発覚
私は正直ここを早く去りたいと思っていた。姉を思う気持ちは今も変わらない。だがこの村にいると姉がいないことを思い知らされる。
私は未だに姉の影を追っているのかもしれない。髪を切ったところで新しい自分になれるわけではなかった。
そしてこの村の村長はいつも笑顔で話しかけてくれる。だがその笑顔がどうしても気味悪く映ってしまうのだ。姉の失踪を悲しんでいた私に慈悲を向けてくれたにも関わらず私はそれを疎ましく思ってしまう。
だが西園寺さんの頼みを無下にはできない。私が辛いとき支えてくれて、天断ギルドの次期トップに推薦してくれたのも彼だ。この人には返しても返しきれない恩がある。
「分かりました」
「ありがとう。ここには私用で来ていてね」
「どうしたんですか」
「最近私が目を付けているハンターがこのホトトケ村でE級ゲートに潜ってからまだ戻ってきていないんだ」
「そうなんですか、でも少し長引いているだけじゃないんですか」
「今日という日にホトトケ村に集められ、編成人数は3人だ。君には悪いがまるで三年前を模しているように」
「……………」
不知火の顔が陰る。
「まぁ恐らく俺の考えすぎだがな、村長にゲートの場所を聞いて一目見たら帰るさ」
二人は村長の家の呼鈴をならす。一分ほどして中から老夫が出てきた。
「おお、お久しぶりです西園寺さん、それから不知火さん」
「ご無沙汰しております村長さん」
「今日は何のご用ですか?」
「この村に発生したゲートに今朝向かったハンターが未だ戻って来ていなくてですね」
「…………あぁ、確かにまだ姿を見せていませんね」
村長は笑顔を絶やさず西園寺に答える
「ゲートの場所を教えていただけますか」
「…………分かりました。こちらです」
不知火はその張り付けたような笑みが苦手だ
俺達は連れられるがまま渡り廊下を進む。あの日も確か、ゲート発生場所はこの家の中だったと聞いている。いや、まさかな
「こちらになります」
俺達が通されたのはこの家の一室。そして正面の戸が開かれ、それが姿を現す。
「なぁ!?」
「………………」
俺達が目にしたのはブロックノイズが掛かったゲートだった。通称アブソルゲート。そして8年前に初めて現れてから一度も観測されていなかったゲート。
これが不知火の失踪や綾小路と無関係であるはずがない。この場所でいったい何が起きているのか。そしてあの日、何が起きていたのか
「早瀬!至急ハンター統括本部に連絡しろ!アブソルゲートだ!」
「今やってます!」
不知火はこれを目にしてからまだ一度も口を開いていない。その顔は放心状態で、彼女が何を考えているのか俺には分からなかった。
「くそっ!」
先ほどから何度も刃を奴に当てている。だが奴の常時発動のヒールを上回る火力を出せてはいない。バベルと俺で数的有利の状況を作ったがそれでもまだ足りない。
残り29体の亡霊達はこの戦いに付いてこれないだろう。無駄死にさせるわけにはいかない。俺の右腕の振り抜きと同時にバベルが槍を放つ。奴は俺の右腕をいなした後、バベルの槍をもろに受ける。右肩が穿たれるが、即座に穴は塞がれた。
どうやら俺とバベルの警戒度合いは俺の方が上のようだ。
そして雪陽花は二段階ゲージまで溜まり、刀身が紅に染まる。
俺はいなされた勢いをそのまま脚に乗せる。後ろ回し蹴りが奴のうなじを直撃し重心がしたに傾く。
『於上不葺御門 6基』
一度使用した魔術は全て身体が覚えている。俺は奴の動きを固定するため鳥居を奴の頭上から振り下ろす。
奴にとって一番不味いのは攻撃をもらうことではない。攻撃をもらう十分な隙を与えてしまうことだ。
ある程度の攻撃はヒールによって許容できる不知火にとって拘束系の魔術は致命的だ。動きさえ封じれば特大の一撃を与えられる。
ミノタウロスが三門で10秒程度ならコイツの拘束時間は六門で2秒程度かそれ以下か。
『シェリアスペール』
駄目押しの一発。うつ伏せで床に固定されている不知火と床の間につららを形成させ固定する。
今の俺が持つ瞬間火力を、全解放した魔力で包み込んで奴の後頭部へ打ち込む。春の到来をバベルは覚えているのだろうか。
『死季 春』
俺の振るう刀身の先端の一点から、凝縮された魔力が放出される。バベル戦では単なる爆破だったが、刀身に纏わせた俺の魔力によって爆破は漆黒を纏っていた。
奴のヒールが間に合わないほどの瞬間火力には十分だろう。お釣りが来るほどだ。俺は攻撃の手を緩めない。双剣をしまい拳に切り替える。
人型の場合関節が多い分、弱点が多く存在している。そしてその部位への攻撃は切り裂きよりも打撃の方が通りがいいのだ。
俺は地面に伏したままの不知火の後頭部へと繰り返し拳を振るう。頭蓋が陥没しては回復を繰り返しているが徐々に俺の拳が押し勝ち始めている。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は乱雑に、それでいて一撃一撃に殺意を込めてその拳を振るう。その時、回復が追い付いていないはずの奴からあり得ないスピードの拳が飛んできた。
うつ伏せだった奴は身体を捻りあげ、俺に遠心力を交えた拳を振るった。
「がぁっ………………………」
あり得ない。頭蓋を陥没させられても尚、どこにそんな力が残っているんだ。壁に打ち付けられた俺は奴の姿を捉える。
一瞬で移動した不知火の手にはバベルの頭が握られていた。奴はバベルの胴体を脚で踏みつけ、こちらに頭を投げる。
「外野には死んでもらったよ」
奴から感じる覇気が先程までと桁違いに膨れ上がっている。
『重加操術 十五門』
奴の笑みと共に、俺は従僕を殺した相手に頭を垂れた。床に頭がめり込み、必死に腕で身体を起こそうとするが爆音を立てて全身が地面に埋まる。
「魔力を隠していたのがお前だけだと思ったか。お前はまだまだあの女には遠く及ばないようだな」
最早奴の声など聞こえない。空気が重力によって波を形成し、喧々たる雑音を書庫内に響かせていた。
「…………がぁ…………っ……………………」
それでも俺は潰れそうな脚で立ち上がる。身体をうまく制御できず千鳥足で不知火を見据える。
「まだ立ち上がるか。ならば盛大な褒美をくれてやろう」
不知火はこの超重力を無視し、床から天へ舞い上がる。
『テンペスト』
奴が両手を広げ天を仰ぐと同時に書庫内の全ての本が宙を舞いだした。そして本が独りでにページをめくり出す。
「せめてこれも幻であることを願うんだな」
不知火は遥か上空から俺を嘲笑うように見下ろしていた。




