える。身体の制御が効かない状態で刃を奴に当てるのは至難の技だろう。


だがあのバグすらも取り込んだ姿を見るに、俺が防ぎきれるような魔力量ではない。恐らく一撃でも貰えば致命傷になる。


俺に残された手段は一つ。圧倒的理不尽に対して、唯一の対抗手段。理不尽に立ち向かうのはいつの時代だって反逆者だけだ。




奴の駆けた空間にブロックノイズが伝播していき、最短距離で俺に突っ込んできた。


これは一種の賭けだった。奴が遠距離攻撃を選択した場合、俺に残されたのは"死"のみ。


しかし奴は数多の選択肢から近接を選ぶ。それは己の手で俺に直接死を下したいという好奇の表れであり、本能のままに動く悪魔そのものだった。


だが同時にそれは俺にとって唯一残された一筋の光明でもあったのだ。


反逆者はいつだって死と隣り合わせだ。俺はぶれる腕を強引に振り抜き、奴とのタイミングを合わせる。ここで決める


『リベリオン』


奴の握り拳が俺の溝尾を捉えた瞬間、俺の体内を蝕む程の膨大な魔力が俺の振るう腕へと駆ける。内側からはち切れそうな感覚に陥りながらも、どうやら乱数の神様は俺に微笑んでくれたようだ。


タイミングは紙一重。奴からの衝撃と俺の振り抜きは同時に到達した。そして一つの衝撃だけが対象を消し飛ばした
















俺の腕が消し飛んでいた



「なっ…………………………」



確かに同タイミングで振るわれたはずの2つの衝撃。だが俺の刃が捉えたのは奴ではなかった。


俺の腕は次元の亀裂を通過し、俺自身の肩を貫いていた。


「空間転移………………」



古来よりこの世界では、様々な魔術が研究、解明されてきた。複数の要素が絡み合いながら複雑な魔術も魔道書という書体に変換され、人々の利用しやすい形へと変貌を遂げてきた。


しかし幾星霜の時を経てしても、その変換が不可能とされた魔術がある。


それを人々は『虚術』と呼んだ


原理上は可能な筈なのに人間が行使するには余りに緻密で複雑すぎる。66年と浅い歴史の中、天才と呼ばれる神童達は数多く現れたがその内の誰一人として解明出来なかった魔術。四大魔術を表とするのならば、虚術は裏だ。


そしてその一つが空間転移である。

平たく言えばワープだ。ある領域を境に現位相と他位相を繋げる魔術。人間の脳の処理能力では不可能とされたこの魔術は、不知火の智力と悪魔の肉体を器とすることで現実の物となった。


片腕を失った俺にブロックノイズが掛かり始めた。しかし俺の場合、新たなる生命体への進化などではなく、存在の消滅が始まっただけだ。


不知火は俺の頭を片手で持ち上げて敗北者に語りかける。


「オレ$………カテト……₩レルコ¥……$ホコリ€₩モエ」


俺は残された片腕で奴の腕を振り払おうとする。その瞬間、奴の腕から禍々しい魔力が流し込まれる。俺の三肢が悲鳴をあげていき、激しい血飛沫を撒き散らしながら炸裂した。


余りの激痛で俺の意識が飛ぶ。しかしそれを好しとしなかった奴は強制的に俺の意識を覚醒させた。


「オキロ………ワ$シニ₩€ゴノダン¥ツマヲ………キ₩$テクレ」



奴は俺の頭を握る手にゆっくりと上方の力を籠めていく。俺の首が音を出しながら徐々に伸びる。


「あぁっあぁぁぁぁ………ぁぁぁだぁああ」


俺は奴の期待に応えるように悲鳴を上げた。首の血管がブチブチと千切れていき、首の骨が縦に外れた。


奴の表情が徐々に明るみを帯びていき、終いには抱腹絶倒な笑い声を上げる。


「ソウダ………₩レダソ$……モ¥$サ₩ベ」


俺の首が限界を向かえる。

骨と皮膚が全て分裂し、首がとれる。口を開き、白眼をひんむく。


一頻り笑った不知火はその手に握られた人間の首を放る。何度見ても人間の最後は面白い。先程まで威勢よく吠えていた奴が絶叫をあげながら生を懇願する姿は格別だった。


不知火は地面に転がる人間の亡骸を再び見つめる。だがやはり滑稽以外の感情は出てこなかった。



「ナ₩ダ……」



その時、奴の視界が歪む。ブロックノイズとはまた別のバグ。次の瞬間、不知火の意識は暗闇に飲まれていった。























まるで幻から覚めるように

1日二回投稿か一回投稿かは決めてません。でも1日一回を目安として頑張ります!

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